僕の可愛いメイド
ブラッドリー家の若き当主ダイダイは、女好きで毎日恋人が変わる生活をしているが、自分の専属メイドのミリが大好きだ。大好き過ぎて、手が出せないけれど、ずっと側に置いておきたいと思ってる。可愛い可愛いメイドのミリの為に、ダイダイは今日も、仕事をして女と遊んでミリを溺愛する。
コメディぽいですが、回を追うごとにシリアスになります。
ミリは、契約奴隷だ。
奴隷の子供だったミリは、奴隷として売られていた。
親の奴隷は、真面目でよく働いていたそうだ。メイドとして働いていたが、相手の分からぬ子供を身ごもり、ミリを産んだ直後に亡くなった。
その子供を、ブレットリー侯爵家が買い取り、年が近い嫡男の遊び相手にしたのだ。
ミリの金額は、金貨二枚。平民が銅一枚をやっと1日で稼ぐ相場で、かなりの高額であったのは、親の残りの支払い金を足され、出来のいい子供を探していた事で足下を見られて、金額をつり上げられたからだ。
だから、ミリは金貨二枚を払い終わるまで、ずっとブレットリー家で働く事になる。
ミリのは、白い肌に、真っ赤な髪で、黒目がちの茶色の瞳をしていた。
この地域では見ない容姿だが、男親が過去の大戦孤児の一人だったと思われている。
ミリが住んでる地域は、大きな森を挟んでグラゾラ国に隣接したロジム国の街で、大きな川と山があり、辺境と言われているが、鉱山から輩出される鉱石と他国との貿易で栄えている。
ブレットリー家は、代々その地域を任されている侯爵家になる。
ロジム国は、金色の鬣をもつ獣を祖にもつ王が納めている。
昔、様々な獣の祖を持つ人間がいたが、長い年月をかけて、獣の姿から人に変わり、今ではほとんど獣相は見られないが、貴族と呼ばれる人間たちは、屈強な肉体や鋭い犬歯を持つ者が多かった。
獣を祖に持たないただの人は、貴族達の庇護下置かれ、平民として生活していた。
ブレットリー家の嫡男であるダイダイが、初めてミリに会ったのは、五歳の誕生日の翌日だった。
ブレットリー家は、温厚な貴族として知られており、ブレットリー侯爵夫妻はおしどり夫婦として有名だった。
家長は、特徴的な鮮やかな紺色の瞳を持って産まれてくる。
ブレットリー侯爵も紺の瞳にウェーブのかかった黒髪を持っている。その息子のダイダイも同じ紺の瞳に黒髪だった。八重歯にも見える犬歯は目立たない。
利発そうな強い瞳をしたダイダイは、次代の当主として有望視されていた。
「ダイダイ、仲良くするんだよ」
そう父親は、恥ずかしそうに足の後ろに隠れている子供を前に出しながら、言った。
スカートがひらひらとしている。
ちっこい子だ。
初めて見たミリの印象だった。
ストロベリートーチ色のふわふわの髪、茶色の大きな目、ピンクのワンピースが揺れてる。
まるで絵本の妖精みたいだ。
瞳の中の向日葵が、可愛くて綺麗だ。
「お前、名前は?」
不遜に尋ねたら、ぱしんと頭を教育係の執事に叩かれた。
「女性に、なんて聞き方ですか」
「ミリです。貴方はどなた?」
可愛い舌足らずな声だ。
真っ直ぐに茶色のキラキラした瞳が、自分を見つめている。
可愛い。すごく可愛い。
「ダ、ダイダイだっ。お前は、今から、僕の舎弟だからなっ!舎弟だから、面倒見てやる!」
「坊っちゃまっ!」
怒鳴る執事をしり目に、ミリの手を取り走り出した。
僕のミリだ。
可愛い。僕が面倒見てあげなきゃ。
ぎゅとミリが手を握り返す。
それから、十年以上ずっと、二人は一緒にいる。
父親は、ダイダイが成人の儀を迎えた途端、さっさと家督を譲って、離れに母と移り住んだ。
ミリは、自分の専属メイドとして、執事のパラトスの下で働いている。
トトトっと小さな足音が聞こえる。
静かに歩こうと努めているミリの足音を、いつもの毛布の中で微睡みながら、耳を澄まし聞く。
「ダイダイ様、朝ですよ」
