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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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英雄賞

「カル!!終わったの!?」


 ラジアンの周りには花びらをむしり取られた花たちが散らかされている。

おぉ、相当暇してたみたいだな


「ああ!俺が、英雄だ……英雄になったんだ!!」


 そういうと、ラジアンが飛びついてくる。


「凄い!凄いよ!!ここからでも伝わってきた!聖剣の異質なオーラ!」


 それは近くにいた俺が感じとれなかったもの。

まぁ、そんなことどうでもいい!


「きゃっ!?」


「帰ろう!ヘルヴェティアに!!」


 担ぎあげて、転移装置の前までいく。


「っっっ!うん!!」


 サクラには、明日向かうと言っておこう。



「ただいま帰りました!!魔王様!!」


「……おかえり、カルカトス、その顔を見れば分かります……聞いて欲しいこともわかってます、どうでしたか?」


 俺のきらきらとした顔を見て、半ば窘めるように質問をする。


「おわりました、無事攻略完了です!!」


「……よくやりました、流石はカルカトスです、今日はゆっくり休んで、明日またネルカートへ向かうのでしょ?私も行きます、ナルヴァーに乗せてもらいましょう」


「……はい、お願いします!」


 その日は、もうほかに何もすることがない、風呂に入ってベットに入る。


「……ねぇカル」


 先に寝室に向かって、ベットの上に座って待っていると、ラジアンが扉一枚挟んで声をかけてくる。


「っど、どうした!?」


「……続きする……よね?」


 ドッキンと胸が跳ね上がる。

扉の向こうからも、爆音が響く、魔王城一帯に響いているんじゃないかと思うほどに。


「あ、私……この音抑えられるようになったのに……!?」


 ラジアンも、ドキドキしているらしい。


「……するよ……ラジアンがいいなら、続きをする」


「……カルがいいよ」


 扉を開くラジアンの顔は真っ赤だ、多分、瞳に映る俺の顔が赤く見えるのは、ラジアンの瞳が赤いからじゃない。


「……おいで、ラジアン」


「うん……」



「……おはようございます!」


「ごめん魔王ちゃん!寝坊しちゃった!!」


 次の日、俺たち二人してぐっすり眠ってたせいで、三十分の寝坊をした。


「ふふふ、急いで急いで、ナルヴァーが石になってしまいます」


「医師!?勉強してるの?」


 ラジアンが着替えながらバカみたいなことを言う。


「ストーンの方だろ!?」


 そんな調子で直ぐに着替えて、息が上がるが、すぐに飛び乗る。


「すまん、待たせた」


「お構いなく、さぁ、飛ばしますよ!!」


 ビュンッと加速する。

身体が置いていかれそうになる感覚に耐えながら、


「あいっかわらず、はえぇな」


「光栄です」


 俺たちがネルカートに着いた頃には、もう沢山の人達が集まっていた。


「……来たか!!カルカトス!!」


「おう!来たぞ!サクラ!!」


 ナルヴァーが着地して、直ぐに俺は飛び降りてサクラの方へ向かう。


「……はっ!」


 プイッとどこでもない方向を向きながら、手を上げる。

それに思いっきりハイタッチをする。


「……終わったんだな、クレイアにも終わったと言われた」


「あぁ、終わったよ、クレイアは無事か?」


「なんてことは無い、今も私の中にいる」


「そうか」


「そんなことはどうでもいいんだ、今日は貴様の授与式だ、こんなにも沢山の人達がお前を祝いに来ている」


「……嬉しいもんだな」


「迷宮から取れる魔石は、上質なものが多くてな、大いに潤った」


「そこら辺はお前に任せる、俺は全然わかってないからな」


「さて、前人未到の迷宮、百層というその最果てへ至り、無事に帰還した貴様の栄誉を形としてここに残そう、英雄たる私が、貴様に直々にだ」


 小さなワッペンのようなもの。


「……それで、お前は英雄だ」


「……思ったよりもチンケなものだな」


「周りの人々の目を見てみろ、チンケなものを見る目か?」


 憧れ、尊敬、そんな光が籠った目で見てくる。


「……こりゃ、思ってたよりも大きいもんだな」


 授与式は、特になんのアクシデントもなく終わった。

その後、サクラとグエル、俺で酒を飲みに行った。


「カルカトスの、夢が叶ったことに、乾杯!!」


 すっかり音頭を取るのがさまになったサクラが酒をあおる。


「……本当に、お疲れまさでした、カルカトス」


「あぁ、ありがとう、グエルがいないと、俺はそもそも十層で終わってたよ」


「……さて、どうでしょうかね?」


 ふふふ、と笑いながらこちらを見つめるグエル。


「しかしカルカトス、あの迷宮の最深部、敵は確か不死身と聞いたぞ、貴様不死身も殺せるのか」


「いや、迷宮のルールに則って、未練を解消してもらった」


「……その言い方だと、殺せなさそうだな」


「あぁ、多分俺じゃ殺せなかった」


「……そんなに凄い相手だったんですね、聞かせてくださいよ、九十九層と、百層の話」


 周りで飲んでいる人達が静まりかえる。

いつも騒がしいはずの酒場が、グラスをならす音さえはばかられる程に静かになり、俺の話を聞きたがっている。


「……仕方がないな、なら話すよ。

カルカトス、俺の英雄譚の最終章の話を」


 そこまで盛り上がるような話じゃなかった。

俺が話すのが得意ではないというのもあるが、どうにも口で説明するにはあまりにも抽象的な表現をせざるを得ない。


「……じゃ、お疲れ様、二人とも」


「気をつけて帰ってくださいね、カルカトス」


「……ぉめでとう……」


 サクラが、俺にそんな純粋な言葉を送ってきたことに頭が追いつかず、少しフリーズした。そのスキにサクラは帰ってしまった。


「さて、行くか」


 今日俺はヘルヴェティアの皆にはネルカートに泊まっていくと言った。

ネルカートの皆にはヘルヴェティアに帰ると言った。


 俺が行くのは、迷宮百層、願いを三つ叶えに行く。

1つは決まっている、1つは決めあぐねている、1つは決まっていない。


「……さて、どうしようかな」

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