倉庫の奥にあったもの
もう、9月も終わりですね。
月日が経つのが早い。
王都の家を少しずらすことにした。
なんだそれ?
なんだけど、できちゃうんだよね。
私の魔法はイメージで大体できちゃうから。
そもそも、何故ずらすのか!
元が宿屋だから大きな敷地なのに門扉が無いから。
認識阻害は使っているけど、あると知っている人には効果が薄い。
外観を綺麗にしたら、宿屋をやっていると思われると面倒臭い。
それなら完全に見えないようにすればいいじゃないかってことになるんだけど、仮施設がある時に、その場所に入ろうとしたり、仮施設を作る時にちょっと荷物を置くとかで近づく人がいると思うんだよね。
で、見えない壁に阻まれて、「なんだこれは!」
とかなったとしたら不動産屋に確認されたりして面倒臭いことになるのでは。
なんて深読みした結果、門扉を作ろうとなったわけ。
必要な分だけ裏庭の土地を切り取って、家も基礎ごと切り取ってずらす。
ずらして空いたところに切り取った裏庭の土地をはめ込めば終了!
嘘のような本当の話。
あとは作った塀と門扉を設置すれば完成!
門扉はタケルさんとこの鍛冶場を借りて作った。
...……と言うのは8割嘘。
大きいものを鍛治で作るのは大変なのよ。
職人の勘というのが大きく左右されるってやってみて分かった。
一応、最初は作ろうとしたんだよ。
鋳型用の型を作るのも大変だけど、流し入れるタイミングとか量とか、鉄の配合とか。
難しすぎる。
何度も試行錯誤するには大物過ぎて心が折れた。
結局、職人に頼むことにした。
ついでに塀も別の職人に作ってもらった。
無念。
小さいものは私でもできるので、門の上のレリーフは私が作った。
塀には向かって右側に歩く猫。
左側に歩く羊。
その背中に雌鳥を一羽乗せ、門扉の上に二羽の雌鳥のモチーフをつけた。
うん、可愛い。
玄関扉の前は石煉瓦を並べて歩きやすくした。
ついでに猫の足跡柄をつけてみた。
良い感じ!
これで、誰かが勝手に入ることも宿屋をやっていないことも分かるだろう。
あ、呼び鈴忘れてた。
この世界って中世ヨーロッパみたいにドアノッカーをカンカンするか、扉をノックする感じなのかな?
それとも大声呼ぶのかな?
貴族の家なら門番がいて不便無いだろうけど...……。
門と扉にはしっかり鍵をかけて、無視一択でいいか。
中に戻って、厨房に向かう。
気になるものがあるんだよね。
厨房の奥の倉庫に竈があった。
昔、社会科見学で行った博物館にある古民家を再現した展示物があって、そこで見た。
それと同じような作りだ。
この世界での竈は四角くて石の煉瓦で出来ていて暖炉みたいな形をしている。
上側に窪みがあって、鍋なんかを置けるようになっている。
薪を使うコンロという感じ。
家の中で使うタイプは同じように四角くて薪は少量ずつ入れる場所が真ん中辺りにあって、鉄の扉が付いている。
今は魔道具式が一般だけど、庶民の家では使っている所が多いみたい。
竈といえばご飯だよね?
炊いてみたくなるよね?
竈に使う釜はあったけど、錆びて穴が空いている。
修復で直せるけど、この状態を見た後だと、綺麗に修復しても時魔法で巻き戻した状態にしても、食べる時に錆びた釜で炊いたご飯がチラつきそうで何だか嫌だったので職人さんにお願いした。
【神の図書館】で調べた、日本の釜の資料も渡しておいた。
竈は軽く修復すれば使えそうだ。
竈の上に排煙の木の窓があるけど、開かないように板を打ち付けてある。
うーん、換気扇的な物が欲しい。
次男さんの錬金レシピを探せば、それっぽいのがあった。
煙を吸い込んで浄化消臭して排出する仕組みらしい。
換気扇と言うよりは空気清浄機だね。
「ご飯祭り開催だね」
ぽつりと呟く。
参加者は私とタケルさんだけだけど。
こっちで炊いてタケルさんところに行くのも良いが、この機会に、王都の家に入れるのか確認してもらおうかな。
あの家のように結界をはると見えなくなっちゃうので家の中の空間だけ結界をはって私の領域化すれば問題無いと思うんだよね。
「お、リィーン、今日も王都の家か?」
すぐに繋がってスマホ画面にタケルさんが映る。
ご飯祭り開催のお知らせを伝えると、良い笑顔をいただいた。
王都の家に入れるかも試してみるそうだ。
あとはご飯の友のリクエストを聞いてみた。
「出来るなら、明太子が食べたい」
なんでも魚卵が大好きで、特に明太子が大大好きらしい。
ただ、この世界では、態々魚卵だけを食べるという習慣がない。
偶々、漁でとった魚が子持ちであれば食べることがあるという程度だ。
まだ、人間だった頃に明太子作りに挑戦したことがあるそうだ。
召喚されるまで調理をしたことも、興味を持ったこともなかったので、何の魚の卵なのかぐらいは知っていたが製法まではしらなかったそうだ。
塩漬けして調味液に漬けるぐらいは想像できたが、下処理の方法も塩分濃度も熟成方法も調味液の配合すら分からない。
卵のある時期は漁師に聞けばわかったが、基本的には卵のあると分かるものは海に戻すという習慣があるらしく、多くは手に入らなかった。
長年試行錯誤してカラスミっぽいものはできたらしいが、量は少しで残念だったそうだ。
調べて作ってみると約束したら、喜びの雄叫びをあげていた。
あとは、釘煮なるものを食べたいとのこと。
なんでも【いかなご】という魚の稚魚を佃煮にしたもので、出来上がった姿が釘のようだからそう呼ばれているらしい。
離れて暮らしていた祖母がタケルさんが小さい頃に作って送ってくれたいたそうだ。
市販品よりも小さめで子供の顎でも食べやすい硬さのものだったそうだ。
タケルさんが召喚される頃には漁獲量が減って漁そのものが無かったり、とれても高い値段で取引されて気軽に作って食べるものでは無くなっていたらしい。
懐かしい味をもう一度食べたいらしい。
作り方は祖母の遺品ノートに書いてあったとか。
「そのうち、一緒に作りましょうねって言っていたけど一度も作らないままだったわね」
それを見て母親が寂しそうに呟いたのを聞いて、何となくスマホで写真を撮ったのがあるそうだ。
それをメールに添付してもらって挑戦することにした。
材料は後日、ダンジョンの海で。
最初は子持ちの状態のをとって、お腹から卵巣をってやっていたのだけど、途中で飽きてしまった。
横着して卵巣だけを想像したら、海面に無数の卵巣が浮かび上がって、なかなかシュールな光景だった。
いかなごもたっぷりとって、ついでに【しらす】もとった。
釜茹でとか、ちりめんじゃことかにすれば、立派なご飯の友だ。
ご飯の友、私にとっては鮭かなぁ。
魚卵も好き⸜(*ˊᗜˋ*)⸝




