56.真実
どうしよう……一旦引き返して体制を立て直すか?
ここでこのまま立ち尽くしていても日が暮れるだけ。
そんな考えをしていた私にどこかから登れるところがあるか周辺を散策していたカルマが急足で戻ってきた。
「見つけましたっ!少し言った先に洞窟がありました」
「ほんと!?」
私達が急いでカルマが言った洞窟の場所へと急ぐ。
草で生い茂っていて分かりずらいが、確かにそこには洞窟の様なポッカリとした空間があった。
「もしかしたらここから上に行く道があるかも!」
「でも、真っ暗だぞ?どんな魔物に出くわすか分からないけど」
「それでも行くしかないじゃん!」
念のため、ここの周辺を更に隈なく探索してみたが、やはりこの洞窟以外には何も発見できなかった。
とすると、ここしか山へ通ずる道はないんだ。
みんなはお互いの顔を見回し、覚悟を決めて洞窟に入ることにした。
少し入ってみると当たり前だが中は真っ暗闇。
本当にいつ魔物に出会しても分からない状況だ。
気を引き締めながら更にどんどん進んでいくと、入っていた所から差していた陽の光もなくなりついに周りが見えなくなった。
「ちょっと待ってくださいね」
アリアナはそう言ってランプに火をつけた。
さっきまで真っ暗だった周りがランプの灯りに照らされて明るくなる。
「おいっ!これを見てみろよ!?」
「何っ?どうしたの?」
灯りをつけた途端ミドナが驚いた。
その様子に何事かと他のみんなもびっくりしたのだが。
彼は何かを見つけた様だ。必死にみんなに伝えようとその場所を指差す。
彼が示した先を辿ってみると、壁には何やら絵文字の様なものが彫られていたのだ。
何だこれ?絵?文字?
みんな各々その絵文字を眺めて何なのかを考えている。
だが、それは解読不明……
……いやちょっと待てよ?これは……読める!
私は壁を触りながらゆっくりと順を追ってその絵文字を確認する。
やっぱりだ。
この文字は昔みんなでゲームに仕込むために考えた絵文字じゃないか。
その様子に気づいたミドナ。
「あかね。分かるのか?」
「うん……今解読してる」
「本当に!?」
みんなが見守る中、過去の記憶を辿りながら必死に解読した。
確か、この絵は『え』
そしてこれは『ん』
最後は『ど』だ。
えんど……?END?終わり……??
一体どう言うこと?終わりって?
「なぁ、なんか分かったのか?」
早く壁に掘ってあった文字の内容が知りたいミドナ。
急かす様に私に問いかけるのでとりあえず解読した文字を伝えることにした。
「何かね。終わりって書いてあるの。……えっ?」
――そう言った瞬間、まるでワープしたかの様にさっきまでいた場所から何にもない真っ白な空間へと移動した。
「ここは……どこ?」
周りを見るが何もない真っ白な空間。
そしてさっきまでいたみんなもいなくなっていた。
「ミドナ!アリアナ!カルマーッ!!」
叫んでみるが反応がない。
それになにこの空間。音がなく耳が痛くなってくる。
みんなどこへ行っちゃったの?
必死にこの空間を探し回ったが人影一つない。
次第に体力も尽きてその場に座り込んでしまった。
誰もいない。
ひとりぼっち。寂しいよ。
ぽろりと涙が一粒地面へと落ちた。
このまま、ここで一人で生きていかなくてはいけないの?
