第2章 大睡蓮魚
「……ど、どうする?あの化け物」
「……スルーして欲しいな、あの化け物は結構戦い慣れてそうだよ、こことは違う別の場所へ行くのがいいと思う、幸い地上にはやって来ないみたいだからね」
実際に戦った私がそう言ったのなら異論などはなかった。
「……なら、そうしよう、俺としても、この盾で止め切れそうにないからな」
縦に長い盾を持つ男がそういった。
彼のことをバカにする訳では無いが、あれじゃ受けられない。
「……わかった、あの湖は避けるとしよう、なら、どうする?」
「……また、私が先を見てこよう」
「んー?どうしてです?皆で進んだ方が安全じゃないですか?」
ミストさんがそう質問をして、何人かが頷くのが見えた。
「1つは大睡蓮魚の諦め具合を見ること、最後に奴が見た人間は私だからね、その私が通れるかどうか
そして、もう1つが、先がどうなってるかの確認だ、このままだと今夜の野営先も上手く定まっていないだろう?」
「な、なるほど?皆さんいいですか?」
ミストさんが皆に聞くと結果私一人で行く事となった。
「……?無反応……か」
嬉しいことであるが、少しばかり拍子抜けと言える……
「この湖の外に出た訳でもないし……また睡蓮は浮かんでいるのか」
ふむ?まるで分からない
「……ははっ……なんの冗談だい?」
誰かに言った訳じゃない、むしろ、誰かに言っているのならどれほど良かったか。
「何だこの険しい山道……!?」
別に私が登る分には大したことは無い……私一人が登るのならだがね。
「……と、とりあえず戻ろうか」
帰りに見えたひとつの影で、また1つ私は心が折れかけた。
というわけで戻ってきたが……
「おかえり、クライン、どうだった?」
アーサーが迎えてくれた。
「あぁ、そのとこだが1つ目に大睡蓮魚は襲ってこなかった、まぁ、それは君たちにもわかっただろう?」
「まぁ、あんな化け物がいたらすぐにわかるからな」
「もう1つが……その、山岳地帯だ」
「……なに……?」
「?それのどこがそんなに大変なんですか〜?」
マロンさんが軽い調子で聞いてくる。
「……我々がもしも、このアーサーパーティー1組なら大したことは無かっただろうね
だが、今、我々は団体で、100を超える人数での行動をしている、山岳なんかの険しい山道では休むのですら一苦労、それに……なぁ、皆『勇者ココア』の英雄譚を読んだことはあるか?」
一見なんの意味もなさそうに聞こえるこの質問に、皆は首を傾げていた。
「……『ホークレイン』って、知ってるかな?」
その言葉を聞いて、察しの良い者達は顔を青ざめさせた。
「ま、まさかっ!?」
誰かがそう声を上げた。
「そのまさかだ……帰る途中に確かに見た、あれは間違いなく『ホークレイン』だ」
勇者ココアの英雄譚に出てくる山岳地帯の強大な鳥『ホークレイン』は勇者ココア一行を大いに苦しめた敵だ……我々が戦えば間違いなく損害は免れない。
「……さ、山岳地帯もパスだ……!」
「俺も、そうして欲しいな」
「私も!」
「……うん、俺としても、そこは通れないな」
アーサーがそういうと皆安心したような顔で息を吐いた……私もだ。
「……なら、今日はここで簡易的なキャンプ地を作り、ここで泊まるとしよう」
「……あの山の先に、果たして明るい未来は待っているのか?」
ファーヅさんがそう、深刻そうな顔で聞いてきた。
「……わからないが……エルフなら知っているだろう?勇者ココアの話は」
「……あぁ、我々の先祖であるミーヤ ノエルもまた、魔王討伐に参加をした1人だからな……」
「なら、迂回をする私の判断は間違っていないはずだ……」
「あぁ、どんな未来でも、お前を呪ったりはしない」
「ありがとう、ファーヅさん」
「……例には及ばない」
やはり、彼とは仲良くなれそうだ。




