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僕の可愛いメイドは考える

ミリの繁殖期は十日で終わってしまった。

最後の三日間は、ずっと眠っているだけだった。

だから、ずっと添い寝していた。


「ダイダイ様、おはようございます!」

十一日目の朝、ミリはいつものメイド服を着て、何時ものように、ダイダイを起こしに来た。

繁殖期の時の事は、ほとんど覚えていないみたいだ。

「この次も、その次も、ずっと私が世話をするんだ。いつも世話をしてもらってるから、繁殖期は私が世話をするんだ」

うっとりとミリの後ろ姿を見ながら、夢見がちに呟いた。

パラトスは静かに言った。

「旦那様、ミリは今回は子供返りで終わりましたが、次回は相手を求めるかもしれません」

「相手?私が相手をするに、決まっているだろう。ミリは私のメイドなのだから。なんで、他の奴に、ミリを触らせるんだ」

不思議そうにダイダイは言った。

女の扱いだって、他の男より上手だ。

「・・・・・・旦那様、ミリは年頃の女性ですよ」

パラトスが静かに言う。

「何を当たり前の事を言ってるんだ?ミリも私が相手をしたら喜ぶ。私はミリの大好きなご主人様なんだ」

「仕事で主人に、身体まで捧げるメイドはおりません」

「ミ、ミリは、仕事だけで私の世話をしてる訳じゃないっ」

「後、数年も経てば、ミリも結婚相手を見つけて子供を産むでしょう。その時に、旦那様は邪魔をするおつもりですか?」

「ミリの子供?私が、邪魔・・・・?」

愕然とした。

「そうです。旦那様もミリの主人とおっしゃるなら、ミリにふさわしい相手を探してあげるべきです」

「ミ、ミリは、まだ相手なんていらないっ」

「旦那様」

「まだ、子供じゃないか。ミリが大人になってから選ばせればいいんだ。」

「ミリは繁殖期を迎えました。一人の女性になります」

「・・・・・・わ、私がミリに選ばれればいいだけだろう!ミリはまだ、成人していないから、私のメイドなんだっ」

胸の奥が、もやもやする。




「ミリ、髪の手入れをしてあげる」

ミリが夜の業務を終わって、部屋に戻ったのを見計らって、ダイダイはドアをノックした。

「ダイダイ様、主人はメイドの髪を結わないものです」

少し呆れたように困った顔で、ミリが言う。

ミリは寝間着姿だった。

「ミリは私のメイドだから、結うのは当たり前なんだ」

繁殖期が終わって、久しぶりの私の世話だったから、ミリはとても疲れていると思う。

事実、ミリはお風呂上がりなのに、髪も乾かさずに寝ようとしていた。

半ば強制的に押し入って、ブラシを持つと諦めたように、ミリがドレッサーの前に座った。

疲れてるのだろう

髪をといていると、うとうとしている。


ミリの髪をこうやって結ってあげるのは、男では私だけなんだ。

ダイダイはうっとりとしながら、ミリの濡れた髪を拭きながら、オイルを揉みこんでいく。

「ダイダイ様、一人で出来ます」

「後ろもちゃんと手入れをしないと駄目だ」

ミリの髪は艶々してとても綺麗だ。

まるで赤いベルベットみたいだ。

これは私しか知らない秘密だ。

ミリの髪は、内側からキラキラ光っていて、まるで宝石みたい。

こんな綺麗な髪、貴族だって持っていない。

「昼間は髪の毛が落ちたら駄目だから、帽子の中に入れておくんだぞ」

綺麗な髪は、私だけが見ればいい。

「はい、ダイダイ様」




1ヶ月経った。

近頃、ミリが遊び相手をしてくれない。

いつも休憩中は、屋敷の裏に行ってしまう。

野良猫に餌をやってるのは知ってる。

追い払ったら、ミリが悲しがるからしないけれど、私の相手よりも猫の方がいいのかな。

すごく嬉しそうに、猫のお腹を撫でていた。

もこもこ可愛いと言っている。

私の髪も撫でていいのに。私の髪も猫の毛みたいに柔らかいと思う。


猫と自分を比較して、悲しくなる。


「あ、ミリだ」

グラッセが執務室から、外を見ながら、呟いた。

ダイダイが慌てて、外を見る。