ミリがいつものように、ダイダイの部屋の扉を開け、一人にしては大きなシーツの膨らみを気にせず通り抜け、カーテンを開けた。
陽光が部屋全体に降り注ぐ。
きゃあっ!とかん高い悲鳴が聞こえ、シーツに誰かが潜り込んだ。
「あ、ああ、朝か。おはよう、ミリ」
もそりと、均整がとれた身体をした青年が、寝癖をつけたままミリを見つめる。
ダイダイ・ドウ・ブレットリー。今年、20歳になるブレットリー家を数年前に継いだ若き当主だ。
ロジム国の貴族に漏れず、背の高い筋肉のついた屈強な身体を持っていた。
ウェーブのかかった黒髪は柔らかに陽光に映え、精悍な頬に、紺色の深い瞳はあまやかに瞬く。
その容姿と話術を際限なく使って、女性を口説く姿から『腑抜けのブレットリー』と揶揄されるがダイダイは気にしていない。
真面目だが凡庸、可もなく不可もなく、無害な人のいい女好きの当主。
それがダイダイに対する周りからの評価だ。
「おはようございます。ダイダイ様。温かいスープをご用意しています」
小柄なメイド姿のミリは、赤い髪をきっちりと帽子に入れ、綺麗な額を惜しげもなく見せて、幼い丸く大きな瞳を瞬かせ、ダイダイに言う。
ダイダイは寝惚けながらも、にっこりと笑う。
「ありがとう、ミリ。貴方も、飲んでいく?ミリの作ったスープは美味しいんだ」
隠れている女性に、ダイダイは聞いた。
行きずりの逢瀬であるが、ダイダイもミリも慣れているのか特に慌てていない。
「お嬢様のお召し物も、こちらに置いて置きますね」
にっこりと笑うと、服を置いた。
ミリは、まだ幼く見えるが、ひどく生真面目にシーツに潜る女に丁寧に言う。
「昨日のお召し物と同じ物をご用意しました」
「え、ありがとう・・・・・・」
おずおずと綺麗な瞳が覗く。
ダイダイ様は、女性対して妥協をしないのだと、ミリは嬉しくなる。
「ミリ、フルーツも食べたい」
「ご用意します」
慌てて部屋から出て行くミリに、ダイダイが見送る。
テーブルの上には、柔らかな湯気がたったスープが二つ置かれている。
「早く食べよう」
「え、ええ・・・・・・」
よくわからないまま、ダイダイの昨日の夜の相手だった女は起き上がり、スプーンを持った。
「ダイダイ様、あの方は、奥様候補の方ですか?」
寝室のソファで寛いでいると、ミリが女が置いていったピアスを見つけた。
慌てて帰ってしまったので、ミリはスープの後にデザートと紅茶をお出ししたかったのにと、残念に思った。
「まさか。遊びだよ」
事も無げにダイダイは言った。
その言葉で、ミリは不用品の箱にピアスを入れた。
特定の女性を作らず、ダイダイはいつも遊び歩いていた。
学生の頃は浮いた話は全く聞かなかったが、卒業と同時にダイダイの女遊びが開花した。
執事のパラトスに説教を受ける事は、ダイダイにとってそよ風みたいなものだった。
修羅場にならないのは、一種の才能かもしれないが。
ダイダイはいつも部屋の掃除が終わるまで、ソファで寛いでいる。
「今日の方は、とても綺麗な方なのに」
もったいなさそうにミリは言った。
自分の主人はとてももてるが、長続きしたためしがない。
「あっちも、侯爵夫人は真っ平だと。愛人なら考えるそうだ」
「愛人?」
「甘やかして、お金と綺麗なドレスをいつも用意してくれたら、なってもいいって。可愛らしいな」
ミリがほう、と息を吐いた。
「お綺麗な方でしたから、そういうのも許されるのですね」
「まあね。でも、私は愛人はいらないからなぁ」
ミリは不思議そうに、ダイダイを見た。
「ダイダイ様は、美代の方はお決めになられなのですか?」
「美代の方?」
「正妻の事をそう呼ぶのですよね?」
「ミリは物知りだな」
ミリが胸を張った。
「パラトスさんが教えてくれました」
その姿を目を細めて、ダイダイが見つめる。
「そうか。私の美代の方は、まだ考えていない」
「そうなのですか?ダイダイ様、とてもおもてになるのに」
