世界の樹
「……あ、おーい!」
「あ、来ましたか、カルカトス」
フロウが待ち合わせ場所にいたが、一緒にネリーもいた。
「あ、ネリー、久しぶり」
「ど、どうも……じゃ、私はここで」
「うん、バイバイネリー」
「どうしたんだ?」
「ちょっとさっきそこであってね……まいっか、いこ、カルカトス」
「……あぁ」
久しぶりに会うのはフロウも同じだ。
「……で、どうしたよ、急に俺を呼んでさ」
「……ちょっとね、お願いがあってさ」
「ん?俺でいいのか?」
「全然おっけい、ハリスに一緒に行って欲しくてさ」
「ハリス?なんで?」
聖国とも言われる、聖女の生まれた国だ。
「もう結構前の話になるんだけどさ、あの時の戦争で、勇者が何人か死んだじゃん?」
「あぁ、たしかにな」
「その中の一人、異世界から来た勇者たち一行が全滅したのは知ってるよね?」
「あぁ、当然」
「その時、もちろんパーティーメンバーもみんな死んじゃってさ、エルフの方はアーガンさんたちにお願いしてて、復興が進んでるんだけどさ、この調子で行くと、サクラの仕事が増えそうでさ」
そうか、あいつ正魔法使えたもんな。
それで、仕事の内容というのが、ハリスの復興もそうだが、そのほか、ハリスの周りにある小さい村を回って行くらしい。
ギルドがあまりにも発展しすぎて、ネルカートは今やパンク一歩手前らしい。
一応他の国にもギルドはあるのだが、それよりもネルカートにいるサクラを目当てにやってくる人達が多いという。
「迷宮以外にも、モンスターの被害とかはかなりあるから、もちろん地元に残っていて欲しいっていうのはわかるんだよねぇ……あとさ、私言ってなかったけど、ハリスの近くの村の生まれなんだ」
「あ、そうなんだ、なんて村?」
「ラユテ村、香辛料を育ててるのよ、それはなんでも勇者ココアも舌鼓を打ったほどだとか」
「あ、聞いたことあるぞ!カラブスパイスだろ!?」
聞き覚えがある、以前にジャンパー達の出所祝いというていで買わされた串焼きに、そんな文言が書かれていた。
「それでね、私の村、ラユテ村には、ちょっと困ったことがあってね、そっちが本題」
そう言って、顔をしかめて、懐から布に包まれた石を取り出す。
「それは?」
「世界樹の輝石、サクラが前に持って帰ってきてたの」
あぁ!そんなの持って帰ってきてたなあいつ!?
「ラユテ村は、その昔、世界樹の近くに作られた村なの」
「へぇ?でも確か世界樹って年々移動してるって言うぞ?」
「えぇ、私の村にある文献にもそう書かれていたわ、一万年前に無くなったその世界樹は、勇者ココアが命を懸けてこの世から消したんだけど……」
「けど?」
「世界樹、あれって、無くてはならないものなの」
「……?」
「あれ、実はココアが死んで、五千年たったあと、どこかでポツリと生まれたの」
「っまじで!?」
「マジよ、エルフの里に祀られていたココアの輝石がある日突然なくなって、ラユテ村の近くで世界樹がまた生えてきてたのよ」
「……それで?なんでないといけないんだ?」
「植物は息をするのは知ってるわよね?」
「あぁ、まぁ知ってるな」
「私たちが魔法を使える理由、知ってる?」
「確か、周りの空気に含まれてる魔力を、自分の魔力と練り合わせて形にするんだよな」
「そうね、魔術は中でも、自然の力をと自分の力を合わせるんじゃなくて、同じにする技術だと前に聞いたわ」
「へぇ、そうなんだ」
精霊魔術を使う時、確かに精霊とひとつになるようなイメージだ。
「その空気中にある魔力を作っているのが、世界樹なの」
「……ほほぉ!?」
実に面白いことを言う。
「光を浴びて、魔力を吐き出して、私たちの世界を上手く整えてるの。
あんなに大きなドラゴンが空を飛べるのも、翼人や、魔族が空を飛べるのも、獣人やエルフなど、自然に近い生き物が存在できるのも、世界樹のおかげなの」
「……なるほど、それで?」
「その世界を創る樹が、あまりにも大きすぎたら、濃度が異常に濃いくなるから、何千年周期かで運命の人がそれを切るの。
そうしたあと、また、誰かが植えるの」
「……それが、フロウ?」
「えぇ、私はそれをしたいの。
世界樹を植えて、また数年後の未来に誰かがこれを切りに来る。
なんだかそれってすごくロマンチックじゃない?」
「……そうかもしれないな」
「……私、あなたに感謝を、今でもしてるの」
突然、ハリスへ向かう馬車の中でフロウが言った。
「感謝?」
「私があの小さな町から飛び出して、勇者になろうと考えたのは、あなたに憧れたから。
誰よりも強くなろうと思ったのは、あなたに負けたから。
私の固有スキルは、あなたを超えるため、貴方といつかまた、戦う時のため」
「……嬉しいな、俺の古参のファンだからな」
「えぇ、今でも私は貴方に憧れてますよ、カルカトスさん」
久しぶりにさん付けで呼ばれた。
呼ばれなくなったのは、皆を裏切って、魔族側についた時。
「今日は私の生まれ過ごした村を紹介しますから、ヘルヴェティア、また案内してください。
あなたが人間を裏切ってまで守りたかったもの、あなたがあんなにも悲しそうに叫びながら、戦うだけの理由があった国を」
「……あの時泣いていたのは、俺の大切な人が死んでしまったからなんだ」
「恋人ですか?」
「いや、黒髪赤目の俺を差別しなかった、自由の神様を愛したただの女の子。
あの人に助けられてばかりだったから、これから恩返しできるって張り切ってたのになぁ」
「……やっぱり、私貴方に憧れてよかった、あなたを目標にして良かったです」
「俺も、フロウを尊敬してるよ」
「……少し湿っぽくなっちゃいましたね!話変えましょ!」
「だな、そういえば、アーガンさんとアモラスさんの子供見た?」
「サクラちゃんですよね、可愛いですよね!
最近ネルカートで、子供に私たちの名前をつける人多いんですよ」
「一番多いの、グエルさんらしいね、前言ってた」
「そうそう、私二番目なのよね〜」
これからの未来が明るくなるような話をした。
とても楽しみだ、今から植えるこの種が、どんな花を咲かせるのかわからないけど、そんなの分からなくて当然か。




