未知数の君へ
「っおぁああああぁ!!」
両手を開き、攻撃し続ける。
触れたら勝ちなのに、俺の手首を絶妙なタイミングで切り飛ばし続ける。
俺はきちんと切り飛ばされてしまう、情けない!切られてしまう!
「おぉ!凄い凄い!その両手にかける執念!当てれば勝てると信じてるんだな!」
「剣が……!クラマスが!遠い!!」
ちょっと待てよ……こいつには、まだまだ初見殺しが通用するはず!!
「『悪夢魔術』!」
腕を背中から作り出す。
「おぉ!併用もできたのか!君をまたひとつ知れた!!もうすぐ終わってしまうのかい!?君の全てが!」
「……さぁな!!」
俺の複腕の右で触れようとする、それを剣が切り飛ばす。
それを止めるために出した左の複腕も飛ばされる。
四本の腕に最大限警戒を示したクラマスとアイラに、唯一できた隙!
「捉えたァ!!!」
本物の右の手で剣を掴み、左の手がクラマスの首を掴む!!
「崩壊しろ!!耐久限界!持久の限界!!ありとあらゆる生きる為に必要な限界を!越えろ!!!」
「っおおぉ!!?なんだっ!!」
足がぐらついた、剣が緩んだ!
クラマスが崩壊し始める。
しかし、アイラは全く崩壊しない、なんてことだ。
「ラジアン!頼むぞ!!」
万物を貫通する。
ラジアンの篭手は無傷のままだ!
「っ喰らえ!!!」
右から近づいて、篭手で顎を殴り抜く!
「ぶへっ!?物理攻撃!?剣はどうしたの!?」
「剣は!俺の中にある!俺は!!アデサヤと一緒なんだよ!!」
『一応そう言うことになっとるのぉ……』
「なんっでこのタイミング不服そうなんだよ!!?」
「そっちもグダグダじゃねぇか……よ!!」
アイラがクラマスに突き刺さる。
「……ありがとよ!アイラ!!」
崩壊が……止まった!?あの剣なんでも出来るな!?
「っくそぉ!あの剣未知すぎる!!」
「アイラは気難しいからな!勇者ココアも振られてた」
「未知には未知を!だ!!」
「どうする!?アイラ曰くこっちのセリフらしい!」
「『もし願い叶うのなら』」
詠唱を始める。
俺に、もう捧げていいものなんて何も無い。
擬神の瞳、光魔法と呪術は仲間との繋がり、剣は俺とミランの思い出、悪夢魔術は俺の、俺たりうるもの、獣の五感と譲渡は師匠のくれた大事な物、サクラにあげた神速も。
だから、俺に残っているものは、俺だけ、スキルは捧げない、大事なものを擲つ。
「『今一度俺に力を』『強く羽ばたき風に乗る』『最初で最後の俺の詠唱』『今英雄になり』『今飛び出そう』《限界の先の未知》」
キラリと光った。
左目の輝石が輝いた。
『私達の精霊魔術は?』と、怒ってる気さえした。
もちろん覚えてるよ、リリー、そして見えてる。
「『精霊魔術』〈閃光の導き手〉」
目は、そのままだよな!光に目をやられて、左手を目にやった。
「もういっかいい!《限界突破》!」
左側から、入り込む。
左手で目を押えて剣は右手の剣だけがフリーのまま!
左斜め後ろから触れに行く。
右手の剣が追尾してくるが、俺の方が一歩早くクラマスに触れた。
アイラに触れてもノーダメージなのは、悲しいことに、既にわかってしまった。
「やるべきは!クラマス!!」
「それは分かってる!けど!その光は新しい!」
「……新しいだろ!もうお前は消えかけだ!」
なんて言ってるが、俺の固有スキルのおかげじゃない、迷宮のルールのおかげだ。
「あぁ!消えかけてる!もう!終わってしまうな!最後に1つ!君を見せてくれよ!!」
最後、最後か!これが不死身の相手を成仏させる方法!
「一番最後の一撃は!なんだ!?カルカトス!!」
「ラジアン、お願いだ」
「……おぉ、愛ある一撃だね」
振りかぶる、右の拳を!
剣は形を変えて、俺の右手に纏わせる。
形はサクラのような硬い爪をイメージ。
ラングのような力強さ、グエルのような重みを呪術で!今まで戦ってきた守護者たちの力を真似る。
「正面から!突き穿て!!アイラ!ブラムドレイ!!」
相手の剣は、真っ直ぐ突いてくる。
俺がいくら防御力を上げようとも、貫通してくる。
「「づっああぁああ!」」
お互いの右腕を削りあって裂ききった。
心臓に刺さったアイラが突き刺さったまま、お互い倒れる。
クラマスも倒れた。
俺に突き刺さった剣が右腕から左の心臓までまっすぐ貫かれた。
抜こうとしても、持ち手も刃もスカスカで掴めない……!
「カルカトス!ありがとう……もっと、戦ってたいけどこれ以上は無いな!」
「……この剣抜いて……!」
「あぁ、アイラ……負けだよ……」
光の粒がクラマスを包みこむ。
これが最後になるだろう、守護者が消える瞬間を見るのは。
「最後に、俺が残す輝石……奇跡は、願いを叶えてくれる。三つまで……好きに使うといい」
百層の果てでは、何でも叶えられるなにかがあると、噂で聞いた。
「あー、あのウワサ……噂じゃなかったのか?」
「事実だ、俺が広めたからな、地上に出て、俺が広めた、誰も俺を知らないからな」
「……上に来れたのか……!」
「アイラに引っ張られた」
あぁ、あの剣なら出来そうだ。
「おやすみ、おめでとう、君は踏破した……この迷宮を踏破した。
誇っていい、それを胸に、帰るといい」
転移用の魔法具を手渡す。
これは、こいつが作っていたものだったのか?
「迷宮にお願いして作ってもらったんだ、ないと大変だろ?」
余裕そうに喋る、それもそのはず、怪我は既に治ってる、身体が消えかけてるだけだ。
「さて、さようならだ、俺は二度寝する、二度と覚めることの無い夢の中で……母さんと父さんに会ってくる」
ゆっくりと目を瞑り、夢の中に落ちていく。
「……ありがとう」
残った輝石が、宙に輝く。
それをそこにおいたまま、俺は走る。
九十九階層へ駆け上がり、叫ぶ。
「ラジアン!!!」