ミリがメイド服ではなく、薄い緑色のワンピースを着ていた。

茶色の丸い帽子を被っていて、髪は見えない。

子供というより、小柄な清楚な少女だった。


今日は、街の祭りだ。

様々な街の行商人も集り、広場の至るところでバザーや大道芸が催されている。

数日続く祭りに合わせて、家人たちは交代で休みを取って、街に遊びに行ってる。

「復活祭ですか。ミリも年頃だから、遊びに行ったみたいですね」

「何を言ってるんだ?ミリは着飾らなくてもいいんだ。ミリが可愛い事に気づいて、変な虫が寄ってきたらどうするんだ。ああ、行っちゃう。ミリを呼び戻さないと。後で一緒に行こう。ミリが好きな、屋台のお菓子を買わないと」

はあ、とグラッセがため息をつく。

慌てて引き留めようとするダイダイの裾を、グラッセが掴んだ。

「ダイダイ様も、ミリを気に入っているのは、わかりますが、そろそろご自分の相手を決めないと。ミリは契約奴隷だ。妾にはなれるけど、正妻にはなれません」

「・・・・・・」

黙り込んだダイダイに、グラッセはため息をつく。

「・・・・・ミリが私の妾になったら、私の世話をずっとしてくれるのか?」

その言葉に、眉根を寄せた。

妾にしてまで、世話をさせるのか?

「なに言ってるんですか。貴方の世話は仕事です。妾になっても働かせるんですか?正妻に準じた対応になります。部屋を与えられて、貴方の向かうのを待つ生活でしょうね。まあ、ミリが妾になれば、正妻に遠慮して控えめに生活してくれて、いいかもしれません」

契約奴隷としても、ミリはダイダイと違って、真面目で従順だ。

「では、それでミリの所にずっと居ていいのか?ミリに子供を、産ませればいいのか?」

ダイダイは戸惑ったまま、変な事を言い出した。

「正妻を蔑ろにするんですか?ミリが許さないでしょう」

「ミリは私の横にいないのか?」

「妾でしょう?わきまえて生活すると思いますよ」

「わきまえて?」

「控えめに、正妻を立てて」

その言葉に、ダイダイが青ざめた。

「・・・・・それでは駄目だ。ミリは動くのが好きなんだ。ミリは働きたい子なんだ。出ていってしまう。ミリに捨てられたら、私は生きていけない」

「反対でしょう。貴方は捨てるかもしれないが、奴隷が主人を捨てることはない」

「・・・・・ミリはいつ大人になるんだろう。それまでに、私を男として見てくれるかな」

「女にだらしないダイダイ様をですか?無理でしょう」

「無理、か?」

愕然としてるダイダイに、不思議そうに答えた。

「ミリを、駄目男好きにさせたいんですか?」

「ち、ちゃんと仕事してるぞ。それに見目もそんなに悪くないだろう?」

「女にだらしない」

グラッセが一刀両断した。

「・・・・・・」

思った以上に落ち込んでいるようだったので、グラッセはそれ以上何も言わなかった。




近頃、ジロフ家の娘であるサルビス嬢がうるさい。

ジロフは伯爵家で格下になるが、珍しい鉱山を所有しているから金は持っている。

政略結婚で、鉱山の利権を譲り受けたら、もっと業績があげられるかもしれない。


少し遊んだら、サルビスは、我が物顔で屋敷にも上がり込んできた。

まあ、サルビス嬢のきつい性格は嫌いではない。それに、胸もある。

金さえ与えて置けば、大人しくしている。

特に、真っ赤な髪は、ミリみたいで綺麗だ。

ミリの方が綺麗だけど。


正妻をと望まれるなら、ミリがならないなら、誰でもいい。


「ねえ、この指輪、綺麗ね」

サルビスは、男を誑かす術を知っている。

上目遣いの瞳は、嫌いではない。

「貴方に似合うよ。付けるといい」

「ダイダイ、嬉しいわ。これに似合う服も揃えていい?」

「勿論」

ああ、赤い髪には、金色の髪飾りがよく似合うな。

ダイダイは愛しげに赤い髪を見つめた。

今度、ミリにも作ってあげよう。髪飾りなら、帽子で隠れるし、作業の邪魔にならないから、

きっとミリも喜んでくれる。



ミリが近頃、相手をしてくれない。

すぐに仕事に移ってしまう。


サルビスを気にしているのか?

