ダンジョンへ行こう!
ご無沙汰しております。
気がつけば5ヶ月が過ぎていました。
今回もお付き合いいただけたら嬉しいです。
半年がすぎた頃、とっくに出来ていた人形の家が完成したとステラさん達に伝えた。
私個人としては既に過去の話で、出来上がった時の喜びは既に無かったので無限収納から出しながら淡々と説明した。
ただ、ウサギ家族を作るのをうっかり忘れていて、作ったのは昨日だけど。
人形は軽めの丈夫な木を削って作った。
服は後ろの紐を外せば着脱できるようにしてある。
ついでに寝巻も作っておいた。
ステラさんたちは出来栄えに吃驚して声も無く暫く凝視していた。
値段をどうするか相談したら最低でも白金貨1枚以上は付けた方が良いという。
時間がかかるのと一点物という付加価値。
それに精巧さを加味するともっと高値を付けても問題無いとのこと。
ただ、予め予算を決めて無かったこともあり、先方と相談をして折り合いが合わなければ不成立とした方が無難だと言われた。
技術の安売りは今後を考えるとしない方が良いらしい。
私が良くても同じような物を作る職人が今後出た時に前例を参考にする可能性が高いからだそう。
あとは予算内に収まる物を再度作るという選択肢もあるということだ。
商談の事はよく分からないのでステラさんにおまかせすることにした。
因みに不成立の場合は買取ってくれる人を探してくれると言われたが、別にどちらでも良いので断っておいた。
今世の私はお金に困っていないし、時々出して楽しむのもアリだもの。
そして、今日はダンジョンのある街【ラベリント】に行くことにした。
この街のダンジョンは別名【食材ダンジョン】と呼ばれている。
というのも地下1階では作物や果樹が採れ、地下2階では様々な茸が採れる。
地下3階では海の幸が採れるそうだ。
地下4階からは他のダンジョンのように魔物が出るそうだ。
地下1~3階は魔物が出ないので冒険者ギルドに所属していない者でも入ることができる。
街の人達は欲しいだけ収穫してそのまま食べたり料理をして食べたりしているのだとか。
それが面倒だと言う人や時間の無い人は店から買うが店の商品もダンジョンから収穫した物なので他の街に比べるとかなりの安価だ。
家畜の肉は他と変わらないが魔物肉は冒険者からの買取量次第では値段が変動する。
これで料理が発展していれば言うこと無し何だろうけど……。
こんなに安価で食材が手に入るなら色々料理に挑戦!……とはならないのはどうして?
何故、シンプルな料理しか無いのか!
調味料が発達していないからなのか、それとも、この世界の人は食に興味が薄いのか。
でも、美味しいと分かったら作り方を求めるのだからそういうわけではないよね?
不思議。
んー、でも私も前世の知識があるから色々とするだけで、何の発想も無いところから考え付いて作っているわけでは無いから、きっかけさえあればってことか。
そう考えると、どんな事でも初めてを発見する人って偉大だな。
面倒臭がらず、もう少し色々な作り方を広めていこうかな。
ダンジョンの入口は街の端にあった。
普通は街の外にあるのだけど、食材が好きな時に手に入れられるようにと街中にあるそうだ。
それにこのダンジョンではダンジョン内の魔物が増えすぎることによる魔物の氾濫が起こらないそうだ。
冒険者が頻繁に出入りしているからというのもあるが、マスターのいるダンジョンは滅多に魔物の氾濫がおきないそうだ。
マスターの性格にもよるそうだが、少なくとも【ラベリント】のダンジョンでは存在が確認されてから一度も魔物の氾濫が起きていないとマップの説明にあった。
ただし、マスターの気まぐれでダンジョン構造が変わることが多いので難易度が一定ではないそうだ。
ダンジョンの中にはマップによる転移ができない為、普通に入口から入った。
入口前には見張りのような人は特にいなかったが、いくつか露店が並んでいた。
地下3階から地下4階に降りる階段前にはゲートがあって、冒険者カードが無いと入れない仕組みになっているそうだ。
地下1階は色々な作物や果樹の実った木々があった。
季節は関係なく、色んなものがある。
私の家の庭に近い状態だ。
試しに手近な苺を摘み取ると直ぐに次の実がなった。
人がたくさんいて、あちこちで収穫をしている。
少しして移動していくのは個人で消費する人で、たくさん収穫しているのは店で売る人や近隣の村や町に行商に行く商人とかなのだと思う。
自分の庭で収穫できるものばかりだったので、すぐに地下2階に降りた。
うーん……。
茸が採れると聞いていたから林か森を想像していたけど、土の上に色んな茸が生えている状態で違和感しかない。
椎茸も舞茸もエリンギもシメジ、他にも色々と生えている。
よく見れば松茸やトリュフもある。
この世界の人は茸をあまり食べないのかポツポツと人がいるだけだ。
私は茸が好きだし、庭で育てている種類は少ないので色々とたくさん収穫した。
無限収納があるから問題無い。
帰ったら何を作ろうかな。
地下3階に降りると海が広がっていて砂浜には小舟がいくつもあった。
4人乗りくらいかな?
