第2話 意地悪な兄
私は、公爵家の長男であるカルード様の元に来ていた。
「相変わらず、見るだけで気分が悪くなる顔だ……」
「……」
カルード様は、私の兄にあたる人物だ。ただ、向こうは私のことを妹などとは思っていないだろう。
義母や姉と同じく、カルード様は私のことを嫌っている。会う度に罵倒されるし、その態度は刺々しいものだ。
「何も考えず、怠惰に日々を過ごしている愚か者の顔をしている。少しは成長するかと期待していた時期もあったが、どうやらまったく変わっていないようだな」
「……申し訳ありません」
ただ、唯一の救いはカルード様のその態度が私以外にも左程変わらないことだろうか。
カルード様は、ほとんどの人間に対してこのような態度である。例えば、実の妹であるキルマリ様やクーテリナ様でも平気で罵倒する人間なのだ。
そういう面もあるので、私はあの二人やカルニア様よりもましだと思っている。カルード様に関しては、こういう人間なのだと解釈することができるからだ。
「お前を呼び出したのは、あることを知らせるためだ。使用人に言いつけてもよかったのだが、ついでにお前の様子を確認しようと思ったため、俺の部屋に直接呼び出した」
「そうなのですね……」
「尤も、今はそのことを後悔している。お前の顔を見る必要など、まったくなかったことが今わかったからな」
カルード様は、このように私を呼び出すことがある。
それは、私という人間が成長しているかどうか確かめるためであるらしい。
しかし、呼び出されて褒められたことは今まで一度もなかった。いつも罵倒されて、嫌な気分になるだけだ。
カルード様もどうせ嫌な気分になるのだから、一々呼び出さなければいいと思う。その方が、お互いのためになるのではないだろうか。
「それで……知らせたいこととは、どういうことなのですか?」
「近々、第三王子であるフリムド殿下がこの屋敷を訪ねることになっている。色々と、相談することがあるからだ」
「相談すること……」
「お前がやるべきことはただ一つ。あの部屋から出ないことだ。お前のような愚物の顔を、フリムド殿下のお目に触れさせる訳にはいかないからな」
「……わかりました」
カルード様の知らせは、来客の知らせだった。
第三王子であるフリムド様が訪ねて来るようだが、私にとってはそれ程関係ないことである。
なぜなら、フリムド様が訪ねて来ても来なくても、私は屋根裏部屋に籠っているだけだからだ。どの道変わらないのだから、どうでもいいことである。
こうして、私とカルード様の話は終わるのだった。