蝕む炎【エンブラー】
「……ねぇ、エンブラー、あの男の子、面白いね」
私の剣である『フラム』がそう語りかける。
「あぁ、そうだね、フラム
彼の纏う空気は……危険だと私は思ったよ」
「あと、私の目から見ると……あの子、枷をかけられてるね」
「枷?」
「えぇ、そうね、例えるなら……そう『頑丈な檻に閉じ込められた獣』?いや、獣なんて陳腐なものじゃないね『心に押し込まれた恐怖』だね」
「?どうしてそんな例えを?」
「んーっとね、簡単に言うと……いつ爆発するとも分からない、人の、生き物の『絶望』や『恐怖』あとは『終末』と、見たね!」
ビシッと決めポーズをとりながら私を指さす彼女に困ったような顔で私は
「それってかなりヤバくない?」
「うん、ヤバいねー、四天王の名にふさわしい、全てを破壊しそうなものだよ」
「は、破壊……私は彼に勝てるだろうか?」
「今の彼には、エンブラーでは勝てないね
でも、本気で彼を殺す気なら、きっと勝てるさ」
「……また、それかい?」
「うん、君は優しい、認めるし、私は君を見ていてほっこりとするものだよ
だが、君は優しすぎる、命の危機には確かに剣を振る、だが、それではもう遅すぎるんだよ」
真剣な顔でそういう。
「優しいことは美徳だよ、美しくて、何者にも変え難い
だけどね、それは同時に、君の最大にして最悪の弱点だよ、私は君が好きだ、だから、君に死んで欲しくない」
「フラム、わかっている」
「いーや、君はそう言っていつも分かってはいるが、行動には決して移しやしないんだよ」
「……フラム……!」
「何よ?」
「私は……!私は!もう、命を奪ったりなんてしたくないんだよ!」
自室で子供のように感情のままに言葉を吐く。
「知ってるよ、君は優しさと同時に『恐怖』だってしているからね
君が『魔王』になれなかったのはそれが原因だからね」
『魔王』……懐かしいな。
「確かに、私は魔王になれなかった!だが!それは……それは……!」
「君は……可哀想な魔族だよ、君は誰よりも優しいのに、誰よりも強くなれるんだ」
冷たく、だが、どんな炎よりも熱い思いを込めてフラムは告げる。
「……それも……わかっているさ!だが!もう、私のせいで誰かが死ぬのは嫌なんだ!そんな事は私が、私はもう、私はァァ!」
「エンブラー!?……また、発作……!」
両手を頭に抱え、小さくなる。
誰よりも強いのに、誰よりも弱い……それがエンブラー
「……もう……嫌だ……剣なんて……力なんて……要らないのに……!」
それでも、私はそれを背負わなくてはいけないんだ。
それが、私の背負うべき罪だ。
「……また、君の発作だから、いつもと同じことを言うよ
君は剣は好きかい?」
「………」
無言のまま伏せる。
「口に、言葉に出してよ」
「………き、き……ら……」
思い出が再燃する。
「……どうなんだい?」
「……好きさ……大好きだよ……でも、嫌いだ……」
「落ち着いた?」
「……本当に済まない、フラム」
「私はあなたが好きだから、こうしてるの、嫌いになったらすぐに助けることを諦めるよ」
「ありがとう……」
皆の前で、舞い踊り、力を練り上げ、それでも、私は罪荷を下ろせない。
フラムは決して彼の心を逆撫でしたい訳じゃありません。
ただ、もう罪を背負う必要が無いと、トラウマを克服させたいだけなんです。




