第24話 手がかりを追って
マーレボルジェ内、昼時の酒場。
人はまばらに座っていて、半分の席が埋まっている。
来店したのは、白スーツ姿のジェノと黒いバニースーツ姿のメリッサだった。
「いらっしゃいな、お二人さん。ちょうど、ランチやってるよ」
お団子ヘアーの黒髪に、赤いチャイナドレスを着た店員が出迎えてくれる。
「あ、えっと――」
確か、前に来た時に接客をしてくれた人だ。
ただ、今回は、ご飯を目当てに来たわけじゃない。
「三次試験について、知ってることを教えてくれないっすか?」
少し言いそびれていると、メリッサはドストレートに目的を告げた。
「……サンジシケン? 何言ってるか分かんナイね。注文ないなら帰るよ」
ただ、そう簡単にはいかず、店員は首を傾げている。
(注文ないなら、か……。もしかして、これって)
帰る選択肢も頭によぎったけど、一つ思いついたことがあった。
「うん? 聞いてた話と違うっすね……」
「ランチ、二つください。一つは肉抜きでお願いします」
「はいな! ランチ二つ、一つ肉抜きね! 席は空いてるとこ座るとイイよ」
戸惑うメリッサをよそに話を進め、店員は活気よく注文を通していった。
「ありがとうございます。――さぁ、メリッサも立ってないで座ろうよ」
言われるがまま、席につき、呆然と立ち尽くすメリッサに告げた。
「む、確かに、そろそろ腹ごしらえしてもいい時間っすね」
初めはきょとんした顔だったけど、席についていく。
「……って、違うっす! 飯を食いにきたわけじゃないっすよね!!」
でも、椅子に腰かけた瞬間、なぜか、メリッサは大声を出した。
「……ひぅっ!!?」
同時に、ガタッと何かが倒れる音と、情けない声が聞こえてくる。
後ろを振り向くと、白黒の巫女服に、腰に刀を携えた黒髪の女性が転んでいる。
「急に大声出さないでよ、メリッサ。――すみません、大丈夫ですか?」
事の発端となった張本人にお灸を据えつつ、転んだ女性へ手を差し伸べた。
「……こ、こ、こ、こないでっ」
手は拒絶され、前髪が長いせいか、目線は合わない。
ただ、嫌われてしまったのは、なんとなく分かった。
「――喧嘩か? 喧嘩アルか? 揉め事だったら、加勢するよ」
そこに、店員が現れて、仲裁するどころか、加勢するとか言い出した。
「違います。喧嘩じゃないですから……たぶん」
「おい、そこの女。お得意さんが、困ってるアル。何とか言うね」
女とお得意さん。明らかに対応に差があった。同じ客なのに。
恐らく、ヴィータ払いで貸しを作ったから、肩入れしてくれてるんだろう。
「……え、えと、えとえと。こ、こ、転んだ、だけ、です」
言葉に詰まりながらも女性は立ち上がり、椅子を戻していった。
「ちっ。次、騒いだら、我の八極拳でぶっ飛ばすよ。いいね?」
店員の警告に、女性は冷や汗を浮かべながら、こくこくと頷いている。
「分かればよろし。お得意さん、また揉めたら気軽に呼ぶね」
騒ぎはそれでいったん収まり、ひとまずランチを待つことにした。
◇◇◇
「お待ちどー。こっちが肉抜きで、こっちが肉有りね」
運ばれてきた皿には、細かく刻まれた山盛りのピーマンとタケノコ。
今日のランチはチンジャオロースだった。メインの牛肉は当然ない。
「肉抜きのチンジャオロースって、それ……くくくっ」
独特なツボにはまるメリッサをよそに、
「店員さん。追加で注文したいものがあるんです」
ジェノは、懐から黒貨を一枚取り出し、店員を呼び止めた。
「駄目よ。お代はこの前、頂いてるアル。あと九十八食分は無料ね」
すると、店員は貸しがあるせいで、断ろうとしてくる。
こうなることは、読めていた。だから、問題はここから先だ。
「これは食事の分じゃなくて、これから聞く情報の分です。受け取ってください」
この行為が、情報を引き出すために必要な通過儀礼だと信じて。
「……何を聞きたいか?」
やっぱり、そうだ。さっきと対応が明らかに違う。
「三次試験について教えてくれませんか?」
「受け取るね。ここの二階の扉に『チャーハン米抜き』と頼むとイイよ」
黒貨を受け取った店員は、耳元でそっと囁いた。
やっぱり、注文できるのは料理だけじゃなかったみたいだ。
「……なるほど。二階でチャーハン米抜きと頼めばいいんですね!」
試験に一歩、近付けた。そんな実感から、嬉しさで声を張り上げてしまう。
「……はぅっ!!?」
すると、背後から物々しい音と、情けない声が聞こえてくる。
後ろを見ると、先ほどの黒髪の女性が、椅子から再び転げ落ちていた。
「アイヤ! それは、大声で言っちゃ駄目よ!」
「ごめんなさい。嬉しくて、つい」
「まぁ、許すよ。ただ、そこの女。次、騒いだらぶっ飛ばす言ったね?」
「……あ、ぅ」
矛先は黒髪の女性に向き、顔色を曇らせていた。
とばっちりにもほどがある。なんでもいい。早く止めてあげないと。
「……ま、待ってください。彼女は恐らく、椅子からこける病なんです!」
そこで出てきたのは、あまりにもつたない嘘。
通るわけがない。そう思いながら、店員の表情をうかがう。
「……病気なら仕方ナイか。命拾いしたな、女。発作はほどほどにしとくよ」
すると、まさかの店員は矛を収め、捨て台詞を残して去っていった。
「すみません、ご迷惑おかけして。手は、いりませんよね」
「……だ、だ、だいじょぶ、です」
血色が良くなった女性は、立ち上がり、椅子を戻して席についていった。
「はぁ……なんか、どっと疲れたよ。メリッサ、今の話、聞いてた?」
「肉抜きの次は米抜き。チャーハンから米抜いたらネギだけ……。ふひひっ」
メリッサは自分の世界に入り、悦に浸っていた。こっちの気も知らないで。
「……駄目だ、聞いてない。こんな調子で、ダンジョン攻略できるのかなぁ」
先行きが不安になりながらも、食事を進めていった。