「私というアクセサリーが欲しいだけさ」
ダイダイが優雅に目を閉じる。
少し不満そうにミリが口を膨らませた。
「ダイダイ様はこんなに格好いいのに」
「そう言ってくれるのは、ミリだけで充分だよ」
ダイダイは笑う。
「でも、あんなに背が高いと、高い所も手が届いて羨ましいです」
ぴょんぴょんと、背伸びしてはたきをかけるミリはとても可愛いと、ダイダイは見つめる。
「ミリはまだ子供だからな。発育不良だから、もっと美味しい物を食べないと」
「背が高くなりますか?」
「ミリはちっこいままで、大丈夫だ。大きくなっても、ミリはミリだけど」
「もう少ししたら、わたしも大人になりますから」
胸をはるミリに、ふふ、とダイダイが笑う。
「まだ、繁殖期も迎えていないのに」
「もうすぐ、迎えます。大人のとびきり美人の女の人になるんです」
この世界は獣が祖になるせいか、成人すると人によって時期は異なるが、繁殖期と呼ばれる期間を迎える事がある。
その期間、特に発情するのだ。
廻りもそれに引きずられる形で、子供を成すものが多い。
街には、むやみに身体を差し出さないように、無料の繁殖期の期間だけ泊まる隔離部屋のような施設もある。
お陰で、年頃の娘が、前後不覚に陥り、相手も分からぬ子供を身籠る悲劇もへった。
繁殖期は年に一度だったり、数年に一度だったり、期間も数日から数週間と幅があった。個人差があるので、全く来ない人間もいるのだが。
繁殖期を迎えることは、大人になった事でもあった。
早熟で貴族でもあったダイダイは、十代の始めには繁殖期を迎えている。
「そうだな。それが終わったら、大人のミリになるな。でも、ミリは子供でも大人でも、ミリだから、私の専属メイドだからな」
「はい」
嬉しそうにミリが頷いた。
ミリは、何でも出来るダイダイが大好きだった。
優しくて格好いい自慢の主人だ。
「ミリ、必ず繁殖期は来るのだから、焦らなくていいよ」
「はい、ダイダイ様」
パタパタと歩き回るミリはとても可愛い。
ミリはロジムの人間と種族が違うらしい。
獣相がない以前に、とても成長が遅いのだ。
ロジム国の人間ではないのかもしれない。世界には、多種多様な人種がいる。
同じ世代のダイダイたちはとっくに成長してしまい、貴族が持つ成人男性の肉体を手に入れている。
ミリはまだ、幼い容姿で、額を見せて大人ぶっているが、やっと成人の儀が終わったくらいの背伸びをした子供にしか見えない。
でも、白い肌はとても綺麗だ。
真っ赤な艶やかな髪に、綺麗な茶色の瞳。
胸もそんなに大きくない。
繁殖期も迎えていない。
しかし、成長が止まっている訳でもなく、少しづつ成長はしているようだ。
成人するには後、五、六年かかるようにも見える。
ミリは早く大人に慣れない事を気にしていた。
そのままでも、ミリは可愛らしいので全然いいのに。
子栗鼠のように、くるくる動き回る姿は、ダイダイの癒しだった。
ダ、ダ、ダッと足音が聞こえた。
ダイダイは誰か分かっていたが、ソファから動かず欠伸をした。
ばたんと、乱暴に扉が開いた。
「ダイダイ様っ。仕事始まってますよ!」
ダイダイとよくにた背格好の、茶髪で茶色の瞳をした青年が不機嫌そうに入ってきた。
乳母の子供で従兄弟のグラッセだ。
顔立ちもよく似ていたが、こちらの方がたれ目で柔和な印象を与える。
影武者の役目もあるので、出来るだけ髪型も近づけている。
二歳年上の彼は、ダイダイの補佐をしている。
苦虫を潰したような顔でダイダイを見た。
「ミリの掃除が終わっていない」
ダイダイが当たり前のように言った。
「ごめんなさい、グラッセ。わたしが遅くて」
「掃除待ちなんて、貴方が勝手に言ってるだけでしょう!ミリのせいにしないっ」
そうやって、いつもさぼろうとする!とグラッセが言うと、楽しそうにダイダイがお茶を差し出した。
