第20話 祝勝会
宿屋二階。木造りの部屋。
ベッド、テーブル、本棚、タンスと質素な内装。
「エレナの支配人就任と、うちらの勝利を祝ってかんぱーいっす!」
「「乾杯」」
そこに、ワイングラスが当たる音が、小気味よく鳴り響く。
メリッサの提案で、エレナの寝床に押しかけ、祝勝会を開いていた。
「羨ましいっすねぇ。将来が保証されたようなもんじゃないっすか」
「正直、荷が重いよ。いきなり、裏社会の武器流通のトップって……」
ただ、その主役であるエレナの顔色は暗い。
どうやら、嬉しさより、不安の方が勝っているみたいだった。
「「……」」
重い空気が流れ、ふと、メリッサと目が合った。
「ま、まぁ、そんなことより飲むっすよ!」
「よ、良かったらお酒お注ぎしますんで!」
祝勝会という名の、エレナの機嫌を取る会が始まっていった。
◇◇◇
「ふにゃ~もうのめないれふ~」
酒を注がれるがまま飲み続けたエレナは泥酔していた。
顔を真っ赤にして、呂律が回らず、テーブルに突っ伏している。
「メリッサって、前世、何をしてたの?」
「家出と父親探しっすね。一言で言えば」
酒に匂いが漂う空間がそうさせたのか、メリッサの過去の話になっていた。
「反抗期ってやつ?」
ありきたりと言えば、ありきたりの理由だった。
特に、疑問を持たず、感じたことをそのまま何の気なく伝えた。
「そんな感じっす。最初は母親から逃げ切ることが目的だったんすけど、途中で気付いたんすよね。なんで嫌いな人が世界の中心になってんだ。ふざけんなって。だから、目的を変えたんすよ。見ず知らずの父親を世界の中心にしてやるって」
反抗期。一言で表せば、それで済んでしまう話だろう。
でも、違った。そんな簡単な言葉で終わらせていい話じゃない。
「……結局、父親には会えなかったってこと? ここにいるってことは」
だからこそ、話を掘り下げた。メリッサと真摯に向き合うために。
「そっすね。手掛かりなしのお手上げ状態で、ここに戻ってきたっす」
「記録とか何も残ってないの?」
「うちって体外受精で生まれたんで、父親の情報は秘匿されてるんすよね」
「ん? なにそれ? どういう意味なの?」
重要そうなことを言ったのは分かる。ただ、聞き慣れない言葉だった。
「あの、ジェノさんって子供がどうやってできるか知ってるっすか?」
「え? 子供って白鳥が運んでくるんじゃないの?」
「うわぁ……。ジェノさんって、一体、どんな教育受けてきたんすか……」
なんでもない答えにメリッサは引いていた。普通のことを言っただけなのに。
「どんな教育って、ちゃんと絵本で読んだよ。文字もそれで覚えたし」
「くぅ~穢れがなさすぎて目も見れねぇっす。なんて説明すればいいんすかね」
すると、なぜか、メリッサは、目を逸らして、頭を抱えている。
「……?」
でも、分からないものは、分からない。首を傾げることしかできなかった。
「あ~、もう! うちが教えてあげるっすよ! 正しい性教育を!!」
それが何かを刺激したのか、がしっと両肩を掴まれて、夜は更けていった。




