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僕の可愛いメイドは眠る

珍しい・・・・・・

朝、ぼんやりとしながら、ダイダイはゆっくりと目を開けた。


昨日、メイド長たちは、ミリをさっさと自室へ運んでしまった。

ダイダイが部屋に戻った時には、温かいお茶が一人分入れられていた。

久しぶりに添い寝しようと思っていたのに。

ダイダイは不貞腐れながら、横になった。



次の日の早朝。

ミリが起こしに来ない。

日はとっくに上がっている。

今日はまだ、ミリの足音がしなかった。

「・・・・・・?」

ダイダイは何故、ミリが起こしに来ないのか不思議だった。

そして、ミリが寝坊していることに気付いた。

かばりと起き上がる。


昔、一度だけミリが寝坊して、起こしに来なかった事があった。

あの時は、前日に夜目の効かないミリを、夜中に連れ回して、体調を崩させたのだ。

夜にしか咲かない花を見に行っていた。

ミリはとても喜んでくれたけど、パラトスにひどく怒られた。

その後は無理はさせていない。ちゃんと馬車の中で寝て待っているように言ってある。


ダイダイは急いで着替えると、ミリの部屋に向かった。

きっと、ミリは昨日の体調不調で寝過ごしてしまったのだ。



隣の部屋なら、すぐ私の部屋に来れるだろう。

寝坊したなら、それを理由にして、隣の部屋に引っ越させようか。

ダイダイは、ずっと、ミリが自分の世話をするのに、ミリの部屋が遠いと思っていた。



自分の成人の儀がある前に、ミリが年頃になったからと離されてしまった。

まだ、ミリは子供だったし、繁殖期だって迎えていなかったのに。

ミリが屋敷に連れて来られて、ダイダイの横に居て、ずっと同じ部屋で生活していた。

蜜月だった。

ダイダイの横で、ミリはいつも誉めてくれた。

すごいすごいと喜んで、笑ってくれる。

学校が始まって、昼間は離ればなれになっても、放課後はミリが寂しくないようにすぐ帰った。

部屋から出ないミリは、いつも嬉しそうに迎えてくれた。


だって、ミリは私の舎弟だから。

僕が全部、教えてあげるんだ。


何でも一緒にした。

マナーも座学もダンスもだ。

ミリは綺麗で繊細な文字も書けるし、計算も出来る。

ダンスだって踊れるんだ。

その辺の淑女よりも、淑女らしいんだ。

私の自慢のミリだ。



ミリがダイダイから離されたのは、必然だった。

幼いダイダイが、ミリに対して無意識に『囲いこみ』を行った事が原因だった。

ロジムの貴族は祖が獣の為か、よく気に入った者や妻や子供を、自分の領域に閉じ込めようとする。

敷地内に腹心の家を建てたり、妻や子供を自分の後宮で全てを賄えるようにしたり。

ダイダイは、ミリを部屋に住まわせて、一緒に生活していた。

他の子供たちと遊ぶ事を許さず、ミリの世界はダイダイだけになった。

幼いミリはダイダイからの情報しか与えられず、正常な判断が出来なくなっていた。


ダイダイに対して何でも従順なミリに、危惧を覚え、パラトスが慌てて離したのだ。

ミリがずっとダイダイの専属奴隷なら、それでも良かった。

だが、ミリは将来的に奴隷ではなくなるのだ。

勿論、ダイダイはそんな事はわかっている。

けれど、有無を言わさず離されたことが不服だった。

ミリは嫌がっていなかったし、自分だってミリを楽しませる為に、沢山遊びを覚えたのに。

今では、女を連れ込むから、ミリの教育に悪いと言われ断られている。



失礼な奴らだ。

女を連れ込んだのは、ミリが部屋からいなくなってからだ。

女の扱いをちゃんとしないと、ミリから嫌われると友達から言われたんだ。

ミリが大人の男の人を好きになったときに、私が一番好きだと言ってくれるように。

少しいい顔したぐらいでついてくる女を、ミリと一緒にする訳がない。

ミリに危害を加えられたらどうするんだ。


私の部屋から離れる時、ミリももっと嫌がるとおもったのに。

ミリはパラトスに、言いくるめられてしまった。

『これからは、ダイダイ様を毎日起こしにこれますね!』

ミリは嬉しそう言った。

私は寂しくて堪らなかったのに。

夜中に寂しくて、少し泣いてしまったのは秘密だ。

メイドらしく、主人と離れた敷地内の小さな部屋がミリの部屋になった。

黒と白の可愛いメイド服。私の目の色をした紺色の帽子。

ミリは何を着ても可愛い。

パラトスは、ミリに色んな事を教えようとしているみたいだった。

庶民の生活や、貴族の作法、他国の風習まで。

ミリはずっと、私が側にいるから、必要がないのに。

私がちゃんと教えていたんだ。

私がミリの先生になるんだから、ミリより沢山覚えて教えてあげなきゃいけない。


事実、ダイダイはミリが他の人間から教えられるのを嫌がった為、ミリに教えられる人間になるためにあらゆる事を努力してマスターした。




「ミリ!なんで起きてこないっ!主人よりも、先に起こしに来ないと、駄目じゃないか!」

ノックをせずに、ダイダイはそのまま、扉を開けた。

「ミリ?返事は?」

ミリの部屋の扉の先には、すぐベットがあった。

相変わらず狭い部屋だ。

ミリが寒がるかもしれないから、ベットもシーツも毛布も、上等なものにしている。

贔屓過ぎはいけないとミリに断られたから、使用人たちの寝具を一新した。

好評だったので、結果オーライだった。

でも、狭い部屋だから、窓から冷たい空気が入ってくる。

ミリが体調を悪くする原因になる。

暫くしたら、家の改装にも着手しようと思う。


パラトスに、もう一度、ミリを自分の部屋に住まわせていいか聞こうと決めた。

ミリがいるなら、女を連れ込まないし、ミリも私の世話がしやすいはずだ。

ミリは私の世話をするのが楽しいんだ。


ミリはベットの上で、まるで猫のように丸まって寝ている。

寝ている事に気付いて、そっと近寄った。

「・・・・・ミリ、おはよう?気分が悪いのか?」

覗き込むと、顔が赤い。

それにぼんやりとしている。

まだ、寝ぼけてる?

