街でお買い物②
もうしばらくお買い物編が続きます。
退屈なようであれば読み飛ばしてください。
靴屋の次は手芸屋だ。
表示されているのは三軒。
一軒は高級品を扱う貴族向けの店。
一軒は中級品を扱い、一部高級品も扱う富裕層向けの店。
一軒は程々の値段で、一部中級品も扱う庶民向けの店。
こういう大きな街はトラブルを避ける為にも客層を分けた経営をするものらしい。
確かに客層を絞った方が幅広い商品の在庫を抱えなくてすむから合理的と言えば合理的よね。
小さなお店だった。
【アリアの店】と名前もシンプルだ。
「こんにちは、お嬢ちゃん」
中に入ると50代ぐらいの女性がにこやかに出迎えてくれた。
「こんにちは。お姉さんがアリアさんなの?」
少し子供っぽく話してみた。
「そうだよ、可愛いお嬢ちゃん」
うん、機嫌が良さそう。
どこの世界も女性は年齢に敏感なものだ。
特に子供の遠慮ない発言は歓迎されないことが少なからずある。
「今日は何を買いに来たんだい?」
「生地と基本的な裁縫道具。あとは縫い糸と刺繍糸。刺繍に使う枠も欲しいです」
「何を作るんだい?」
「ワンピースと小物です」
「だったら肌触りが良い物にするかい?それとも普通の生地にするかい?小物を作るなら少し丈夫な方が良いかもね」
そんなの考えた事無かったな。
前世では予算内で買える生地としか思ってなかったし、小物は着られなくなった服で適当に作っていたし。
「えっと、どんな布が良いか分からないです」
「あらあら、お母さんたら、うっかり言い忘れてしまったのね」
アリアさんは少し困った顔になった。
私は自然に出来上がった設定にのることにした。
「予算は聞いているので、どんな布があるか見せてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろん」
アリアさんは奥から布を何種類か持ってきて値段と何に向いているかを教えてくれた。
その中からワンピース用に少し肌触りの良い薄青色の布と小物用に少し丈夫な白い布を多めに買った。
染料も買う予定なので白い布の方が色々と楽しめる。
「私も教えてもらって小物を作る予定なので子供用のハサミも欲しいです」
「手を見せておくれ」
アリアさんは私の手の大きさを確認してから幾つかハサミを出してくれた。
実際に試した方が良いと厚さの異なる端切れをくれた。
うーん、高い方が切れるし、手に馴染むけど。
大きくなったら使いづらくなるわよね。
そういえば私、鍛治スキルがあったわよね。
材料と作り方が分かれば自分で作れる可能性がある。
だったら、見本になりうる物を買うべきよね。
「これにします」
高いけど、一番使い易いハサミにすることにした。
他にも縫い糸と刺繍糸と針、刺繍用の枠、物差し、布に印をつけるペン、リボンとボタン、染料を買った。
ついでにヘアゴムを多めとパッチンピンと手芸用のボンドがあったのでそれも買った。
まあ、これだけあれば何とかなるでしょう。
「重いけど大丈夫かい?魔法鞄は持っているかい?」
ふむふむ、魔法鞄は一般的に使われているのね。
「お母さんから鞄を貸してもらったので大丈夫です。自分用に買おうと思っているんですけど、高いですか?」
「そうだね。ここの領主様が治めている領地内にはダンジョンがあって、そこで多く手に入るから他の土地よりも比較的安価で手に入るよ。容量によって値段が違うけどね。特別な機能がついていないなら、少しお金を貯めれば買えるよ。普通に雑貨屋で売っているからね。ただ、ダンジョンの無い領地や王都で買おうとすると数倍高いそうだよ。付与魔法で作った特別性の魔法鞄は庶民では手が出ないほど高いそうだよ」
アリアさんの話によると魔法鞄はこの領地のダンジョンに多く出る蜘蛛の魔物であるアラクネを倒すと一割程の確率で手に入るのだとか。
九割は蜘蛛の糸らしいが、これで作った布は軽いのに強度が強く刃物を通しにくいので騎士や兵士や冒険者向けのシャツに使われるのだとか。
アラクネは私の前世の空想世界では上半身が女性の蜘蛛の魔物だけど、この世界では人間の大人くらいの蜘蛛なのだとか。
虫全般、あまり好きじゃないので出会いたくないな。
アラクネは一匹だけならC級冒険者かそれ以下のランクの冒険者でも連携すれば倒せるのだそうだ。
ただ、ドロップした魔法鞄の中で容量が多い物がドロップする確率は低く、特別な機能のある物は下層の宝箱や強いボスを倒した時に稀に出る物らしい。
容量が多い物や特別な機能のある物は王都で高額で取引されるので冒険者は一攫千金を狙って、この領地のダンジョンに来る者も多いらしい。
結果、容量が普通程度の物がたくさん集まり、庶民でも手に入りやすい値段になったのだとか。
普通程度でもアリアさんの店の大きさより多く入るのだとか。
凄いね。
魔法付与された物は好きにデザインして作った鞄に収納魔法を付与して作られる物で、鞄の値段と付与されたレベルで値段が違うそうだ。
そもそも、それを付与できる付与師自体が希少なので小容量でも物凄く高いらしい。
「本当か嘘かは分からないけれど、小容量の鞄に普通の魔法鞄を入れて使っている人もいるらしいわよ」
アリアさんは朗らかに笑って言った。
本当の事なら見栄を張るのも大変だ。




