魔界の城下町《ヘルヴィティア》
「ここが!私たちの住む町、『ヘルヴェティア』だよ!」
両手を広げ、ニコニコしながらそう紹介してくれる。
「何か有名な物とかってある?」
「うーん……魔界特有の珍味とかかな?」
「ち、珍味?」
「うん、正直あんまり美味しくないけど……ディスターヴは好きみたい」
「『ディスターヴ』?」
聞きなれない名前だ。
「ん、そう、元魔王様の部下で元四天王、今はウチの参謀だね」
「へぇ……珍味、好きなんだ」
「うん、かなり好きかな?よく『龍魚のキモ』とか食べてるね」
龍魚……長いからだを持つ、大きな魚だったか……あれ、美味しいんだ。
「他には……魔界って、どことも貿易してないから、ほとんどが自給自足なんだよね
畑も、家畜も、服や武器、他にも様々なものがこの街では独自に進化を遂げている」
「へぇ……聞く人が聞けば興奮しそうな話だね」
「だね、カルカトスは面白い?」
「あぁ、独自に発達した文化……中々興味深い」
「そうなんだ、よかったよかった……さて、次は鍛冶屋かな?」
「鍛冶屋……もしかしてこの篭手作ったのって?」
「!察しがいいね!そうそう『クリアンゼ』さんその人だよ」
作者の名は『クリアンゼ』というのか。
「やっほー、クリアンゼさん」
「ん!てめぇ!俺の力作どこに……あーー!てめぇがもってたのか!!」
赤茶色の髪に、燃えるような瞳、ボサボサの髪をしているが、その頭からは角が2本生えている。
「はい、以前もらいました」
「こんの……ラジアン!俺の可愛い可愛い篭手をよくも人にやったな!」
「賭けに負けたんだよー、勝負の結果から仕方ないことなんだよー!
いだっ!いたたっ!?」
頭をぐりぐりとして、ラジアンを攻撃するクリアンゼさん。
世界の中でも最上位であろう彼女にそんな真似ができるものは……魔王様と彼女の家族ぐらいしか思い浮かばない。
「じゃねークリアンゼさん」
「おうよ、気をつけてな、あんちゃんもじゃあな」
「はい、またいつかお会いしましょう」
「お腹、減ったね」
「だな、どっか食べに行くか?」
「なら、おすすめの食堂がある!」
「へぇ?どこどこ?」
「それはね!ここ!料理屋『魔界食堂』!
魔界でしか食べられない料理から、普通の人にも優しい料理多くって、美味しくて、しかも安価!」
そうか、自給自足だから、最低限経営できるだけでいいのか。
「らっしゃい!お、ラジアンちゃんかい、ご飯食べに来たのかい?」
恰幅のいい魔族の女性がラジアンを迎える。
そして、俺に視線が動き。
「あら、ラジアンちゃんのボーイフレンドかい?」
「ん?違うよー!この人は私のライバルだよ」
「へぇ!ラジアンちゃんのかい!?お兄ちゃん、強いんだねぇ!」
「ははっ、まだまだ勝てなさそうですけどね」
「ラジアンちゃんに勝つ気でいることが凄いものよ
さ、ご飯にしようか」
緑色のスープ、焼きたてのパン、ソーセージに、トマトの乗ったサラダ。
どれも美味しかった。
ラジアンのおすすめなだけはある。
「あの大きな屋敷って誰の家だ?」
街の橋を渡り、そのまた向こうに黒ベースのレンガ造りの屋敷が見えた。
「あれは『エンブラー』っていう貴族が住んでるところだねー
踊るように赤青黒の炎を操る、すごい人だよ」
「へぇ?なんで四天王じゃないんだ?」
「あくまであの人は心が優しいからね、いざと言う時は戦うけど、基本は彼の魔法は人に見せるためにやっているんだ」
「へぇ……見てみたいな」
「なら……もうそろそろ見れるよ?」
「へぇ?どこでみれるんだ?」
「もう時期、この橋の近くで見れるよ……ほら、何人か集まってきたでしょ?」
たしかに魔族が何人も集まってきた、そして、ラジアンを見て驚いている。
少しの間、彼女が彼ら彼女の相手をしていると、屋敷の方から、一人の男がやってきた。
【ヘルヴェティア】
魔界の城下町ヘルヴェティア。
なんと、世界で最も犯罪が起こりにくく、なによりも、住民の気性は温和である。
城下町と言っても、人の国と比べるとかなり田舎ではある。