「主人がお茶を入れてるんだ。一杯飲んでからでいいだろう?」
「・・・・・・」
グラッセがため息をつきながら、反対側のソファに座った。
いつもの朝の日常だった。
「ミリ、昼からデートに行くんだ」
お茶を飲みながら、ダイダイが言うと、ミリが頷いた。
ミリもダイダイの隣で、座ってお茶を飲んでいる。
前に、ミリが『メイドと主人は同じソファに座らないし、メイドが主人からお茶を入れてもらうことはない』そう言って断ったら、泣かれたのだ。
だから、ミリは仕事の一貫として、ダイダイの隣に座り、ダイダイが入れたお茶に口を付ける。
「わかりました。手紙は午前中にお出ししますね」
「うん。アレッテ嬢に。前の夜会で、一輪の薔薇みたいだったよ。濃いブラウンの髪に、茶色の瞳だ。合わせるのは黄色い花がいいな」
ミリがカリカリとメモを取っている。
「はい」
その姿にグラッセが目を剥いた。
「・・・・・まさか、ラブレターまで、代筆させてるんですか!?」
「ミリはすごいんだぞ。とても綺麗な文章で、私の文字を真似て書いてくれるんだ」
自慢気にダイダイが言う。
「ダイダイ様は、とても綺麗な文字なので、緊張します」
「そう言う事じゃないでしょう!あ、あきれますっ!」
ミリはきょとんと見上げている。
「ミリっ。ダイダイ様の我が儘に付き合わなくていいんだぞ。ミリが何も知らないから、プライベートまでミリを使うなんて」
「大丈夫です、グラッセ。文字を書く練習になりますもの。ダイダイ様の文字はとても綺麗だから、勉強になるんです」
「勉強してもらってるから、一石二鳥だろ」
「・・・・・貴方は黙ってください」
グラッセが渋々、ダイダイを睨みながら、嫌そうに書類を投げた。
「早く確認とサインをお願いします」
グラッセにとって、ダイダイは自慢の主人だ。頭の回転も早いし、指導力もある。
所作も美しいし、武道も嗜んでる。
交友関係も良好だし、商才の才能もあるように見える。
ただ、唯一、真面目なグラッセにとって我慢出来ないのが、女好きの一面だ。
『腑抜けのブレットリー』の噂は、勿論グラッセの耳に届いている。
事実、毎日違う女を侍らして、週に何回も女を寝屋に連れ込んでいる。
それを専属のミリが、対応しているのも問題だった。
ミリは、契約奴隷メイドと言われているが、執事のパラトスや先代の旦那様から目をかけられている。契約が終わったら、しかるべき処遇になると聞いた。
契約奴隷が市民権を与えられ、平民として生きていくのは珍しくない。
ミリは、産まれる前から契約させられた不遇の子供だ。親が死ななかったら、契約メイドになることはなかった。
それだけでも、残酷だと思うのに。
成長の遅いミリが、女遊びに乱れてるダイダイの専属なのだ。
教育上悪い。
ミリは、ダイダイに洗脳されているらしく、言われるままに、ダイダイの女達の世話をしている。
これにはメイド長や他のメイドたちも、ミリの専属解除を進言しているようだ。
ダイダイは頑として、譲らなかったらしい。
昼過ぎ、ミリが調理場の隅で、洗い物をしている。
その横で当たり前のように、ダイダイが椅子に座って休憩していた。
周りの調理人たちは、いつもの事なので気にもしない。
「ミリ、今から、麓に出来たカフェに行くんだ。ちょっと遠いけど、そこから見る庭園がとても素晴らしいらしい。綺麗な薔薇園があるようなんだ」
機嫌良さそうに、ダイダイが言う。
「まあ、そうなんですか?とても綺麗な所なんですね」
「うん。ミリも見たい?馬車は大きいからミリも充分に乗って行ける」
ご機嫌なダイダイに、ミリが嬉しそうに、笑った。
「まさか。夕食の支度に間に合わなくなります。ダイダイ様、お土産話、楽しみにしていますね」
「・・・・・夕食は外で取るから、いらない」
拗ねたようにダイダイが言った。
ミリは頷いた。