「・・・・・・」

首筋を触り、その熱さに驚いた。

ダイダイに気付いたのか、ミリは何かパクパクと口を動かした。

「ミリ?どうした?パラトスを呼んでくるからっ!」

ダイダイは挙動不審になり、ばたばたと駆け出した。


「熱があるんだ。どこか体が悪いのか?」

邪魔になると言われて、廊下でダイダイはうろうろしていた。

部屋から出てきたパラトスに、ダイダイは詰め寄った。

パラトスは少し笑ったようだった。

「ミリは繁殖期を迎えたようです」

「繁殖期?ミリが?まさか。ミリはまだ子供だ」

ダイダイが一笑すると、パラトスは真面目な顔で頷いた。

「ええ、だから、初めての繁殖期のようです。まだ未熟だから、子供返りを起こしたようです」

「子供返り?」

ダイダイは既に何度も繁殖期を迎えているので、そんなこともあったかな?と思った。


ダイダイの繁殖期は、隔離された別荘で、好みの女と遊んでいる。

ミリはその期間は、メイド長の下で屋敷の仕事をしている。

繁殖期にミリを見ても、可愛らしいとしか思わないから、きっと子供には反応しないのだなと、ダイダイは思っていた。

身体が反応しないし、ミリも怖がらない。

ならば、その期間もミリを側に付ければいいのに、教育に悪いと家人たちから、突っぱねられた。

おかげで繁殖期は、朝のミリの作ったスープを飲む位だ。

失礼な奴らだ。


「・・・・旦那様を主人として見ていなかった頃に戻っています。ミリは、別館で他のメイド達に、終わる迄見てもらいましょう」

慌てて、パラトスを引き留めた。

「わ、私が面倒を見る!」




ダイダイが執務室に来ない。

グラッセが朝から苛ついていた。

執務室の同僚たちは、障らないように目線を下に向け、黙々と書類を処理している。

「呼んでくる」

返事を聞かず、グラッセは眉間に皺を寄せたまま、ダイダイの寝室に向かった。

また、女を連れ込んでいるのか。

ミリを見かけないから、用事で外に出ているのだろう。

「腑抜けのブラッドリーめ!」

ミリが居ないからと、だらけてる。

自分の主人は、能力はあるのだが、女にだらしがない。ミリにラブレターの代筆までさせている非道ぶりだ。

「失礼します、ダイダイ様」

乱暴に扉を開けた。


ベットの上は誰もいなかった。

窓際のソファで、ダイダイが座って何か話している。

グラッセは大股で近付いた。

赤い髪をした女の頭部が見えた。

女を連れ込んでいるっ。

「ダイダイ様、仕事を」

「来るな。ミリが穢れる」

ダイダイは睨み付けた。

「はあ?」


ミリがダイダイの膝の上に座って、パンを食べていた。

細かく千切ったパンを食べる姿は、小動物のようだ。

「よく噛んで」

こくりとミリが頷く。

ダイダイが口の周りを拭いたり、水を取ってあげたり、甲斐甲斐しく世話をしている。

パンが美味しいのか、にこにこしながら食べている。

まだ言葉を覚えていない幼い子供のようだった。

ミリは寝間着を着ていた。

ダイダイが蕩けるような笑みで、ミリを見つめている。

グラッセに、しっしっと、ミリに顔を向けたまま、ダイダイが手を払った。

「ミリは今繁殖期だ。ミリに手を出したら、殺す」

グラッセが納得した。

繁殖期になれていない最初の頃は、よく子供返りを起こすのだ。

「なんだ。ミリ、子供返りを起こしたんだ。この年で、初めて?やっぱりミリは発育不良ですね」

覗き込もうとして、ダイダイに睨まれた。

「私はミリの相手で忙しい。代筆してくれ」

「はあ?自分のメイドの世話で、代筆ですか?」

「駄目か?」

「・・・・駄目に決まってるでしょう」

「じゃあ、ミリを執務室に連れて行っていいか?膝の上に乗せておきたい」

グラッセは大きくため息をついた。

主人のミリを見る目は、捕らわれた目だ。執務室に連れて行っても、自分たちがおいだされるのが目に見えている。


「・・・・ミリは夜は寝るんでしょう」

これだけべたべたしているのに、キスさえもできないヘタレな主人は、ミリの世話をするだけで満足している。

「当たり前だ。ミリは夜目が効かないし、ちゃんと寝ないと、身体に悪い」

「では、夜から仕事してください。貴族だから、別に徹夜しても大丈夫でしょう。朝、書類を受け取りに来ますから」

