1.転生者ミドナ1
『ヒューッ!ズドーンッ……』
無事地面に到着した世界の北の大陸に着いた流れ星の一つ。
「いててててっ……ったくここは何処だよ?」
周りを見渡すが、何もないただただ広い草原。月の光で照らされた草がゆさゆさと風を受けて踊っている。
せっかく、魔王を倒して城で宴を開いてもらって最中だったのに。姫様ともうまくいきかけていたのによ……。急に視界が消えて気づいたらここだよっ!!
この男、ブレイブワールドというゲームの主人公。その名をミドナ=アルズナズラ。
ブレイブワールドでは、勇者として世界を救い英雄と称えられた男。
実は宴で酒を飲みすぎた彼は階段で足を滑らせ、そのまま下へ転げ落ちて死んだのだった。
ミドナは地面から立ち上がり、お尻についた土をパタパタと振り払う。
おっ?なんか体が軽いな?それにいつもより視界が低い気が?
その違和感に何か嫌な予感がする。自分の手を見るといつもより小さい事に気づいた。
ちょっと待て??俺の手なんか、小さくない?
顔を触り体のあちこちを確認してみる。お肌もピチピチでツルツルだ。
「もしかして!?若返ってる!?嘘だろっ?また転生したのかっ?」
成人男性から10歳の少年へと姿を変えていたミドナ。
彼は勇者として称えられた世界にずっと居たわけではなかった。いわゆる転生者というやつだ。
小さい頃からゲームが大好きで大人になってからも仕事から帰るとゲーム漬けの日々。
そんな彼が特にお気に入りだったゲームがブレイブワールド。
この世界に行きたい。ずっとプレイしたいとそう願っていた矢先、仕事の帰り道に交通事故に巻き込まれて死んだのであった。
そして彼の願いが叶い、ブレイブワールドに無事転生して誕生した勇者。
それにしてもまた転生するなんてな。前は勇者に転生出来たけど、今回は何に転生したんだ?
自分の身なりを見ると汚れでくすんだ白色の上下を着ていた。
まあ、服装だけで判断するのもな?
いやいや、今はそんなこと考えてもしょうがないか。とりあえず、どこか人がいそうな場所を探すか。此処がどこなのかも知りたいし。
そう考えたミドナは人が居そうな場所を探してだだっ広い草原をひた歩くが
「はぁはぁ……行けども行けども草原じゃねーか」
小さくなった体を必死に動かし、人里を探すが見当たらない。
体が小さくなったせいで、体力も以前より少なくすぐに疲れが見え始めた。
「ダメだ。疲れた」
ミドナはその場に座り込み少し休憩を取る事にした。
草むらで横になり、空の星を見上げる。
ムキムキに鍛え上げた筋肉。俺の勇者としての名声を返してくれよ……このままここでのさばるのか……俺?
周りを見渡すが草草草。無事に辿り着けるのか不安になる。
『ガサガサッ』
なんだ?目の前の草むらが揺れだし、息をのんだ。
揺れが収まると、突然奴は現れた。そう、現れたのはスライム。
「……良かった!スライムじゃん!」
目の前のスライムにミドナは安堵する。
此処の世界にもスライムはいるんだ。こんな弱っちい奴なんか俺の剣で一捻りだぜっ!
元は魔王を倒すほどの実力の持ち主のミドナ。スライムは初級冒険者が相手にするクラスだ。なんて余裕の表情をしている。
俺の休憩を邪魔した罰だ。悔やむなら俺ではなく此処にきてしまった自分に悔め!
スライムと対峙しようと飛び起き、腰についていた剣を手に取ろうとするが宙を掴むことになる。
しまった!?転生したから武器は前の世界かーっ!?
焦るな俺。そうだ俺は魔法剣士だ。魔法なら使えるはず!
ミドナは改めて奴の前に立つと、手を前にかざして心の中で呪文を唱える。
こんどこそお前は俺の魔法で倒されるのだ。
「黒焦げになれっ!火炎龍」
『プスッ』
「あっ?」
手のひらからは一瞬火が出たもののすぐに消えてしまった。
「何でだっー!?」
ミドナはがっくりと肩を落とした。
そうか、体が若返っただけじゃない。体力も力も魔力も全て若返りで失ってしまったんだ。という事は、今はただのガキンチョか。
スライムがこちらを嘲笑うかのように近づいてくる。
「すまんっ!いやごめんなさい!ここは見逃してもらえないでしょうか?」
スライムに必死に謝ってみるが、人間の言葉なんて分かるはずもない。それどころか、覚悟しろと言わんばかりに襲ってきた。
「ぎゃーっ!本当に本当にごめんなさいーっ!?」
走って逃げるも、子供の脚力だ。そんなに早くは走れなかった。
このスライム、動きが早い。なんなんだ?こいつ。
あっ!?そう思った時、足が絡まって転んでしまった。そんなに足長くないのに。
スライムは転んだ俺にジリジリと近づいてくる。
俺……魔王倒したんだぜ?なのに転生したらスライムに殺されるなんていい笑いものだぜ……
ミドナは飛びかかってきたスライムを目の前にして全てを諦めた――
『ザシュッ!』
あ、いい音が響いた。俺切られたみたい。ん?切られた?スライムって尖っていたっけ?
恐る恐る目を開くと目の前には見事に二つに切られたスライムがいる。
「大丈夫か?」
切られたスライムに釘付けだった目線を上に上げて見てみると鎧を身に纏った、いかにも強そうなおっさんが立っていた。