「わかりました。夜食をご用意しておきますね」
違うよ。とダイダイが言った。
「ミリも行くんだ。夜は夜食だけなら時間があるだろう?」
ミリが困惑したように見つめ返す。
専属メイドだが、主人のデートまで付いていくのは、違う事を知っている。
「作法の勉強が入っています」
ミリは、契約が終わった後に市民生活を滞りなく行うために、色んな事を習っている。
明らかに別格な扱いだが、幼少からしているミリは気付いていない。
「わ、私が教える。先生は誰だ?パラトスか?言ってくる」
困ったように見つめるミリに、ダイダイは走りさった。
暫くして、息を切らしたダイダイが駆け寄ってくる。
「今日は、茶会のテーブルマナーの勉強だったみたいだ。夜、私が教えてあげるから、大丈夫だよ」
にこりと笑うと、嬉しそうにミリは言った。
「ダイダイ様は、何でも知ってるのですね」
「そうだよ。だから、一緒に行こう」
「はい」
ダイダイは不機嫌だった。
馬車で移動しているのだが、ミリは御者の隣に座ったのだ。
中に入ったのはダイダイと恋人だけ。
当たり前と言えば当たり前だった。
しなだれかかる女を抱き締めながら、ダイダイは、窓から見える御者とミリの後ろ頭に舌打ちした。
「どうされたの?」
「何も?疲れていないかい?少し休憩しようか?」
「大丈夫よ」
強い香水の香りに辟易しながら、柔らかい身体を強く抱きしめた。
食事も終わり、馬車を見るとミリが御者台でうたた寝していた。
御者はのんびりと、離れて煙草を吸っていた。
ミリの脇には、シェフに用意してもらった携帯用のパンと肉の包み紙が、そのまま置かれている。
ミリには肉よりも、魚が良かっただろうか。
スープは、お土産にしよう。夜、ミリと一緒に飲むんだ。
今日の恋人は、食事は興味があったようだが、庭には興味が無いようだ。早々に装飾品を見に行ってしまった。
宝石の一つでも渡して、帰って貰おうかな。
余った時間はミリと薔薇園を回ればいい。
「ミリ!何してる。私を無視するな!」
少し声を大きくして、ミリの隣で言うと、ミリがびくりと震えて、眼を開けた。
「申し訳ありません・・・・・」
少し怯えたように見上げたので、ダイダイは慌てた。
自分の身体は、ミリよりも充分大きいのだ。
威圧感があったかもしれない。
少し猫背になる。
「あ、ご、ごめんね。声大きかったね。ミリ、眠いのか?」
ミリは少し下を向いた。
その様子に、おどおどとダイダイがミリを見た。
少し申し訳なさそうに、ミリが言った。
ミリは滅多に弱音を吐かない。
「ダイダイ様、申し訳ありません。すごく緑が綺麗で楽しかったのですが、・・・・・なんだか、近頃、すごく眠くて」
ダイダイが慌てて、ミリの額を触った。
「馬車に酔ったのか?熱はないな?疲れているのかも。すぐ屋敷に戻ろう。女は帰すから」
こくりと頷いた。
ダイダイはミリを抱き上げ、馬車にいれると、毛布を被せた。
無理を押してミリがついて来たことに気付いて、ダイダイは自己嫌悪に陥った。
控えていた護衛に声をかけ、処理を頼む。
今日の恋人には、新しい馬車を用意して帰ってもらった。怒っていたから、もう会うことはないだろう。
名前もよく覚えていない。
「ミリ、外の風に当たりすぎたのかな。早く家に帰って、休もうね」
ダイダイは元気の失くなったミリを、揺れないように抱き締めていた。
ミリはすぐに寝息をたてた。
疲れてるのかもしれない。
パラトスに言って、習い事を控えさせよう。
私の世話は仕方がないから、少しだけ仕事を早く終わらせて、部屋に早く帰るようにしよう。
ミリを抱き締めながら、ダイダイも微睡む。
大分、身体も大きくなったみたいだけど、まだまだだ。
ミリはまだ子供だから、私が面倒を見るんだ。
柔らかくて気持ちいい。
ふわりと花のコロンの香りがした。
ダイダイはゆっくり、目を閉じた。
