2秒と少し
もう一言たりとも発せる暇もない。
最初の刹那の時間で動きは決まっている。
地面を蹴って前へ飛ぶも、俺のステータスじゃそこまで早くはない……なら、刹那の時に地面を何度も蹴ればいい。
加速を何度も繰り返し、力を込めたまま、速く、鋭く、そして、何度も斬り掛かる。
この男に勝つためには、思考の全てを『未来』に馳せる。
俺が完璧に動きを読んだ0.数秒ですらも、遠い遠い未来に感じる。
俺の思いどおりに体が動いていても、別に誰にも見えないほど早くなった訳では無い。
それに理詰めな戦い方だから、動きもわかりやすい、正統派だ。
1秒たった……が、やっとかすり傷少しが限度……なにか、なにか、虚を着く方法があれば!
それが無ければ、片手剣を超えることはできない……!
……あぁ、そうだ、今の俺の戦い方は『理論的な正統派』……なら、そこから枠外れな行動を取ればいい。
非合理的な、そんなことをすればいいんだ……!
クロンも、動きに少し対応してか……初めて反撃をしてきた、この攻撃を、受けるな、避けるな……剣を押し込め!
バンクさんが言っていたじゃないか!『活路は前にしかない』だから!
確実に心臓を狙ったその一突きを、前に、深く進み、ずらす!
左肩に深々と刺さる。
痛い、刺された箇所は熱く熱を帯びている。
だが、俺はまだ、剣を握っている!
右肩から大きく裂き、そして、その剣を離し、直ぐに槍を突き刺す。
距離を詰めてから、致命傷を与えるまでにかかった時間は丁度2秒……意識は残っている。
「……っぐ……はっ」
〈精霊の導き〉を解除してクロンに話しかける。
「ぜ、ぜぇ……ど、どうだ……?クロン……ウェイパーァ!!」
「ぐふっ……そ、そんな大声出さないでくれよ……たははっ、負け負け……見事だよ、英雄サマ、本当に負けたよ」
「……あなたも、アライトさんと……お、同じだ……負ける気だった!」
「……っぐっ!失礼な!後半は本気で殺しにかかったぞ!
なんせ、楽しかったからな!」
「……そうですか」
「あぁ!そうだ!俺を切り捨てた英雄サマにプレゼントあげようか?」
「プレゼント……?」
「俺のこのダガー〈邪龍のダガー〉って言ってなー!立派な名作だぜ」
「いらないよ、それはあなたにとって大切なものでしょう?
なら、それを抱いて死ねばいい」
「ははっ!言い方ってもんがあるだろーがよっ!」
「……ってか、その傷でまだ生きてるの?」
袈裟懸けに斬り、槍を突き刺した……のに、まだまだ余裕そうだ。
「当たり前だ……俺は生命力だけはトップクラスだからな!
身体中を氷で刺されて壁に貼り付けられてもまだまだ息あるぐらいだ」
「……想像しずらいね」
「ま、俺の体もどんどん光になって言ってるし、時期死ぬわな、コレ」
「そうか」
「そうだ、いいこと教えてやるよ、俺たち守護者は1度全員出会ってるんだよな、その中の次の守護者『マイン ウェイパー』は、こう言っていた
『あなたを殺した人と、私は戦います、その人に勝てば、実質あなたを超えたという意味になるでしょう?』だってさ」
「……つまり」
「おめでとう!またもや君は守護者と戦う権利を独り占めできたわけだ!」
「……嬉しいような……大変なような」
「……英雄、目指してるんだろ?アライトとの会話聞いたよ」
「……そうか」
「……諦めるな、あきらめて、一番後悔したのは俺だ
だけども、俺は上手く軌道を修正できた……仲間がいたからだ、お前にはいない……なら、曲げるな、曲げたらきっと後悔する」
「……肝に銘じときますよ」
「そうかい……なぁ?英雄サマ」
「……なんだ?」
「あの世ってのがあるならよ?アライトと一緒にボーッとお前を見ていることにするからさ、俺の輝石持っててくれないか?」
「……もちろん」
「そうかい!なら、お願いするよ『俺の諦めた夢の続きを見せてくれ』」
「……やっぱり、英雄を諦めたって……!」
クロンの事なのか……?自分の事なのか?
「それ以上は野暮ってやつだ、じゃあな『英雄様』」
体が光に包まれ、輝石がコトリと落ちる。
ダガーはあの世に持っていったみたいだ……
「さぁ、みんな、帰ろうか」
「先に肩の止血を!」
「見事なり」
「……すごかった」
〈20層の守護者〉クロン ウェイパー
1月30日『カルカトス』の率いるパーティーが討伐。
討伐の証として、輝石を確認。
いきなり日付が出てきて『いきなりだなっ!?』ってなった方もいると思います、はい、すいません、日付一切今まで書いてませんでした。
初めてダンジョンに潜ったのは逆算しておよそ1か月前の12月
森を出たのは11月という訳です……ほんと、すいません。




