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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第22話 スリーオブチョイス①


 草屋店内。中は、古びた雑貨屋のような場所だった。


 木材でできた棚がいくつもあり、入荷待ちと書かれた札が見える。


 ジェノは、カウンターの前にあった木の椅子に腰かけ、店主を待っていた。


「待たせたのぅ、若いの。早速じゃが、ルールを説明させてもらう」


 手には三つの宝箱を持っており、宝箱は、金、銀、銅、の三色。


 金が大きく、銀が中くらいで、銅が小さい、といった違いが見受けられた。


「お願いします」


「ゲーム名はスリーオブチョイス。この三つの中に一つだけ、お前さんが持っていた鍵と合うものがある。それを当ててみろ。ただし、挑戦できるのは、一回限り。失敗すれば挑戦権を失い、ここから出れんようになる。このわしみたいにな」


 三択を当てる。ただ、それだけ。


 ルールに文句はなかったけど、一つ気になることがあった。


「ここから出る方法って、試験をクリアする以外にないんですか?」


「あるにはある。資産、実績、貢献。いずれかに抜けるものがあればな」


「じゃあ、失礼かもしれませんけど、店主さんは諦めた、ってことですか?」


 と想像を巡らせて、浮かび上がった事実を、そのまま尋ねた。


「わしももう年じゃ。努力したところで、一握りの秀才や、天才には敵わんのよ」


 それに対し、店主は、やや表情を曇らせながら、答えた。


 言ってる意味はよく分かるし、こうなった経緯にも同情してしまう。


「俺が勝負に勝ったら、一つ約束してもらえませんか?」


「なんじゃ?」


「年齢を理由に、一握りの秀才や、天才になることを諦めないでください」


 言っても無駄かもしれない。そう思いながらも言わずにはいられなかった。


 関わった人が、不幸になっていく姿は、もう二度と見たくはなかったから。


「お前さんが負けた場合は、どうする?」


「出られる算段がつくまで、お店の手伝いをさせてください」

 

 負けても、リスクがなければ釣り合わない。


 それぐらいのことを頼んでいる自覚はあった。


「俺との勝負、受けてもらえますか」


「よかろう。ただし、この勝負、手は抜かんぞ」


「望むところです。俺だって負ける気はありませんから」


「ならば、互いの人生を賭けた勝負。二次試験の幕開けといこうか」


 誠意が伝わったのか、ここに勝負は成った。――後は、勝つだけだ。


「……早速ですが、これって、触ってみても構いませんか?」


 まずは小手調べ。どこまで許されるかの、ラインを見極める。


「構わんよ。ただし、持ち上げてもらっては困るがな」

 

 断れると思いきや、意外にあっさりと許可される。


 恐らく、触っても決定打にはならない、ということだろう。


 ただ、無駄かもしれないけど、情報は多いに越したことはない。


「分かりました。じゃあ、失礼させてもらいます――」


 そうして、金、銀、銅の宝箱を左から順に触っていく。


(……駄目だ。これだけじゃ分からないな)


 早々に見切りをつけたジェノは、すぐに店主へ視線を向けた。


「いくつか質問してもいいですか?」


「構わんよ。ただし、質問は三つまでじゃ。それ以上の質問は認めん」


 思ったより、手厳しい。質問は慎重に選んだ方が良さそうだ。


「どうした、不満か?」


 そう考えていると、店主は急かすように、尋ねてくる。


(この人の弱点は、怒らせること。って、メリッサ、言ってたよな……)


 ふと、ここに来る前に言われた一言を思い出し、思案を巡らせる。


「何回も聞かれたら負けちゃいますもんね。大の大人が、ただの子供に」


 胸が苦しくなりながらも悪口を言うと、表情が変わった。


「……小童が。あまり調子に乗ると、その指、一つ残らず刎ねるぞ」


 ザクと、カウンターには、刃物が突き刺さり、ギロリと睨まれる。


(見えなかった……。今のが、もし、本気だったら、今頃……)


 冷やりとした汗が背中を伝う。店主が手に握るのは、白柄のドスだった。


(いや、これでいいんだ……。手段を選んでいたら、この人には、勝てない)


「もし、俺が負けるようなことがあれば、差し上げますよ。小指を」


 この狂った世界では、狂っていることが正常。

 

 狂っていなければ、相手のペースに呑まれて終わり。


 だからこそ、あえて踏み込む。――自殺紛いの狂気の道へ。


「度胸だけは、一人前のようじゃのぅ。その言葉、二言はないな?」


「男に二言はありません。ただし、嘘だけはつかないでもらえますか?」


「よかろう。じゃが、はい、いいえ、分からない、のみで答えることとする」


 この店主、油断ならない。明らかに手慣れた対応だった。


 ただ、この形式は、昔、妹とよくやった水平思考ゲームと似ていた。


「それで大丈夫です。早速ですが、質問させてもらいますね」


 質問の定石は大きい分類から確定させ、小さい分類に絞ること。


 例えば、箱の中身が物質か聞き、正解なら、物質だと確定する。

 

 次に、物質の内容を絞る質問を重ねていけば、答えには近付く。


「――当たりが入った箱の中身を、あなたは覚えていますか?」


 だからこそ、あえて、定石を外した。相手の地雷を踏み抜くために。


(相手の弱点が分かっているなら、そこを突く。体を張る価値はあるはずだ)


 普通じゃ勝てない。定石で勝てるほど、この世界は甘くないことを知っている。


「はい。じゃが……お前さん、その程度の質問を続ければ、負けるぞ」


 一瞬、表情が強張っていたが、すぐに戻り、店主は呆れるように言った。


(これぐらいじゃ怒らないか……。でも、中身を知っていたってことは――)


「問題ありません。二つ目の質問です」


 ほどよい緊張感の中、ジェノは質問を続ける。


「――当たりが入った箱がどこにあるか、あなたは見えていますか?」


 瞬間、斬光が煌めいた。


「次、ふざけたこと抜かしよったら、その首、ないと思え」


 刃先は首元で止まり、店主は脅しをかけてくる。


「……次からは気をつけます。ただ、質問に答えていただけませんか?」


 気付かれないように唾を飲み込み、束の間の生を実感する。


(危なかった……。けど、その分の見返りはあった。次で、恐らく……)


 怖い。怖くて仕方がなかった。でも、ここまできたらやるしかない。


「……答えは、はい、じゃ。これでいいな」


 仕方なくといった様子で店主は言い、首元の刃は下げられる。


「ありがとうございます。次が、三つ目。最後の質問です」


 恐怖を気取られないように、ゆっくりと息を整える。


「……さて、聞かせてもらおうか、お前さんの最後の悪あがきを」


 言い方は優しかったけど、空気はぴりぴりしていた。


「これから言うことを、よーく、聞いてくださいね」


 こんな状態から、もし、悪口でも言えば、大変なことになるだろう。


「もったいぶらんで、はよう言わんかい」


 言い方が気に食わなかったのか、眉をひそめ、店主は機嫌が悪そうだった。


「――あなたは馬鹿ですか?」

 

 そんな中、堂々と言い放った。


 この場で一番言ってはいけない、極めてシンプルな悪口を。


「――野郎っ!!!」


 斬閃。店主はカウンターを踏みつけ、豪快にドスを薙ぎ払う。


 直後、大木をなぎ倒したような物々しい音が、店内に響き渡る。


「……忠告を破ったお前さんの負けじゃ」


 白鞘にドスを収めた店主は、崩れた棚に向かい、静かに言い放った。

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