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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、どんな者にでも手を差し伸べる優しいものだ
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24層 箱舟の騎士

「……ねぇ、カル、今日はどうするの?」


「今日はこの24層で……『箱舟の騎士(アークナイト)』と戦う」


「……正気?相手はフロアボスだよ?」


「あぁ、わかっているさ、わかっているからこそ、戦うんだ」


「?どういうことよ?」


「男は男の戦いが1番好きなんだ、なめらかに滑る剣閃、美しく繰り広げられる剣激は誰の心をも魅了するさ」


「……まぁ、それに関しては同意するわ」


 シガネも剣は好きなのだろう、この凝った装飾が物語っている。


「だろう?なら、やるべき事はひとつ、剣1本で彼に立ち向かい、勝利すること」


「……わかったわ、ただし」


「死ぬな、でしょ?わかってるさ」



「……見つけたぞ、箱舟の騎士」


「……なんだ?貴様は」


 あぁ!あの箱舟の騎士が話している!俺の目を見て!本物の箱舟の騎士の声はこんな声なのか!


 彼の纏う空気はこんなにも重いのか!


 美しく洗練された騎士の空気、俺も気を引き締め、憧れの騎士に、また別の憧れの騎士の様に話す。


「『私』の名はカルカトス、冒険者で、今は迷宮探索者で……何よりも、1人の騎士として、貴方の前に立ちます」


 上手く名乗れただろうか?


 剣を抜き、我流で構え、真剣に、そう言い放った。


 その俺の熱意が伝わったのだろうか?

背中からあの物語にいた大剣を、抜き、その剣先は俺の方を向いている。


「面白い男だ……我が名は『アルガンダラ ザ ハード』我の騎士の誇りと、我が名に懸けて『貴殿』と戦おう」


 『アルガンダラ ザ ハード』……?

嗚呼、貴方はそんな名前をしていたのか……!

誰も知らない……いや、マイン ウェイパーを除いて誰も知らない彼の名を、この俺が知っている。


 顔も隠れる甲冑の向こうで笑っている彼に同調するように俺も笑う。


 ひとつ、やってみたかったことがあった


「いざ……」


 そう言いながら腰を下ろすと、察したようで同じように腰を下ろし


「尋常に」


「「勝負!」」


 地を強く蹴り、大きく距離を詰める。


 大剣は一撃こそ重いが小回りが効かない。

懐に入り込み、甲冑の隙間を縫うように切り刻み勝利をもぎ取る……!


 それはわかっているのだろう、見事な体捌きで甲冑の隙間を狙えない。


 大剣の一撃は全て受け流すよう心がける。


 やはりこの騎士は強い。

フェイントを入れて、力の強弱を入れて、そして、少し俺とは違う高みにいる。


 だからなんだ、それぐらい想定の範囲内だ。

今、俺がここに立っているのはこの騎士を超えるためだ、それはどこか一つだけでいい、その1つ上回っているそこでケリをつけるんだ。


 体術は使わない、手を抜いているわけじゃない。


「カルカトスと言ったな!貴殿と我の剣技は相性が悪いからかキリが見えん」


「は、はぁ……はぁ……そうです……ね!」


 だが、体力差は大きい。


「このまま貴殿が果てるのを待つも良いが……我が騎士道に則り、貴殿を我が一撃の元に華々しく散らしてやろう」


 大剣を片手で持った……どんな腕力だ?


「『我が剣は世界の終末』『我が一撃は箱舟をも貫く』〈箱舟の破壊剣(ノア・ブレイカー)〉!」


 その瞬間、世界が爆ぜた。


 地面から巻き上がる石1粒が凶器とも言えるその世界で、振り下ろされたあの大剣は森に巨大な穴を開けた。


 いつ、どんな風に剣を振り下ろしたか、俺にはまるで見えなかった。


 ただ、これだけは分かる『生きているのは、幸運だ』


「……ほう『受けた』か」


「……!」


 声を出す余裕もない……というか出ない。


「……見事だ……今一度立ち合おう!」


 剣を構える『アルガンダラ ザ ハード』に声の代わりに剣を構えることを応えとした。


 逃げるのはあまりにも勿体ない……!

距離があったおかげで剣による風圧、飛び散る森、そして俺を斬り裂こうとする斬撃。


 全てを叩き落とした……自分の限界では何発も食らった……が、生きている。


「ゆくぞ!カルカトス!」


 その動きにはどこか疲れが見て取れた。


「いきます!……アルガンダラ ザ ハード!」


 それは俺も同じだ。


 振り上げ、振り下ろすその間に、空いた隙間に剣を突き刺す。


 斜め下から心臓を突いた……致命傷だ。


「……っぐはっ!……見事だ……カルカ……トス」


「……わざと……わざと、負けましたね……!」


「我が騎士道に、我が誓いに、我が誇りに!一片の悔いも!後悔も!何らひとつの手加減も無い!」


 心臓を突いたというのに、こんなにも大きな声で、血を唾液のかわりに飛ばしながら俺に伝える。


「……分かりました……ありがとう、ございました……『箱舟の騎士 アルガンダラ ザ ハード』」


「……持って行け、この剣を」


 あの大剣を俺に差し出してくれた。


「……ですが、この大剣は」


「……我が剣は魔を払い、敵を裂き、そして、我が命と同じものだ……我の意志を、連れて行け……名はまだないその剣を」


「……はい、頂きます」


 体が光に包まれ、アルガンダラは迷宮に消えた。


 剣は魔石の代わりにそこにある。


 持ち上げる……重い、これでは持って帰れない……


「アイテムボックス、貰っていてよかった」


 中に無理やり入れる。


「……お疲れ様、カル」


「あぁ、ありがとう……シガネ」


 ローブの下からポーションを取り出し、仮面から口だけ出して飲む。


「……その剣、名前ないんだってね」


 シガネが紫の瞳を光らせ俺に聞く。


「この剣の名前はもう決めてるよ……」


「……そう……で?名前は?」


「『箱舟の破壊剣(ノア・ブレイカー)』」


 彼の最後に放った一撃と同じだ。


「……なるほどね、いいわ、それでいいでしょう」


 お気に召してくれたようだ。


「でも、大剣なんて使えるの?」


「頑張れば使えるさ」


 アイテムボックスを腰に提げ、ボロボロのまま迷宮を上がった。

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