小船には何も釣具は無いけれど、海の方を見ると釣竿や網で魚を捕っている。
道具は自前のようだ。
1人で動かせるのかな?
試しに小舟の1つを押してみると、難なく動かせた。
魔法を使って乗り込む。
揺れはほぼ無い。
オールのような物は無いがススッと滑るように海に出た。
動くように思えば良いだけのようで止まる時も同様だった。
海の中を覗くと生息地や生態等をガン無視したように様々な魚が泳いでいた。
こんな魚が欲しいなと思えば魚の種類が変わった。
便利だけど魚に詳しくないと不利なのでは……。
【メーア】で買えなかった鮭やマグロ等の大き目の魚と蟹や海老やウニを捕った。
タコやイカもよく使うので多めに捕っておくことにした。
試しに昆布やワカメを思い浮かべてみれば、水面に昆布やワカメが浮かんできたのでそれを採取した。
ワカメにはちゃんとメカブ部分もついていた。
取り放題で無料。
冷凍技術が発達していればボロ儲できそうだよね。
若しくは時間経過の無い魔法鞄があれば……。
でも、手に入れるには大金がいるし、1つだけだと効率が悪いから普通は無理よね。
卵が先か鶏が先か……。
漁? の後は陸に戻り、下に降りる階段がある場所とは反対方向に向かって砂浜を歩く。
端辺りに来ると人は全くいない。
自分にかけている結界の範囲を広げ、他人から中が見えないようにする。
音や匂いも遮断する。
無限収納からバーベキューセットを取り出した。
【神の図書館】で調べて鍛治と錬金術のスキルを使って作った物だ。
バーベキューやってみたかったのよね。
身長が足りないので横長の踏み台を置く。
炭を入れて魔法で火をつける。
小さな木のテーブルを出し、風魔法で捕ったばかりの魚介を切ると塩胡椒を振って網の上にのせた。
以前【メイヤー】で買った帆立ものせる。
他にも家で用意してきたお肉や野菜をのせて焼いていく。
ホタテにバターと醤油をかける。
美味しそう!
