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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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クラマス アクトル

「……いらっしゃい、カルカトス」


 百層は広くはなかった。

リビング程度の広さだったが、薄暗い。


 ソファに、テーブルに、キッチンやお花、ダーツやビリヤード、テレビに新聞。

そのテレビには、九十九階層で俺を待つラジアンや、二十二層で探索をしている冒険者たちが見えた。


「……ここは?」


「ここは百層、ここが、この迷宮の最深部だ」


 声の主、男が俺の方にやってくる。

緑の光の中に包まれているせいで、顔はよく見えないが、光の中から出てきて、テレビの光に当てられて顔が照らされる。


 茶色い髪、緑色の瞳、決して戦闘向きではなさそうな軽装この男は誰だ?


「……さて、と。

ここは薄暗くてやだね、みんな生活習慣がなっていない人ばかりで困るよ。

村長は普通だったけど、盗賊は夜型だし、絵本を書く子はずっと昼も夜もない、剣聖は寝てるのか起きてるのかよく分からない、バカ聖女はどこか油断しがたいし、精霊たちはいつも元気で、水晶の子はすぐに夜這いしようとするし、あの子はいつも花に話しかけてるし、ドラゴンは隙あらば戦おうとして……」


「……も、もしかしてあの癖の強い守護者たち、全員ここにいた?」


 そう、ありえないことを聞くと、苦しそうに重く頷く。


「…………あー……ええっと……お疲れ様?」


 そう俺が言うと、ニコリと笑って


「ありがとう、こちらこそそう言いたい、良くぞここまで、お疲れ様だ。

それに、俺も迷宮の中で時間感覚が分からないせいで、昼夜逆転生活がすっかり板についてしまった。

侵入者用のアラームがなければ、今頃寝過ごしていたに違いない。

顔も洗ってないから目ヤニや寝癖ばかりで……本当に、貫禄がない」


 なんだろうか、今まで出会ってきた英雄とは少し違う。

着飾ろうと頑張っている、どこか酷く人間らしい。


「……あ、名前、なんて言うんですか?」


「っとと、忘れてた……名は『クラマス アクトル』誰も知らない英雄の名だ」


 そう言われた通り、いくら記憶を掘り返してみても、そんな名前見たことがない。


「……すみません、わからないです」


「それでいい、俺は歴史から消えた勇者だ」


「ゆ、勇者!?」


「そう、勇者だ。

その昔、ココアって人を知っているか?」


「あ、知ってる、初代勇者」


「俺はその異世界人を呼ぶための、生贄に捧げられた、あの憎きフレイに、そうさせられた」


「え……フレイが?……それはすいません」


「!?何で君が謝るんだ!?」


「いや、あいつは俺の大切な仲間で、俺はそのリーダーだから、責任は俺にあるんで……」


「……ふふっ、いいね、面白い、いいよ、君に免じて許してあげる。

って言っても、一万年もアイツといたら、正直憎まれ口を叩きはしても、別にそこまで怒ってない、時間が解決してくれるもんなんだよね」


 そういうところも、人間らしい。


「……君は、赤子の頃の記憶、あるかい?」


「……まぁ、一応は」


 ほとんど鮮明に覚えている。


「俺にもある、俺は、俺達は、親の元から産まれたんだ。

一万年前の俺たち、初めに生まれた俺たちは、世界が始まった時から、俺たちはゼロ歳で父と母は産まれた時から父と母だった。

そういうものだから、誰も違和感は覚えない」


「……??」


 マジで言ってることが分からない。


「俺は幼い日に見たんだ、今だってはっきりと覚えてるし思い出せる。俺が産まれた時は、夜と朝の間。

白み出した空、夜の星が逃げるように消えていって、オレンジ色の眩い光が、どんどんと白くなっていく!あれほど美しい景色は、この世にはない!そうあれこそが!『世界の夜明け』!

あれを持って初めて世界は始まった!

神様がいたとしたら、そこから始まった!役職をみんなに振り分けた。

王は生まれた時から王で!俺は産まれた時から勇者だった!魔王もそうだ!アザンドの奴は!世襲制の魔王の世界に!魔王として爆誕した!」


 長く、何か俺にとっては知る由もない様な、そんな話をしている。

産まれた時から、役職が決まっていた。

生まれながらに老人で、産まれながらに赤子で?


「そうしてまず世界の基盤ができた、いわゆるチュートリアルと言ったところだ、俺たちは一よりも昔、強いて言うならゼロ番目この世界、アンノウンができてから、まずお試しで生きている」


「……んーっと……つまりこの世界は誰かが作ったものだって?」


「んー!そうとも言えるしそうとは言えない。

この迷宮を作ったのは、俺じゃない、それに、守護者を集めたのも『俺じゃない』のに、みんな俺に誘われてきたと言うんだから、変な話だと思う。

迷宮の守護者、君かその最下層で求めていたものは、身構えていたものは、全てを理解しているような全能の守護者だったのだろう?だとすればすまない、俺はそこまですごくない、俺だって分からないことばかりだからな」


 何一つとして、確かなことは分からない。

だからこそ、なにか確かなものを探すとするならば、この男は、とても勇者や、英雄らしい風貌には見えない。

だが、考え方や、その覚悟は、時折今の英雄たちも凌駕する。


「俺が基盤に、失敗して、そしてココアという初代が生まれた。

俺の戦い方はあまりにもおぞましすぎて、皆が僕を恐れた。

唯一俺を認めて、唯一対等だと認められたのは魔王だけだ。

勇者と魔王の関係性は、俺たちから始まった。

しかし、勇者の戦いぶりは、華麗でなくてはならない。

しかし、魔王の有り様は、もっと残酷でないといけない。

そんな、当たり前が俺たちはまだ知らなかったから、型にハマらなかった。

だからこそいなくなってしまった。俺は召喚のため、あいつは世襲制だからな、やられたんだろうよ」


 全く分からない、何一つだってわかることはなかった。

ただ、今俺がやるべきことはなんだろうか?俺はどうしてここまで来たんだろうか?

迷宮の謎を解き明かしたかったのか?違うだろう?

それはもっと頭のいい人がやってくれるだろう。

俺は、俺にしかやれないことをする、この迷宮を、攻略して英雄になる。


「……クラマス、未練は?」


「……俺に戦いの中で教えてくれ、一万年という果てがないと思っていた長い永い時間を過ごして、ついに一万年を耐え抜いた。

そんな俺に、今を教えてくれ、俺たちゼロ年目から、一万年目のお前たちは、どこまでどんな風に成長したのかを!!」


 剣を抜く、瞬間、辺りの狭い百層が果てしなく広がる。

空は夜、目を覚ましたのが夜だったクラマスは本当に昼夜逆転してしまっているらしい。

迷宮を扱うのも、今までで一番上手いだろう。

だが、それでも、今を教えるのに俺ほどの適任はいない。

この世の殆どの生き物が、俺の中にいる。


「……クラマス アクトル、行くぞ、一万年後を見せてやる」


「あぁ、来るといい」


 寝巻きのまま、寝癖のまま、裸足のまま、安っぽい剣を片手に、自身は誰よりも持っていた。

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