ここは街ですか? いいえ、ここは……
もう2月も終わりですね。
早いなぁー
タケルさんと出会って1年が過ぎた。
私はもうすぐ12才だ。
ダンジョンの地下15階層には多くの飯屋が増えた。
ハンバーガーショップ、ピザ屋、ラーメン屋。
和食の店、洋食レストラン、カレー屋等。
冒険者が多いのでガッツリ系が多い。
ダンジョンというよりは飲食街化している。
私も好意で店を1軒もらった。
別に私が働く訳ではなく、私の作った物を代わりに売ってもらう店だ。
普通に店を持つと、この世界に無い物が多くなるので色々と不都合がある。
商品登録とか契約だとか。
何故それが作れるのかとか、アイディアはどこからとか、どうやって作るのかとか。
利益がどうだとか面倒臭い。
ここならダンジョンマスターであるタケルさんの許可だけだし、基本はダンジョンマスター経営の店しかないので、どんな不思議な物が売っていたって受け入れられるし、冒険者しか来ないので無尽蔵にお客がくるということもない。
正直、売れても売れなくてもかまわないし。
販売している商品は宝石石鹸や美容系の商品。
あとはアクセサリー類。
ダンジョン産商品ということで割高設定にしてある。
参考はファッションやコスメなんかの女性向け雑誌だ。
多くが自分のデザインだけど、一部は雑誌に載っている商品に似た物もある。
別世界なので盗作にはならないから、まあ、良いよね。
単に作ってみたいで作ったけど、自分では使わないので店に並べているだけのようなものなので……。
買いに来るのは女性冒険者くらいだと思っていたら男性冒険者が家族や彼女のお土産に買い、そこからクチコミで広がって、地上の冒険者ギルドではタケルさんのダンジョンへのお買い物クエストが増えているらしい。
食べ物のお買い物クエストもあるそうだが、こちらは時間遅滞の魔法鞄が無いと難しいので、ダンジョン内の冒険者ギルドにダンジョンマスター宛に作り方の開示のお願いの手紙が多数届いているそうだ。
1部はタケルさんから相談を受けてOKしている。
特例の特別取引だとかで、ダンジョンマスターの名のもとの契約でダンジョンが存在する限り使用料が発生するという契約。
レシピ利用による販売は利益の5%。
そのお金はタケルさんの口座から私へと支払われる。
タケルさん曰く
「金に困っていないし、元々はリィーンのレシピだからな」
だとか。
私の店の人造人間は、前世の私の姿に似せている。
前世は幸が薄かったので元気に働く姿を見て過去を少し昇華させたかったから。
所謂、代償行為だ。
少し若くして、ガリガリだった体は平均ぐらいの肉付きの姿。
もし、両親からネグレクトされていなければ、あんな姿だったのかもしれない。
人造人間自体は、この仕事が楽しいとか充実しているとかは一切思ってないのだけどね。
タケルさんの人造人間はゲームに出てくるNPCやAIロボットのようなもので事前に設定された人格に加え、状況や学習により最適と思われる会話と行動するらしい。
「タケルさん。友チョコどうぞ」
2月14日
前世でのバレンタイン。
今年も自分と女神様達のを作るついでにタケルさんの分も作ってみた。
女神様達と違って3種類だけだけど。
ベタにハートのミニチョコレートの詰め合わせ、トリュフチョコレート、チョコレートコーティングしたハートクッキーだ。
「おお! ありがとな」
箱を開け、さっそく口にしてもぐもぐと咀嚼する。
「そういえば、この世界でチョコって、今はどんな扱い?」
「んーと、薬だったと思うよ。カカオの粉と薬草と水を入れて煎じて飲むって。でも、貴族や富裕層向けの店でしか扱っていないって乾物屋さんで聞いた気がする」
「そうか」
「何かあるの?」
「いやな」
タケルさんは歯切れ悪く言うと紙の束を持ってきた。
「指名依頼書?」
えーっと、甘味を食べる店を作ってほしいと書いてある。
下の方にはプリン、パンケーキ、パフェっぽい絵が描いてある。
軽く材料も書いてある。
2枚目を見る。
カカオからできるチョコレートで作ったお菓子の店を作ってほしい。
「……」
下にはチョコケーキやクッキー、可愛い形のチョコが描かれている。
3枚目を見る。
揚げ物のお店を作ってほしい。
下にはコロッケやトンカツ、唐揚げが描いてある。
これは宿屋のメニューにもうあるわよね。
4枚目には和食食べたい。
これはもう実現済みね。
5枚目には中華食べたい。
一部はラーメン屋で食べられるわね。
6枚目には洋食食べたい。
これも実現済みね。
なんだこれ?
後半は食べたいもの並べているだけになってるけど。
まあ、前半もだけど……。
半分以上は依頼達成してるわね。
達成というかタケルさんが、いつでも食べたい時に食べられるようにしたいって店やメニューを増やしたからだけど。
こいう依頼の達成料っていくらなの?
ふむ。
依頼毎に違うけど金貨5枚~10枚。だいたい50万~100万ぐらいか。
おまけに日付は違うけど、これらを書いた人の名前がエミール・クラインになっている。
確かエミールさんて24か5だったよね?
何年か前に結婚して男の子が1人生まれたってジークさんが言っていたはず。
子供にお金がかかると思うけど、依頼料はどこから出してるのかしら?