小鉢を出して自家製の焼肉のタレを入れる。
「ねえ」
不意に後ろから声が聞こえた。
振り向くと男性が1人立っていた。
外からは見えないようになっているはずなのに目が合う。
しかも私以外は入れないようにしたはずが結界の中にいる。
黒目黒髪で長身。
日本のイケメン俳優のような感じだ。
「バーベキュー、俺も混ぜてくれない?」
なるほど、バーベキューという言葉を知っているということは彼は転生者か転移者、若しくは召喚された人のようだ。
何かしらのチート能力があって結界内が見える上に入れるということのようだ。
でも、何か違和感があって聞いてみることにした。
「お兄さんが誰でどんな存在なのか教えてくれたら混ざって良いよ」
「……俺の名前はタケルだ。このダンジョンのマスターだ」
しばらく考えた後にそう応えた。
日本名だね。
それにダンジョンマスターか。
うーん。
「もしかして英雄で初代領主さん?」
タケルさんはちょっと驚いた顔で頷く。
「天寿を全うして死んだと思って目が覚めたら何故だかダンジョンマスターになってたんだよ」
タケルさんは困ったように笑った。
「おまけにダンジョンから出られないしさ。その当時はできたばかりのダンジョンで何も無くて退屈でさ」
暇なので、とりあえず食べ物をどうにかしようと地下1階から地下3階を作ったらしいのだけど……。
特にお腹が空くことも無く、自分を鑑定して見たら食べても食べなくても良い体になっているのを知ったのだとか。
外の様子は分からないけど、その内ダンジョンの周りに人が住み始めるだろうとそのままにして地下4階以降を作っていったらしいけど、話す人もいなくて退屈で仕方がなかったようだ。
それに、死ぬ前は人に囲まれた生活をしていたから1人で寂しかったとか。
私と違って1人に慣れていないと辛いよね。
それも数百年という長い間だし。
時々、ダンジョンに来る人に声をかけて話をすることもあるそうだ。
勿論、ダンジョンマスターである事は内緒で。
私に正体を話したのは強い結界を張ってまでバーベキューを準備する私に興味を持ち、どうやらチート能力のある転生者か転移者である事に確信を持った上で話しかけたそうだ。
タケルさんて日本で言うところの今風?の容姿だし、バーベキューという言葉は数百年前の日本は無い言葉なので何年に召喚されたのか聞いてみたら、何と私の死んだ2年後の日本からだった。
何でも転生とは違って召喚は過去現在未来から条件の合う人間の中からランダムで選ばれるらしい。
召喚当時は20歳の大学生でモデルの仕事をしてたそうだ。
老衰で死んでダンジョンマスターになった時には、その頃の姿に戻っていたそうだ。
ラノベにありがちなご都合主義はこの世界にもあるのね。
まあ、私の能力もかなりご都合主義だけど。
話しながらも、どんどん食べていくタケルさん。
懐かしい味だと涙ぐんでいる。
前世の話もできるし、相手に不審がられないように気を使って喋らなくても良いしで久しぶりに楽しいと呟いた。
私も自分の事をポツリポツリと話す。
私の事を他の人に話さないだろうと信用したという事もあるけどタケルさん自身が人間社会から隔離されている存在であることから態々私の話をダンジョンに訪れる人に話す必要は無いからだ。
「こっちの世界は楽しいか?」
タケルさんはそう聞きつつ私の頭を撫でた。
私は「前世よりもずっと楽しい」と答えた。
「多分だけど、リィーンは神の加護を複数もっているから長寿だと思うぞ」
過去にそんな人がいたのか聞いたら、古い文献に1人だけいたらしい事が書いてあるそうだ。
栄養が足りるようになっても成長が遅いのは、そう言うのが関係してるのかもね。
今の所はごまかしのきく誤差の範囲だけど。
いつかは転生? 私の場合は転移かな? をしてから出会った人とお別れする日が遠くない未来に来そうだ。
つまり、一人ぼっちでもいいのでスローライフをしたいという願いは叶っているというわけね。
今はまだ、それが悲しいとか寂しいとかいう感情は無い。
でもいつか、タケルさんのように長い年月を1人で過ごしたとしたら、そんな気持ちになる日が来るのだろうか?
そもそも、かなり長寿かもしれないという不確かな予測が前提だけど。
今度、女神様に聞いてみようかな。
タケルさんは〆に作った焼きそばまで綺麗に食べた。
空腹感は無いけど満腹感も無いんだって。
神様と体質が似てるみたい。
でも、ダンジョン内であればダンジョンマスターは神様みたいなものよね。
そうそう、別れ際にタケルさんが貝は砂浜を掘ったら出てくると教えてくれた。
思いつく限りの貝を思い浮かべて掘りました。
満足!
その日の夕食は海鮮たっぷりの丼と蛤のお吸い物にした。
女神様達も満足の味で後日何度かリクエストされるほどだった。
次回もタケルさんが出てくる予定です。




