第3章 峠を超えたその先は
「……さて、おはようみんな、とりあえず今日は山を超えて、その先へ、この島の奥へ向かっていく!」
「……さ、行きましょ!先輩!」
「せ、先輩……?私かい?」
「はい!」
マロンさんがそう私を呼んだ。
「な、なんでかな?私は別に拳士では無いが?」
「いやー!先輩の身のこなし!凄いっすからね!あんなにシュババッ!と動けるなんてすごいっす!」
「は、ははっ、そうかな?」
「はい!見て!覚えていきます!」
「そうかい、頑張ってくれ」
「はいっ!」
そんな調子で山を超えた……その先は……
「……さ、砂漠……?」
「この島の地形はどうなってるんだ……!?」
辺り一面が砂のこの砂漠だ……
「……す、進む他ないだろう……幸い砂漠と言ってもそこまで苦しいことは無いだろう……この調子だと時期に別のエリアへ移れるはずだ」
今までの感じから見るに、確かにそうだろう。
森、湖、山、そしてこの砂漠、次がまたすぐにやってくるだろうからな。
「なら、止まっている暇はない……行こう」
そのまま進み続けること数分後
「あ!猫だ!」
「……猫?」
確かに砂と同系色の毛色の猫がこちらを向いている。
「ナァーオ」
「どうしたのー?猫ちゃん?」
マロンさんが近づいていく。
「まてっ!不用意に近づくな!」
「えぇー?こんなに可愛いのにですか?」
「睡蓮魚の一件を忘れたか!?」
「うぐっ……そ、そうっすね、それに私だけで遠征してる訳でもないですからね……すいませんっす」
「いや、わかってくれたらいい……」
「……だが、時にアーサーよ、あの猫はどうやら我々をどこかへ導こうとしているようだが?」
「?それがどうかしたか?ファーヅ」
「……あの猫をよく見ろ、どうだ?痩せこけているか?」
「!……いや、至って普通の猫だ、痩せていなければ太ってもいない、猫だ」
「つまり何か食うものがあるということだ、あの猫の胸元を見てみろ、血ではない何かの『液体』が付着し、乾燥したパリパリになったあの毛を」
「……つまり、何が言いたい?」
「あの猫は少なくとも血肉を好むわけでもなく、その猫が生きられるほどの物資があるどこかがあるかもしれんということだ」
後ろからその解説を聞いて歓声が上がっている、さすがにこの砂漠はなかなかに応えるものがある。
「……よしわかった、いいだろう、だが、気をつけろよ?」
「はーい!」
嬉しそうな顔で猫を追いかけるマロンさん。
そして、到達したその先は
「さ、サボテン……?いや!それよりも水だ!」
そこはオアシスだった。
「……いや!まてっ!」
ウォールさんがなにかに気付き、そして、我々の進行を手で止めた。
「なんだよ……」
「あのサボテン少しおかしくはないか?」
「おかしいって何がだー?」
後ろから水を求めている他の探検者たちが声を上げた。
「……いや、私の気のせいか……?いや、それならいいんだ」
自信なさげに腕を下げると何人かがオアシスへ向かっていった。
その瞬間だった、砂漠に血が舞うのは。
「……なっ……!?」
各々驚いたような、痛みにもがくような声を上げ、鮮血を撒き散らし、血に伏せた。
いや、あの一撃なら死人が出ている可能性もある。
「……な、なんなんだよあのサボテン!?」
太い幹を振り回し、トゲの着いた体を振り回す
「ま、魔法だ!炎魔法を!」
そういうと何人かの魔法使いが炎を飛ばした。
動かないサボテンに命中し、朽ち果てた。
「……じ、状況確認だ」
確認の後、3名の死亡、12名の重軽傷者が出た。
「お前たちは、この遠征に参加したことを後悔しているか?」
その日の夜、仲間を弔い、しんみりとした空気の中の食事中にアーサーがそう聞いた。
皆が答えあぐねていると
「俺は後悔していない、例えるなら……この砂漠の砂のひと粒程の後悔もな」
砂をつまみ、サラサラと落としながらそういった。
「……私も、後悔はしていないな、するのならまだあまりにも早すぎる
この大陸に上陸し、まだ数日……彼らの死を教訓とし、明日を我々が生きることこそ、残されたものの使命だ」
私も仲間を失ったことはある。
だからこそ言える言葉だ。
「『不死身』が言うと説得力が違うな」
「……まぁ、そうだな」
だからこそアーサーのような心の持ちようが大切なのかもしれない。
『砂漠の砂ひと粒程の後悔もしていない』か。
最後のセリフ、わかる人には分かるんじゃあないでしょうか?




