アヘ顔が汚すぎる女騎士は婚約破棄されても仕方ない
「エリザベートッッ!! 貴様の不埒な振る舞いにはもう我慢の限界だッッ!! 今この時をもって、貴様との婚約は破棄させてもらう!!」
「んほぉぉぉぉ!?!?!?!?」
今宵、派手に煌めく社交界にて、ボルタクス公爵の御子息であられるバルザス様から、婚約破棄を言い渡された私。
「そのアヘ顔にはとことん嫌気が差したぞ!! 今すぐにこの場から立ち去るが良い!!」
ザワつく御貴族の方々に取り囲まれるように、ポツンと私独り。
バルザス様の傍らには、剣術学校を共にした学友にして最大のライバル、ユアネスがピタリと寄り添っていた。
「聞けば貴様は剣術学校の卒業認定試験において、対戦相手であるユアネスに卑怯な振る舞いを行ったらしいな!? 裏は取れてあるぞ!!」
「な、何をそんな……!!」
その試験において大変優秀な成績を収めたところを、ボルタクス公爵様に認められ、私はバルザス様の結婚相手として声をかけられた。
しかし、バルザス様は私のことを好いてはいない様で、側に近寄る事すら禁じられ、会うときには仮面を着けるようにまで言い渡される始末。
私はバルザス様の御機嫌をなるべく損なわぬようにひっそりと暮らしていたのに…………。
「貴様に比べ、ユアネスのなんと不憫で美しいことか……!!」
「バルザスさま……」
確かにユアネスは容姿も端麗で、剣術も素晴らしい。あの試合も、私が勝てたのが偶然と言って良いほどに接戦だった。
ユアネスは校内においても人気者で、評判も良く、周りには常に人が多く集まっていた。
それに比べ私はアヘ顔が醜いと言われ、人から避けられ続けていた。そう言えば一人だけ熱心に私のことを質問してはメモを取り続けていた眼鏡の方が居たような……。
「そこまでだバルザス!!」
「誰だ!?」
ザワつく御貴族方の中から、一人の身なりの良さそうな、背の高く、それでいてしっかりとした体格の男性が声を荒げた。
男性は私とバルザス様の間へと割って入ると、私に向かってウインクをした。どちら様で…………?
「暫く見ない間に、兄の顔を忘れたか?」
「あ、兄上!?」
「ガルベスさま!?」
バルザス様に兄が一人居ることを話には聞いていたが、長らく放浪なされていて拝顔するのはこれが初めて。なんと凛々しく美しい横顔。思わず見とれてしまいそう。
「バルザスよ、エリザベートは卑怯な行いをしていない事を、この私がハッキリと言い渡す」
「何を根拠に兄上!!」
「実は、校内に私の知り合いが一人通っていてな。彼に詳しく調べて貰ったよ」
「エリザベートよ」
「は、はいっ……!?」
凛々しい御尊顔を頂戴仕りまして、誠に恐縮の極み……っっ!!
「メガネのしつこい男が居たろう。アレは私の後輩でな」
「もしかして……あの記者風のやたらプライベートな事まで聞いてきて、しかも『あの方は人使いが荒くて困る……』ってブツブツとうるさい眼鏡ボーイが……!?」
「ああ。彼に色々と調べて貰ったよ。ついでにな」
「……ついで?」
ガルベス様はバルザス様と向かい合い、そして大きく息を吸った。
「あの卒業認定における二人の試合には、仕組まれた罠があった」
「そうだ! ユアネスの模擬戦用の剣に重い素材が使われていた! そこのエリザベートがすり替えたんだ……!!」
「……バルザスよ。そのエリザベートの剣には、更に重い素材がすり替えられていた」
「──!?」
気がつかなかった……!
緊張でいつもより剣が重いような気がしたのだけれども、あれは気のせいでは無かったのね……!?
「そいつ自身がすり替えたのではないのか!!」
「それについては教員の一人が白状した。口止めが足りなかったなバルザスよ。金を惜しんで僅かばかりしか出さぬからだ」
「──クッ!!」
「念の為にと仕組んだ僅かな重りで、婚約破棄の口実を作ろうと企むとは……ほとほと見下げ果てた弟だ。追々父上から沙汰があるだろう」
「グッ……! クゥ……!!」
「さて、エリザベートよ」
「は、はいっ!?」
クルリと柔らかく振り向いたガルベス様は、ニッコリと笑ってみせた。後ろで小さくなってしまった二人が御貴族方に取り囲まれ姿が見えなくなってゆく。
「君には少し悪いことをしたと思っている」
「えっ?」
「好きな男性のタイプとか、初めてのアヘ顔とか、変な事を聞き過ぎた」
「……あの質問はガルベス様が!? 何故!?」
「初めて君のアヘ顔を見た時、まるで雷に撃たれたかのような衝撃を覚えた」
「んほぉっ!?」
思わず僅かに変な声が出てしまった。御子息様の前でお恥ずかしい限りだ。
……あれ? 初めて見たって……ガルベス様とお会いした事は無かったような。
「このメガネに見覚えは無いかな?」
ガルベス様がどこかで見たような眼鏡をかけた。
うん、完全にあの眼鏡ボーイだわ。
「気まぐれで訪れた剣術学校で、偶然アヘる君を見かけた。私はすぐに君の虜になってしまった。そして生徒のふりをしてずっと君の側へ居続けたんだ」
「な、なんという事……」
「エリザベートよ」
「んほっ!?」
凛々しい御尊顔にて見つめられ、たまらず変な声が漏れた。
「君が好きだ」
「んほぉぉぉぉ!!!!」
私の中で何かが弾けた。
御貴族方の面々の前にも関わらず、酷いアヘ顔をさらしてしまった。
「エリザベート、私と結婚して貰えないだろうか?」
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
自分でもよく分からない声が出た。
「そなたは実に美しい」
「んほぉぉぉぉ!!!!」