6.ミドナ編 襲われた村
早速ザズから聞いた情報だが。
まず、この世界の名前。その名も『フォース』
この世界は四つの大陸で成り立っているらしい。
その四つの大陸名前は『ノース』『サウス』『イースト』『ウェスト』東西南北か、分かりやすい。
そして今、俺はその『ノース』の大陸にいる事が判明した。その大陸にあるザズ達が雇われている国の名前が『スーラン』
ノース大陸で1番の大国だということがわかった。そんな大国の兵士だったなんて。それも2人とも兵の中でも結構上の地位にいるらしい。
俺はもっと彼らに礼儀をわきまえなければいけないな。
そしてお金の単位はルピカ。日本円で1ルピカ=1円だ。
なんで前世のお金の単位で教えてくれないのかって?
それは前世は勇者として転生した俺。転生してすぐ魔物に襲われている奴がいたので助けたのだが、そいつは王国の姫さまだったのだ。それも倒した魔物はこの世界に名を馳せていた大物だったらしい。
姫さまを助けその大物を倒してしまったおかげで、そのまま王国に連れて行かれて勇者として崇められた。そして魔王退治の旅をするにあたり、王様が俺に手形を渡してくれたんだ。
その手形を使えばどこでも、何を買ってもタダで手に入った。
まあ、あまり人里離れた村などでは、それは効力を発揮しなかったが、魔物を倒した時に拾った素材や宝石などを交換して何とかしのいだのだ。だから、前世の世界のお金のことはよく分からない。
そしてギルド。やはり魔物がいる世界にはギルドが存在していた。冒険者達の為に強さのランク分け。ここではE〜Sに分かれていた。
その他にも仕事の求人や情報交換などなどを担っている組織だ。まあ、ザズがCランクの冒険者……と話していたので存在はしているとは思っていたが。
最後に。魔王はやっぱりいた。そして勇者もいるそうだ。絶賛魔王討伐中のこと。早く平和が訪れる様になるといいもんだ。
さて、話はこれ位にしておく。
俺とザズは2日かけてようやくザズの故郷リントガルに到着したのである。
「これは一体どうなっているのだ!?」
俺達が見た景色。それは余りにも酷いものだった。家が焼き焦げ煙が上がっている。塀は壊され、田畑は荒れていた。
「そんな……」
ザズは力が抜けた様に崩れ落ちた。
「ザズさん……」
俺もザズにかける言葉が見つからない。
そういえば。休憩を取った村で嫌な話を聞いていた。
2日前、魔物がこの周辺の村を襲ったと。もしかしてリントガルもその魔物にやられたのかも知れない。
俺達は生存者がいるかも知れないと思い村の中を探し回った。だが、生存者どころか死者もいない。誰もいないもぬけの殻だった。
「もしかしてみんな魔物が来る前に避難していたのでは?」
俺のその言葉は正しかった。俺達が村で探し回っていると村人の1人、ザズの親友ルーが村の様子を偵察する為に現れたのだ。
「ザズなのか?」
「ルーッ!?生きていたのか!!これは一体?皆は……無事なのか?」
「安心しろ!みんな無事だ」
彼らは互いに手を取り合い喜んだ。
ルーの話によると、やはりこの村は魔物に襲われたらしい。少し離れた山の洞窟に村人達は命さながら避難していたのだ。怪我人はいるが誰1人として命を落とす事がなかったのが不幸中の幸いだ。
しかし、村の周りに張られた結界……魔物が村に侵入するのを阻止する為の魔法が張られていたかそうなのだが、今回の魔物は違った。その結界を破り村に侵入してきたのである。
「この結界を破って村に侵入しただと!?」
普通の魔物なら結界を破ることなんて出来ないそうだ。
それに……この村に張ってある結界はザズが仲良くなった王国に仕える魔術師に張ってもらったものだった。王国に仕える位だ。かなりの威力はありそうだ。
「もしかすると魔王の配下だったのかも知れんな」
「あぁ」
ザズが言う魔王の配下。そこな辺にいる魔物とは違い、魔物の中でもトップクラスの実力を持つと言う。知識を持ち、言葉を話す厄介な奴だそうだ。
今回運が良い事に、その魔王と配下と思われる魔物は結界を破るとそのまま何処かへ行ってしまったらしい。そして、一緒に連れていた魔物だけが村を襲った。
ルーを筆頭に力のあるもの達が魔物の気を引いている隙に、他の村人を逃したそうだ。
「まだ魔物が近くに潜んでいるかもしれない。とりあえずここで話すのもなんだから、みんなの元へ行こう」
ルーの言葉に俺達も頷いた。
――そして俺達はルーの案内で村の皆が避難している洞窟に着いのだった。
「みんな!ザズだ!ザズが帰ってきたぞ!!」
ルーの掛け声に洞窟の中に隠れていた村人達が次々と外へ出てくる。
その中にザズの姿をみた彼の両親と思われる人物が急いで俺達の元にやってきた。
「ザズッ!!」
「お袋っ!親父っ!」
3人で抱きしめ合い、お互いの顔を見て懐かしむ。
「良かった……無事で……」
目を潤ませながらザズはそう呟いたのが俺には聞こえた。
感動の再会か。俺はザズ達を見つめながら思う。
俺がもし聖なる壁を使えたら、どんな魔物だって入れさせやしないのに……
それは勇者が使える聖なる魔法。魔物を受け付けず弾き返す。魔物との戦いでも攻撃を防ぐ際によく使用していた。
まあ、この魔法は一時的に発動させるものなのだが、ちゃんと魔法陣を組めばその魔法の効力を広範囲に展開させ、保持する方法も知っている。
実際、前の世界でもいくつかの村に設置してあげたからな。
お金を持っている大国や街は自分たちのお抱え魔術師がいる。そいつらに頼んで街全体にシールドを張ってもらうのだが。万が一そのシールドが破られたとしても、お抱えの兵士達がいるので大半の魔物なら追い返せた。
でも、こんな小さな村などは金なんてない。自分達で本などで独学で学びチンケなシールドしか張ることしかできない。
まあ、ここの世界の結界と同じ作用ではあると思うが、魔術師が使う魔法と勇者が使う魔法では差は歴然だ。
だが、子供となった今の俺にはどうする事も出来ない……。
そんな事を考えている時だった。どこからか女性の声が聞こえた。
『えっと……その魔法使いたいですか……?』
ん?誰か何か言った?自分の周りを見てみるが誰も俺に話しかけた様子はない。
『……その魔法を使いたいですか?』
ん?やっぱり声が聞こえた気がするが?
『その魔法使いたいの?って聞いてるの!!』
――んんっ!?なんだ?なんか怒っている?もう一度周りを見回してみるが皆んなこの声が聞こえていないのだろう。
俺達が持ってきた物資を運び出している最中だった。
俺だけにしか聴こえていないのか?
『だから!!魔法が使いたいかってさっきから何回も言ってるでしょ!!』
おいおい、誰だよ?さっきからキレ気味で話してくる奴。でもようやく分かった。この声は俺の脳裏に響いている事に。