屋敷に着くが、ダイダイは馬車から出てこない。
御者が不審そうにドアを開けると、口に指を当て音を出すなというジェスチャーをした。
「まだ、駄目だ。ミリが寝ている。動いたら、起こしてしまうだろう?」
「はあ」
「ずっと馬車に揺られていたんだ。疲れてるから、しばらくこのままでいい。私が部屋に連れていく。後で、服も着替えないと、窮屈だな」
「わかりました。では、部屋にお茶をご用意しておきます」
御者がしずしずと頭を下げた。
ミリを毛布にくるんで自分の部屋に運ぶと、ダイダイはゆっくりベッドの上に寝かせた。
ミリは疲れていたのか、熟睡している。
帽子を外し胸元のボタンを外した。
添い寝しながら、ミリの固く結われた髪を解いていく。
うっとりと寝顔を見つめていると、咳払いが聞こえた。
顔をあげると、初老のメイド長が立っていた。
ミリは憧れているようだが、いつも厳しいメイド長は、ダイダイにとって、執事長のパラトスと一緒で、二人とも苦手だった。
「旦那様、ミリの着替えを行いますので、出て行くか、こちらにミリを渡してください」
「着替えを渡してくれたら、私が着せ替える」
はあ?とメイド長の眉ねが上がった。
後ろに控えていた、ミリとよく一緒にいる若いメイドも同じ顔をしていた。
ダイダイは不思議そうに、見つめ返した。
「着替えを・・・・」
「女遊びばかりしている旦那様が、純真無垢なミリに触って、ミリが汚れたらどうするんですか!」
メイド長の剣幕にしどろもどろになる。
「そんな邪な気持ちて着替えさせる訳ないだろう。ミ、ミリは私のメイドなんだぞ?」
「だから、なんです?旦那様は女遊びの酷い男でしょう?そんな方が、年端もいかない少女の着替えを一人ですると?」
やだ、最低。と後ろで小さい声がする。
ロジムの貴族の耳の良さを恨みたくなる。
「・・・・ミリの年齢は成人してるのに」
「尚更、認められないでしょう。さっさと部屋から出ていかれてください」
屋敷の人間は、どうも誤解があるようだ。特にミリに関しては、目の敵にされる。
ダイダイは、自分の部屋だが追い出され、とぼとぼと執務室へ歩きだした。
ダイダイのミリ好きは、ブレットリー家の家人は全員知っている。
知らないのは、本人のミリだけだ。
あまりにそばに置きすぎて、ダイダイ以外から情報が無かったせいで、ミリはダイダイの好意を認識出来なくなってしまった。
息をするように女を口説く時も横に置いていたせいで、ミリはダイダイの〝愛の囁き〟に免疫がある。
ミリは、ダイダイに対して、完璧なご主人様と盲目的に仕えていた。
自業自得だし、行きすぎたミリへの干渉に家人たちも眉ねをひそめる状態だった。
何より、ミリは年齢は大人だが、まだ、精神は幼く子供だ。純粋無垢な様子は、庇護欲を誘う。
仕事にも習い事にも真面目に取り組む姿勢は、見習うべき姿でもあった。
引き換え、綺麗な女と見れば見境なく口説くダイダイは、若いメイド達からは悪だった。
外見だけしか選んでいないのか、中身が最悪な女が多いせいだ。
最も、必ず赤い髪の女性を選んでいるのだけは、好意的に受け止めていたが。
いつも帽子で隠しているけれど、ミリの髪は見事な赤い髪らしい。
そして、ダイダイのミリへの接し方は、まるで恋を知らない少年のようにうぶで、純粋だったため、皆、生ぬるい目で見ていた。
お読みくださってありがとうございます。
R18BL 「白銀の道」シリーズ
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「蜂蜜の君に」シリーズ
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と時間世界観は同系列になっております。
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