あいつは、世継ぎを産むだけだ。そういう約束になってる。

それに、まだ結婚も婚約もしていない。

パラトス達が、反対しているからだ。

何故、結婚結婚と言っていたくせに、そんなに嫌がるのだろう。

ミリ以外の相手だったら、誰でも同じじゃないか。



ダイダイは、ずっともやもやしていた。

ミリが相手をしてくれない。

ちゃんと受け答えをしてくれるのに、深く話してくれない。

私に笑ってくれない。

ダイダイはずっといらいらしていた。

それに、ミリは近頃、空いた時間は街に行ってしまう。

探らせたら、旅の行商人の所に行っているようだ。

王都から来た若い男らしい。馴染みの店に品物を卸していて、仲良くなったと聞いた。

外の世界を知らないミリは、とても好奇心旺盛だ。

私に言ってくれたら、何処でも連れていくのに。

ミリに尋ねたら、優しくていい人だと楽しそうに話してくれた。

私の方がいい男だと思う。

ああ、いらいらする。



だから、ミリが休憩中、屋敷の外に居たことに気づいて感情が爆発した。

嬉しそうに荷物を受け取って、帰る配達人に手を振っていた。

「ミリ!なんで知らない男と話しているっ!」

注文していた商品の受け渡しをしているだけだったのだろう。

私物だったから、外て受け取ったのかもしれない。

ミリは慌てて頭を下げた。

「・・・・・も、申し訳ありません」

「私以外に目移りなんかしてるから、仕事が疎かになるんだ!私より他の男の世話がいいんだろう」

「そんな・・・・・・」

「もういい。専属メイドなんていらない」

近頃、ダイダイは子供のように我が儘を言うようになった。

それは他愛なく。次の日には、忘れていた。

「・・・・・・」

ミリは元気が無さそうだった。

ダイダイはずっと、いらいらしていた。

少しぐらい強く言った方が、ミリが私のメイドとしての仕事を思い出すはずだ。

「旦那様は、わたしがいなくても、何でも出来ます」

噛みしめるようにミリは言った。

「当たり前じゃないか。さっさと行くぞ」

ダイダイは大股で歩きだし、ミリは慌てて後ろから早足で付いてきた。

「はい・・・・・・」




「旦那様、本日付けで退職するメイドがおります」

朝、食事中にパラトスが横に来た。

ミリの姿は見えない。厨房にいるのだろう。

昨日言った事を気にしてるのか。

あの後も、ずっと落ち込んでいたみたいだ。

ミリを悲しませてしまった。

後で街に連れて行って、お菓子を買って謝ろう。

大人げなかった。

髪飾りを買ってあげよう。

赤い髪に合う金色の髪飾りだ。

ミリが作ってくれるコンソメスープを飲みながら、ちろりとパラトスを見た。

パラトスは、いつも感情を出さない完璧な執事だ。

「わかった。よく労いをかけておくように」

「メイドの選定はいかがいたしましょう?」

「女のことは、よく分からないから、サルビスに一任する。あれは、一応候補の一人だし」

「・・・・・・わかりました。そのように」

パラトスは軽く息を吐くと、一礼して下がった。



午前の執務が終わり、軽く伸びをしながら部屋から出た。

「ミリ、街に出掛けるぞ」

ダイダイは前を向きながら、呟いた。

返事は無かった。

「?」

不思議そうに振り返ったが、扉の前には誰も居なかった。

「ミリ?パラトスの所に行ったのか?」

いつも、扉の前待っていてくれるのに。

変な胸騒ぎがした。


ダイダイは、足早に、家人たちが住む西側の従業員の部屋に歩いていく。

「ミリ、部屋に戻ったのか?」

ミリの部屋には誰も居なかった。

「ミ、リ・・・・・・?」

綺麗にシーツが折り畳まれて置かれている。

クローゼットや台の上は、何もない。

キラリと何かが光った。

小さなテーブルには、封筒と銀貨が置かれている。

「ミリ?なんで、手紙・・・・・?」

震える指先で、それを握りしめた。

ダイダイが慌てたように、屋敷中を歩いていた。

使用人たちは、あえて話しかけれないように、足早に仕事をしている。

