3.転生者アリアナ1
二つ目の流れ星が世界の西の大陸に落ちる。というか少しずれて海に落ちた。
「ブワァーッ!」
海の中から少女が姿を現した。
「ブクブクッ……はぁはぁ……私……泳ぐのは得意じゃなくてよっ!?」
波の揺れで体が浮いたり沈んだり。
水面に顔が出た時に呼吸し、また沈んでいく。それを繰り返して。
まずいわ!このままだと死んでしまうわ。
少女は必死に呼吸をし、わずかな空気を体に溜め込みながら近くに何か掴まる物がないかを探した。
ちょうどそこには板の端切が近くを漂っている。
この板につかまれば!?
少女は必死に苦手な平泳ぎ……とは言えないめちゃくちゃな泳ぎでその板に到着し、しがみついた。
はぁはぁ。危うく死にかけたわ。それにしても、ここはどこかしら?
周りを見渡すが一面の海。いや、少し先に陸地が見える。
あそこまで何とかたどり着けるかしら?いや、やるしかない!
板に上半身を乗せて、バタ足を繰り返しながら陸地まで必死に泳ぎ出す。そして何とか陸地に到着したのである。
「つっ……着いた……」
少女は砂浜に到着するやいなや倒れ込むと、泳いできた疲れで意識が遠のいていった――
◇
次に目が覚めた時、少女はベッドの上で寝かされていた。
「ふぁーっ!良く寝たわ!」
あくびをしながら見慣れない部屋に少女は思う。
あら?素敵なお部屋。でも、私の部屋に比べるとまだまだね。
この少女、名をアリアナ=ルージェントという。アリアナもまた、この世界に転生した一人。
この世界に来る前にいた世界。そこは、ルージュオブ・プリンセスという、いわゆる乙女系のゲーム。その世界で悪役令嬢として名をはせていた。
やっと自分の運命を変えて推しの王子とあとすこしで結婚できたのに。まさか結婚式に乱入したヒロインにナイフで刺されるなんて……
アリアナは王子との結婚式の最中に襲われて、この世界に転生したらしい……
それにしても、此処はどこかしら?私の部屋より劣る部屋ではあるけれど。
部屋の内装や家具は白色で統一されているが、所々金で細工が施されている。シンプル&ゴージャスな部屋。
それを上回る部屋とは一体どんな部屋なのだろうか?
『ガチャ』
部屋の扉が開くとそこにはイケメンがお供をつれて現れた。
「目が覚めたか?お嬢ちゃん」
まあ、何で素敵なお方なのかしら?私の推しの王子といい勝負だわ。というか今、私の事をお嬢ちゃんとおっしゃいましたよね?
アリアナはベッドのすぐ近くに置いてある姿鏡に目をやると、そこにはベッドの上で座っている幼くとても可愛らしい少女の姿が映っていた。
あら!?この少女はもしかして私!?可愛い!チョコレート色の髪に朱色の瞳。素敵です!
自分に見惚れながらうっとりすること数十秒。
「おいっ!」
「あっ。失礼致しました。貴方が私を助けてくれたのですか?」
「あっ、あぁ。体の具合はどうだい?」
あらやだ。ついつい自分姿に見惚れて会話に間が空いてしまいましたわ。あら?イケメンの彼も私の事を変な目で見ているし。
それにしても、この美しい容姿。海で溺れかけている時にも体に違和感があったけど……。もしかして、また転生をしたのかしら?
そう。彼女もまた、2回目の転生者。
アリアナも元は乙女系のゲームが好きで、毎日推しの王子に画面越しにうっとりする毎日だった。自分だったらこう攻略するのに!何て思っていたある日、車にはねられて死んだ。そして、念願だったゲームの世界に転生する事が出来たのであった。
そして転生した事により、以前の成人女性から10歳の少女と姿を変える。
いけない、いけないと、アリアナはベッドから降り立つと、イケメンの前で着ていたネグリジェの裾を持ちお辞儀をする。
「私、アリアナ=ルージェントと申します。この度は私を助けて頂き誠にありがとうございます」
そういって、今まで悪役令嬢として培ってきた最大の礼をした。
少女であるアリアナの礼に恐れをなしたのかイケメンも慌てて自己紹介をする。
「いっいえ。こちらこそ。私の名はグラン=スプーシルと言う」
グラン=スプーシル。彼はこの大陸の国スプーシル王国の王子だった。
まあ!グラン様。とても良いお名前だこと。
「自己紹介はこれ位にして、アリアナ嬢はどうして砂浜に?」
「んー?どうしてでしょう?」
アリアナは可愛く首をひねる。
「いや、どうしてでしょうと俺に言われても……」
グランが困っているわ!その顔も素敵っ!ってダメダメ。ちゃんと説明をしなくては、変な女と思われてしまいますわ。
「すみません。私、気がついたら、海で溺れてまして。必死に砂浜まで泳いできたのです」
「えっ!気がついたら海で……?と言う事は……記憶喪失ということか?」
「えぇ。まあそんなところです。名前は覚えているんですけどね」
「名前だけ?どこから来たのか、住んでいた場所とかはわからないのか?」
「はい。残念ながら」
ふふふっとアリアナは微笑む。
このまま、グランと一緒に住むのも良いわね。どうせ、この世界に私の住む場所はないのだから。
「グラン様っ!?」
その声と共に部屋に入って来たのは、とても美しい女性だった。