自己負担なのか経費なのか……。
【ラビリントス】に更に人が来ているけど、お金の多くははダンジョン内で使われているから税収はそこまで増えないわよね。
レシピ開示による経済効果はあるかもだけど、これはエミールさんの依頼による影響とは言えないし。
となると自己負担?
「…………」
前世の食に執着してるわねー。
書き方も依頼書というよりも、小さい子がクリスマスや誕生日に親にプレゼントをお強請りするために書いたような文面。
後半は一言メモみたいだし。
それにしてもダンジョンマスターに指名依頼書って何?
「理解に苦しむのだけど」
ダンジョンマスター宛に商業ギルドからレシピ開示の依頼があったのも驚きだったけど、ダンジョン内に店やメニューを増やしてくほしいというという依頼も、通常では考えられないわよね。
ダンジョンそのものが通常じゃないから、逆に普通なのかしら?
それにダンジョンマスターが依頼を受けるのも、このダンジョンでは普通なの?
そもそも自分が食べたかったから作っただけで、依頼達成になるの?
言わなきゃ分からないからなるのか?
あと、こんな依頼を頻繁に出すぐらいだから、エミールさんはダンジョンによく来てるってことよね。
多分、懐かしのご飯の為に……。
前世でも今世でも病気で満足に食事ができなかった反動なのかな?
でも、【ラビリントス】まで来るのも馬車で数日かかるし、ダンジョンの地下15階まで来るにも時間がかかるよね?
疑問をこぼしてみれば、タケルさんの顔に苦笑が浮かんだ。
「15階までは難易度はそれほど高くないから、自分が強いか冒険者を雇えば最短距離を行けば1日ぐらいで来れるな。街までは俺の血筋だけが使える転移ゲートを利用していれば一瞬だ。壊れてなければだが」
そんな物が!
「俺の2番目の息子が魔道具作りが得意で、前の世界の話とかラノベの話とかしていて、それを参考にして領内に幾つか転移門を作ったんだ。俺の記憶が間違ってなければ【ラビリントス】の近くにもあるはずだ」
話によるとダンジョンができる前は魔石の採れる鉱山だったのだとか。
そこで採れる上質な魔石で魔道具を作っていたらしい。
海の街【メーア】で見た門や自動改札口のような犯罪判別機も2番目の息子さんが作ったそうだ。
因みに長男は魔法に長けていて、末っ子である長女は白魔法が得意だったそうだ。
転移門は基本的にクライン家の血筋か許可を得た人しか利用できないようになっているらしい。
エミールさんは恐らくこれを使っている可能性が高いとのこと。
領主様がまだまだ元気とはいえ、跡継ぎのエミールさんが年に何度も一週間以上不在って外聞が悪いものね。
「残りは甘味系の依頼だけど、それも作るの?」
「んー、砂糖は冒険者に買ってきてもらっているから大量となるとなぁー。卵は鳥系の魔物からのドロップだから大量になると面倒。牛乳やバター、生クリームも大量に手に入れるのは面倒。チョコはカカオから色々工程を経て作るだろう」
確かにダンジョンの外ならチョコ以外はお金を出せば何とかなるけど、ダンジョン内では大量に手に入れるのは大変よね。
「砂糖はサトウキビとかテンサイを採れるようにすればできない訳じゃないが作り方は知らないし」
タケルさんは小さく唸った。
自分が偶に食べたい分は私から分けてもらえば良いし、指名依頼も受けるか受けないかは自由だ。
「砂糖の作り方、教えようか?」
「いや、砂糖以外にも色々あるから……。リィーンから分けてもらうのは可能かな?」
魔法を使えば簡単だけど……どうしようかな……。
仕入れが度々だと面倒臭いし……。
自分が食べたいのか、子孫が可愛いのか……。
「勿論、対価は払う」
対価か。
幸い今はお金に困ってないし。
ちょっとぐらい無茶振りしても大丈夫だよね?
「じゃ、私エリアに家を作って欲しいな」
「家?」
タケルさんは不思議そうに首を傾げた。
「今住んでいるところは、元々は他人の家だった場所で、造りも変なの。窓が無い部屋も多くて、天井が低くて。だから、一から全部作ってみたくて。でも、流石に家を作るのは大変だから」
頑張れば作れるかもしれないけど、面倒だ。
タケルさんのスキルを使えば一瞬でできるらしいから基本的な部分を作ってもらって内装は時間をかけてじっくり作りたい。
私エリアだからタケルさん以外は誰も来ないし。
可愛い家を作りたい。
今住んでいる家と繋げてしまえば不便も無いし。
「そんなので良いなら」
やった!
大きめの2階建てにしてもらおうかな。
必要なら増築してもらえばいいよね。
「……働く人造人間達の住居も増やさないといけないなぁ。エリアを広げるか」
タケルさんが呟く。
一応、人造人間用の住居がある。
店の営業時間が終われば、そこに帰って寝るのだそう。
従業員寮な感じらしい。
「あ、不定期な納品は面倒だから一日の販売数量は限定にしてね」
「分かった」
後日、ダンジョン内の冒険者ギルドでは、商業ギルドから甘味の作り方開示の依頼がくるようになったとか。
ネタが思いつかないので、ますます遅筆になっております。m(*_ _)m