ダイダイは、いろんな場所の扉を開けている。

「パラトス」

銀細工の食器を磨いているパラトスに、声を掛けた。

「なんでしょう、旦那様」

「ミリが居ないんだ」

ダイダイの目は、おろおろした挙動不審の瞳をしていた。

「・・・・・・」

「どこか出掛けたのか?ミリは私の専属だから、勝手に出掛けるのは許可していない。何処かで迷子になってるのかも」

戸惑ったように視線を四方に向けるダイダイに、パラトスは息を吐いた。

「ミリは、昨日付けで退職になっています」

その言葉に、ダイダイが大きく目を見開いた。

「はあ!?認めるわけないだろうっ!」

「・・・・・・朝、お話ししましたが。サルビス様から、旦那様も、辞めさせる事に同意したと聞きましたが?」

パラトスが無表情に答えた。

「い、いつもの、冗談だろう!ミリは、街に行ってるのか?部屋に行ったら、荷物も失くなっているんだ。手紙がっ!手紙があって!私が辞めさせたみたいになって!それに、私宛にお金が置いてあったっ」

「契約奴隷のミリのブレットリー侯爵家に返すお金でしょう?解雇と同時に退職金で相殺する予定でしたが、ミリは受けとりませんでした。残りは、仕送ると言付けを受けました」

「サルビスが、追い出したのか!」

はあ、とパラトスがまた、ため息をついた。

「旦那様が望んだのでしょう?あの女は、堂々と旦那様が、ミリに出ていけと言ったと。あの女狐は、正妻になると意気込んでいましたよ。すでに正妻気取りで、我々の仕事に口を出していますが。あれがいる限り、ミリをこちらに戻せません。ミリが危害を加えられます」

「危害?」

「あれは、旦那様がミリを特別と思ってらっしゃるのを分かっていましたから。ミリは我々が見ていない所で、散々虐められていたようです」

「虐められていたのか?」

ミリはいつも、にこにこしていた。

「気付かれていなかったのですか?」

驚いたように言われて、ばつが悪そうにダイダイが顔を歪めた。

「・・・・・叩き出せ。あいつはいらない」

「ジロフ家の後ろ楯は、いかがなさいますか?」

「そんなもの無くても、ブレットリー家は揺るがない。ミリは町に行ってるのだな?」

ダイダイは街に向かって走り出した。



数時間後、真っ青な顔をしたダイダイが屋敷に戻ってきた。

「ミリがいないっ!街にも、村の方にもいないんだっ!ミリが朝、旅馬車に乗ってたって。どうしよう、ミリが居なくなってしまった。どうして、ミリを出したりしたんだ!」

「ミリの希望でしたので、然るべき処置を致しました。後見人をブラッドリー家のダイダイ様から、別の方に代えております」

しらりとパラトスが言った。

「嘘だっ。ミリは私の側が一番好きなんだっ」

「旦那様、ミリが自分の意思で『外に出たい』と言ったのです。私は、それを手伝うだけです」

パラトスは責めるような強い瞳をして、無表情にダイダイを見ている。

これは秘密。

ブラッドリー家の当主とパラトスしか知らない事。

「・・・・・・」

ダイダイが絶望的な顔をした。


そういう契約だったのだ。

成人するまで隠して育てて欲しい。

たった一人、生き残ったある貴族の娘。

そして、ミリが望む通りに生きる代わりに、後見人には莫大な財産の管理を。

ただし、ミリが自らの意志で『外』に出るならば、何人たりとも拒否できない。


成人するまで、脆弱な身体を持つ一族だから、強い貴族の庇護が必要だった。



お読みくださってありがとうございます。

R18BL 「白銀の道」シリーズ

https://novel18.syosetu.com/n1191gl/


「蜂蜜の君に」シリーズ

https://novel18.syosetu.com/n3834hb/


と時間世界観は同系列になっております。

よろしければ、こちらもお読みください。

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