第21話 草屋
メリッサの二次試験から一夜明けた朝。
朝焼けの光に照らされた石造りの街路を歩くのは。
「ふわ~、よく寝たっす」
真新しい黒いバニースーツを着たメリッサと。
「着替えなくてよかったの? もう従業員じゃないんでしょ?」
服装に突っ込みを入れる、白いスーツを着た少年、ジェノだった。
「こっちのが気合い入るんすよ。物を出し入れしやすいのもポイント高いっす」
「いや、それだったら断然スーツの方がいいと思うんだけど……」
「そんなことより二次試験の情報収集っすよ。商店街を片っ端から調べるっす」
視線を向けた先には、大通りと商店街が広がっていた。
「……って、言ってもさ。まだどこもやってないみたいだよ」
だけど、時間が早いせいか、人通りはなく、店が開いてる気配はない。
「そこのお二人、草はいらんかね」
どこかで時間を潰そうかと思った時、すぐ隣から、渋い声が聞こえてきた。
「うおっ!? いたんすね、人」
「良かった。開店してるところあったんだ」
驚くメリッサをよそに、ジェノは声がした方へ、視線を向けた。
看板には『草屋』と書かれている。どうやら、草を扱う店みたいだ。
「なんじゃ、お前さんか……。白々しい反応をしよってからに」
店前にいたのは坊主頭に白髭を生やし、紺色の和服を着た初老の店主だった。
「……はぁ、まだくたばってなかったんすね。何年生きるんすか」
どうやら、メリッサの知り合いだったらしい。
「相変わらず言葉遣いが終わっとるのぅ。あれほど指導してやったのに」
「余計なお世話っすよ。それより、質問があるんすけど、答えてくださいっす」
二人の関係性がよく分からないまま、メリッサは話を進めようとする。
「仕方ないのぅ、聞くだけ聞いてやろう」
「こちらの鍵に、見覚えがあったりしませんか?」
強引な気がしたけど、懐から金色の鍵を取り出し、尋ねる。
この鍵は、二次試験の『とある物資の回収』に必要なアイテム。
メリッサの読みでは、商店街のどこかに関係する店があると見ていた。
「……」
細目をわずかに開けて、真贋を見極めるように、店主は、鍵を見つめる。
「うむ。お主の質問、確かに聞き届けた。店番に戻らせてもらうぞ」
だけど、店主はそう言って、店の中へ戻ろうとしていた。
「……ちっ、この老害くそぼけじじい」
「どうやら、教育的指導が足りておらんようじゃな」
癇に障ったのか、店主は拳の骨をならし、手招きをしている。
「じじいの弱点は、怒らせることっすからね。うちは逃げるっす」
「弱点って――。はぁ、行っちゃった。勝手なんだから、もう……」
メリッサは早々に立ち去り、残されたのは二人。
「お前さん、あいつのツレなら、殴られる覚悟はあるんじゃろうな?」
すると、店主の怒りが収まっていないのか、矛先がこちらに向いてしまう。
「構いません。その代わり、彼女を許してやってくれませんか?」
「……よかろう。全力でゆくぞ」
「……お願いします」
ぎゅっと瞳を閉じ、殴られるのを待った。
「あれ? 痛くない?」
しかし、やってきたのはコツンという軽い衝撃。
「気に入った。中へ来い。二次試験を始めるぞい」
店主は疑問点を最低限の説明で済ませ、店内へ入っていく。
「い、今、行きます!」
それをなんとか頭で理解したジェノは、急いでその背中を追った。




