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私の過去②

私が就職した後は


「もう、お前一人で大丈夫だろう。親の義務は果たした!」

とマンションを処分して、両親は妹の療養と称して海外に移住した。

妹は英語が話せないが移住先でもずっと引きこもるのだろうか?

それなら態々住み慣れた日本を離れる意味は無いのでは?

外に行く時は母か父が一緒に行動して通訳をするのだろうか?

まあ、どうでも良いか。


それより、果たしたという親の義務とは何だろ?

妹が引きこもりになってから果たしてくれた義務は学費と月1万円のお金。

その学費でさえ払っていたのは教育に厳格な父方の祖父母だった。

一人息子の父は祖父母の期待に応えられなかった。

諦めきれない祖父母の期待は孫に移った。

学費の他に学校関係の備品代や参考書代も祖父母が支払ってくれていた。

幼稚園から高校まで制服も靴も鞄も校則で決まっていたので学校ではサイズの合わない物を身につけずに済んだ。

他の生徒は自由な服装や鞄を持ちたいと不満を漏らしていたけど。

両親は祖父母の心証を害したくないので教育関連のことだけは最低限ではあったけど出席してくれた。

祖父母は勉強に集中しやすい環境整えるようにと生活の援助金まで出してくれていたが、そのほとんどは妹の服や趣味、両親の贅沢の為に使われていた。

それがバレない為にも私がアルバイトすることを反対していたのだ。

ただ、祖父母は教育に拘ているだけで私という存在を愛しているわけではなかった。


私が就職する少し前に祖父母が立て続けに亡くなり、父は遺産を手に入れた。

もう、祖父母の目を気にする事も無くなったので自由にすることにしたらしいが、その結果が海外移住だ。

父の事だから思い付きで十分な準備をしないまま行った可能性があるので後々苦労する事だろう。


戸籍上の家族が居なくなって一人暮らしを始めた。

私以外、誰も帰って来ない家は快適だった。

相変わらず贅沢は出来なかったけど。


会社では愛想笑いさえしない私が生意気だと男女問わず無視された。

私の指導係は教えて貰っていない仕事も教えたと言い張り、物覚えが悪いと馬鹿にした。

反論すれば、そんなに私の指導が気に入らないなら、これでも読めばいいと分厚いマニュアルを渡された。

幸い、記憶力は良い方だし、ちゃんと(・・・・)最新版だったので休日に全て読んで覚えた。

それがまた気に入らないのか、嫌がらせにいくつもの仕事を押し付けてきた。

当然、それらの書類には製作者である私の印が押される。

いつの間にか先輩達が提出する数倍の書類に私の印が押されているので、上司は理由を訊ねてきた。

私は

「私は先輩達に回された仕事をしただけです。新人の私と違って先輩達は私以上のスキルを持っているのですから、この数倍の量を片付ける能力があるのでしょうね。尊敬します」

とニッコリと笑って周りを見た。


その後は物を隠されたり仕事の回覧板や伝言が回ってこなかったりで、仕事に影響が出て上司から注意を受けた。

上司に嫌がらせを止めるように注意して欲しいとお願いすると、私が可愛げが無いのが悪いと舌打ちまでされた。


両親だけではなく誰も私の言い分を聞いてくれないのだと落胆し、何だか全て嫌になった私は、こっそりと仕事を辞める準備を始めた。

家にある数少ない荷物を処分して、仕事は進められるだけ進め、引き継ぎ書を作った。


辞める日、皆が帰ってから私の仕事の書類と引き継ぎ書を上司の机に置いた。

その上に辞表を置く。

一身上の都合なんて会社の都合が良い書き方はせず、今までの事を全て書いた分厚い辞表。

保険の為に同じものを社長宛に送っておいたけど、どうなるか。

手続きだけして辞表を破棄するかもしれない。

少なくとも上司はそうする気がした。

社長はどうだろう?

まあ、辞めた後のことを気にしても仕方が無いか。

私に押し付けられていた仕事は、元々の担当者の机の上に手付かずのまま戻しておいた。

締切まで3日ほどあるのだから何とかなるだろう。

ならなくても知ったことではない。

私の仕事ではないのだから。


着替えの入ったボストンバッグと小さな鞄を持って会社を出ると、そのままビジネスホテルに向かった。

少しは貯金もあるし、今後のことをゆっくり考えることにした。


明日にはスマートフォンの番号を変えてしまおう。

今は誰とも関わりたくない。


だけど私がホテルにたどり着くことは無かった。

向かっている途中で建物の補強工事の為の足場が崩れ、あっさりと死んでしまったから。


家族も会社の人間も「バチが当たった」なんて言って笑うのだろうな。

最期に思ったのはそんな事だった。

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