魔王城へ【ラジアン】
賭けに勝った!
なんの脈略もなく、私は心の中でそう、勝利宣言をした。
本当に、つい昨日のこと
「……今日をもって、我は魔王を辞める」
そう、初めて聞かされた。
聞くと『前々から言っておれば、貴様らはきっと反対したであろう?』
魔王をやめて、1魔族として静かに暮らすとのことだ……さながら5000年前の魔王のようだ。
「ら、ラジアンっ!?下っ!下海っ!」
「へ?あ、そうだね」
私が手を引いて空を飛んでいると、カルカトスがはしゃぎ出した。
「俺、海をこんなふうに見たの初めてだ!」
あぁ、そうか、私と君は違うもんね。
「たしかに、羽ないもんね」
「そうそう!うわぁ……綺麗だな……!」
確かに、暗い海に反射する月と星々は美しい……
「言われてみれば確かにね」
なるほど、気づかないものもあるんだな。
私はこれでもかなり器用だ。
だから、上手く魔力操作をして、私たちの周りには風は吹き荒れない。
速度も竜にそう遅れを取りはしないと自負している……この翼は私の自慢の翼なのだ。
聖国、剣聖の国、共存の国、色んな国を見ることも無く魔王城に到着する。
「みんなー、たっだいまー!」
声を上げても帰ってくるのは自分の声が反射しただけだ。
「こ、ここが魔王城……?本当に空だね」
「うん、比喩でもなんでもないよ」
ながーい廊下から、両開きの大きな扉、この先が【王の間】魔王ちゃんがいるところ。
「たっだいまー!魔王ちゃん!」
「あ、おかえりなさい、ラジアン、無事で何よりです」
ニコリと笑う彼女、背の丈はまだまだ小さく、子供……なんでこんな大役を負わされるのだろうね。
「そちらの方が以前話してた『面白い剣士』ですか?」
「そうそう!どう?魔王ちゃん!いいでしょう?」
まだ、『絶対に』入っていいとは許可を得ていないが……カノジョもステータスを見ることが出来る、そんな彼女なら二つ返事でOKを出すことだ。
【状態】
無関心
「……むっ?……っふ、はははっ!そういう事ですか、ラジアン」
「うん、面白いでしょう?何よりも『強い』」
「ちょっと待て、俺はお前に比べれば全然弱いぞ!?」
「カルカトス……さんでよろしいですか?」
「へ?あ、はい」
「そもそも、そこのラジアンと比べることが間違いなんですよ……その子本当に、強いですから」
そう紹介されては少し調子に乗ってしまう。
「そそっ、私なかなか負けないからね……つい最近黒星つけられたそれ以外は」
前に負けたのは本当に悔しい……!
「ふむふむ……なるほどなるほど、いいでしょう、あなたを魔王軍四天王が1人に数えることを、魔王『ディブロ クエイサー』が許可します」
「あ、ありがとうございます」
「いやー、大躍進だねー!一昔前の私を思い出すなー」
「あなたは前任の四天王と戦って勝利を収め、四天王となったのでしょう……あ、でも、四天王のあなたを倒したから同じかもしれませんね」
「……そ、そうだね……そういえば他のみんなは?」
「皆さん、各々過ごして居ますよ」
「……そっか、静かになったね」
「えぇ、ですが、これで大手を振って『魔王』を名乗れます」
「それじゃ、カルカトス、疲れたでしょ?おいで、休む場所用意するから
それじゃ、また明日、魔王ちゃん」
「はい、また明日、カルカトスさんも、また明日」
「はい、おやすみなさい」
おぉ、緊張せずに話せてるね……やはり大物かな?
そんな彼に面白いことをひとつ教えてあげよう。
「魔王ちゃん、本気出せば私よりも全然強いよ」
「………?へ?」
「魔王だよー?私よりも全然強いんだー」
「……まだあんなに小さいのに……?」
「うん、そうだよ」
「じ、人類の未来が心配だ」
「あぁ、それは大丈夫」
「へ?どうして?」
「また今度教えてあげるよ」
【無関心】
何かに対する興味を完全に失っている状態。
理由は不明だが、各々の事情から、この状態異常は発動する。