不満そうなダイダイをぎっと、グラッセは睨み付けた。

渋々、ダイダイは了承した。



夜の帳が降りた頃、ダイダイの部屋のベッドで、ミリはぐっすりと眠っている。

昼間はずっと遊んでいた。

お人形遊びに、お絵かき、積み木に、本読み、チャンバラ・・・・・・

子供の頃、二人でいつも遊んでいた。

ミリが他の子と遊ばないように、女の子の遊びもマスターしたんだ。

ミリは、いつもすごいすごいと誉めてくれる。


私の事を『ダイ』と呼んでくれる

嬉しい。

子供の頃、呼んでくれた愛称だ。

私の犬歯が珍しいのか、触ってくる。

「ミリ、大きい歯は怖い?」

「格好いい」

にこにこ笑いながら、ミリが顔を触ってくれる。

嬉しくて、ミリを抱き締めていたら、パラトスに離された。

お風呂も着替えも手伝いたかったのに、メイド達から、怒られてしまった。


旦那様の部屋にいるのも、本当は駄目なのに。ミリがかわいそう。


そう、メイドの一人がぶつぶつ言っていた。

何を言ってるんだろう?

私の部屋が、一番安全じゃないか。

まるで私がミリに何かするみたいに、部屋の扉は少し開けられている。

ちょっとミリがぐずったら、すぐメイドがやって来て離されてしまう。

私はこの屋敷の主人なんだぞ?


私よりミリが大事にされている。

それは別にいい。

だが

『坊っちゃまは、貴族だから、少しぐらい怪我しても治りますが、ミリは治りません。それに、ミリの繁殖期で、ミリ自身は分かっていないんです。無理矢理手込めにするような真似は止めてください』

パラトスからもメイド長からも、再三言われてしまった。


するわけがないだろう!

ミリに嫌われてしまう。

ミリに嫌われたら、私は生きていけないんだ。

ミリが横で笑ってくれるだけで、幸せな気分になるんだ。




ミリは眠っている。

微睡みは、叫びたいような多幸感を与えてくれる。

ダイダイは、息を殺しながら、ミリの髪を嗅いだ。

少しの添い寝なら許してくれた。

明かりに反応するミリの為に、部屋は厚いカーテンで覆われている。

燭台の明かりでも顔は分からない。

ミリが、よく眠れるように。

「ミリ・・・・・」

子守唄を歌いながら、ミリの頭を撫でる。


ミリは起きない。

ダイダイは、きょろりと周りを見て、そっと抱き締めた。

そして、ミリの小さい指先を咥えた。

ぺろりと舐める。

ミリは眠ったままだ。

痛くない位に甘噛みをして、ぺろぺろと指を嘗めた。

「ミリ・・・・・・」

ああ、どうしよう。

ミリを食べてしまいたい。

身体が変だ。

性欲よりも何よりも、本当に〝食べて〟しまいたい。

これは原始の祖の感情だ。

自分の獣の部分は、体格と犬歯位のはずなのに、こんなに捕食者としてミリを食べたいと舌舐めずりしている。

美味しい匂いがする。

指先一本でいいから、食べたい。

すんすんとミリの頭をかぎながら、涎を飲んだ。

〝美味しそう〟

良かった。

夜は仕事で。

ミリから離れることが出来る。

ずっといたら、本当に食べてしまうかもしれない。

無理やり身体を放し、目眩にもにた焦燥感を感じながら、執務室に向かう。

そして、朝方の数時間、微睡む自分の横にすうすうと眠るミリがいる。


夢を見た。

昔の夢だ。

ミリが私の専属メイドに正式になったときの夢だ。

『ミリは、大きくなっても、私の世話をするんだろう?私はミリがいないと、何も出来ないんだ』

『はい、ダイダイ様。わたし、誠心誠意、務めさせて頂きます』

ミリが嬉しそうに情景の眼差しで、自分を見ている。

ミリの言葉に頷くと、ミリは花のように微笑んだ。

なんて幸せなんだろう。


お読みくださってありがとうございます。

R18BL 「白銀の道」シリーズ

https://novel18.syosetu.com/n1191gl/


「蜂蜜の君に」シリーズ

https://novel18.syosetu.com/n3834hb/


と時間世界観は同系列になっております。

よろしければ、こちらもお読みください。

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