孤独になった私の感情は抑えられなくなり涙が溢れ出て止まらない。
「嫌だ。嫌だよ!?元の世界へ帰してよーっ!?」
思いきり叫んでもみた。
でも周りの反応は何もない。
何をしていいのかさえも分からない。
みんなを探してもいない。
出口を探しても見つからない。
どうすることも出来なくなった私は、その場に座り込んで延々と泣いていたのだが、ふと聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「……み……なみ」
何にもない場所にずっといたから頭がおかしくなっちゃったのかな?ついに幻聴まで聞こえてきたみたい。
「南!おい!南!」
違う。これは幻聴じゃない。この聞き覚えのある声……
「……長野さ……ん?」
「そうだ」
今度は私のすぐ近くで声がした。
振り返ってみるとそこには長野さんの姿が……
「長野さん!?」
長野さんの声、顔。とても懐かしくてたまらなかった。
彼の姿を見た瞬間、私は長野さんに飛びついた。
「寂しかった。怖かった。悲しかった……」
そうかと言って彼は私の頭を撫でる。
「帰ろう。南……元の世界へ」
「えっ?元の世界?」
私の言葉を最後に目の前が真っ白になり、何も見えなくなった――
◇
次に私が目を開けて一番初めに目にしたものは天井に設置されていた蛍光灯だった。
自分の状況が掴めない。
だが、私のすぐ目には掛け布団が見える。
どうやら布団に寝かされている状況の様だ。
「おはよう南」
「長野さんっ……!?」
私の視界に突然彼の顔が入ってき驚いたが、見慣れた顔に安心した。
「ここは……?」
「ここは会社の医務室だよ」
「医務室?」
「そうだ。お前は元の世界に戻ってきたんだ」
「えっ!?」
元の世界に戻ってこれた。
それを聞いたらまた泣けてきた。
そんなポロポロと涙を流している自分に彼はティッシュを差し出してくれる。
「それにしても良かったよ。無事に戻ってこれて」
そう。そのことについて聞きたかったのだ。
何で私は元の世界に帰ってこれたの?
それに一緒に旅をしていた仲間は?
聞きたいことが沢山ある。
私は飛び起きると彼を掴み質問攻めにした。
「ちょっと落ち着けって!順を追って話すから」
「あっ。ごめんなさい」
パッと彼の服を掴んでいた手を緩めると、長野さんは近くに椅子を持ってきて私の横に座り直した。
「まずな。今のお前はまだ脳が混乱しているから今の状況が分かっていないと思うんだけど」
そう言うと、長野さんは今までの経緯を混乱している私にわかる様にゆっくりと話し出した。
「……って事なんだよ」
「うそ!?」
「だから、まだ起きたばかりで頭が混乱しているんだよ」
長野さんが一部始終を話してくれて耳を疑った。
――私が今まで行っていた世界。
それは、自分達がこの世に送り出そと開発していた次世代型のVRの世界だった。
そのβ版を、私はテストの為にプレイしていたのである。
カプセルに入り、専用のヘッドフォンとゴーグルと装着して横になる。
それだけで、自分が作り出した世界を体験できると言うもの。
と言っても、あらかじめ大体のストーリーはインプットされている。
それに更にコンピュータが対象人物の脳波を読み取り、その人の記憶を元に更にストーリーを創っていくというものだった。
自分が今まで目に見たものや感じたもの。そして体験した出来事を元に。
ちなみに一体どこからがその世界だったかと言うと。
例のゲームを買う所から少し前から全てだそうだ。
でも、途中でトラブルが発生し、私は眠りについたまま、ゲームの世界から出られなくなってしまったと長野さんは言った。
私をこの世界に引き戻そうと、外部から必死にアプローチしてようやく私を戻すことに成功したとも。
「本当に。一時はどうなると思ったけど。無事に戻ってきてくれて良かったよ」
長野さんの話を聞いて少しづつ当時の記憶が戻ってきた。
そうだ。なんか思い出してきた……
記憶が戻るにつれて私が体験した物語は全て架空のものだったんだと言う現実も。
ミドナ。アリアナ。カルマ。そしてネオ。
みんな私が作り出した登場人物。
もうこの現実世界にはいない。
少しの間一緒に冒険した仲間。
なんか思い出すとすごく寂しくなってくる。
いや。彼らからはたくさんのことを学んだんだ。
この世界では体験できない様な、ハラハラワクワクした物語を……
「トラブルが起きたからって言ってこのゲームの制作を中止になんてしないですよね?」
「それは上層部が今、審議していて……って、お前何を言って……」
危ない体験をしたのに何を言っているのかと彼は呆れている。
「だって。見てたんでしょ?私が体験していたこの物語をこの世界から。私はこのゲームを完成させたい。そしてもう一度彼らに会いたい」
私の真剣な眼差しに彼はため息をついていたが。
「そうだな。このゲームが完成したら俺にも彼らを紹介してくれ」
「じゃあ、長野さんの脳に彼らをインプットする為にまずは彼らが主役のゲームをプレイしてもらわなくっちゃ」
「そこからかよ!」
私達の笑い声は部屋いっぱいに響き渡った。
私達の追求は終わらない。いつ完成するかは分からないがいつか……また彼らと一緒に冒険できる日を夢見て――
――終わり――




