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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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舞踏

「っおぉお!!」


 俺が声を出しているのか、それさえも聞こえないような大音量の爆撃。

はっきりいって受けきれていない、体がどんどんとボロボロになっていく。


 恐らくこれで無事なのは、ルギュルだけ……っお?


「っなに!?」


「……っえへへ」


 リリーが爆撃を掻い潜りながら、俺の目の前に現れて、俺の胸を真っ直ぐ貫いた。

完全な予想外、そしてこの大音量の中、一切ブレないその集中力と、それでもなお難易度の高い俺の完全な心の隙間に滑り込むような白刃。


「……っが……!」


 リリーも、ボロボロだが、穴の空いた俺は今から爆撃に包まれる。

身体が段々と削れていく。

久しぶりに感じる、この感覚……遠くの方にいたのに、全力ダッシュで走ってくる死の実感。


「『世界の夜明けを迎えるものは』」


 言葉が口をついて出た、今ならきっとあれが使える。

初めの言葉は、きっとこれを言うのは、サクラだろう。


「『廻り青空へ彼方へ』」


 これは……多分フューチの言葉。


「『青く強く固く』」


 多分これはクレイアの。


「『音ガセカイを駆けヌケル』」


 これはここにいるルギュルの。


「『始まりの言葉』」


 これはマインの。


「『その代償に』」


 これは……多分クロン


「『勇気を!』」


 これはまたサクラか。


「『制約を!』」


 これはアライトの。


「《限界の先の未知(アンノウン)》!!」


 そして、これは俺の言葉。

腕を振るう、風が強く吹く。


 大きく飛び上がり、ルギュルを視認する。

心臓の穴はとっくにふさがった。


 爆撃の中、詠唱をしている間、払った代償のお掛けか、音から身体が守られた。


 何を払ったのだろう。

俺はスキルを払った、他の人たちは、言葉に魂を込めていた。

その魂が払ったものは……いや、分からなくていい。


「……踊ろうぜ!!」


 ただ今は、今を変えるだけでいい。


「っな!?」


「あれはっ!?」


 ルギュルが焦り俺を見上げる。

リリーさえも予想だにしていない、未知の行動。


「……まずは!ルギュルだぁ!!」


 ルギュルの絨毯爆撃が、リリーの動きを邪魔している。

距離を詰めて、近距離戦に移行する。


「っ!なにを!?なにを捨てたっ!?」


「……大事じゃないもの……って言ったら怒るかもしれないけど……日々の積み重ねだ!!」


 剣術と光魔法、悪夢魔術と精霊魔法、あとは擬神の瞳ロクなスキルを捨てた訳じゃないが……だから、多分ほかに、スキル以外に大事なものも持っていかせた。

神様に失礼のないように、見合ったものを渡して旅に出した。


「……『断絶!』『終焉!』『長かったが今に終わる!』『正しくそれは!』〈悲劇的終末(カタストロフィ)〉!」


 ナイトラインを握り、振り下ろす。

爆音の爆撃、五線譜も六弦も、リリーの精霊魔術も全部正面から叩ききる!!


 否応なしに振り下ろされる最善の一振、それがルギュルを真っ二つに切断した。


「……これは……我らの負けか」


 我ら、その言葉の指すところは、リリーとルギュルの2人じゃない、サーラー全員のことを指しているのだろう。


「……リリー、後は任せた」


 小さな光の爆発、そしてその爆発音は、何かが終わった事を教えるような、壮大な音だった。


「……ルギュルの攻撃は、良くも悪くも超広範囲超高威力のものばかり」


 だからこそ、リリーさえも、ルギュルなら殺しかねない。

2人とも、英雄だ、だから、だし惜しむ、いいセンスがある。


 だからこそ、使えなくなってしまった、終幕の一撃が。


「……ルギュルは、私に気を使いすぎなのよね」


 手で煙を払い、中からリリーが現れる。

額から流れる血を拭うと、傷口はない、虹色の瞳だけがただ炯々と光り輝く。


「……もう……未来は見えない」


 未知の先は、俺にも分からない。


「……だから私は、道の先を見るの」


「……道?未知じゃなくて?」


「……未来が見える勇者がいたの」


 フューチのことだろう、今は話を聞く。


「……彼女は、未来を道に例えるの。

未来の道筋、そこに攻撃を置いていく、それは私にも不可能、きっとあなたにもできない、彼女だけの特権」


 下げていた剣を持ち上げる、構える、そして笑う。


「……『初霜』『心地良きかな』『処女雪』『花は赤く凛と咲く』『春はまだ遠いぞ桜ん坊』『精霊魔術』〈錯乱歩〉」


 一歩踏み出す、霜をふむようなあの音が響いた。

雪景色が当たりを包む。


 赤い花が、我先にと雪の上に蕾が割れる。


「……雪のフィールド……」


 ネーヴェが得意とした戦術、場を支配する圧倒的な力の証明。


「……花は寒くても咲くのよ」


 不思議なステップを踏むリリーに追いつこうと、俺も慣れない動きを強要させられる。

もしもしいつも通りなら、花よりも赤い血がこの場を染め上げていただろう。


「……慣れないのに、よくやるね!!」


「そっちこそ!そんな動き慣れてないだろ!!」


 お互い不慣れなダンスを、迷宮の最下層でする。

なんて滑稽なのだろう、しかし笑うものは誰もいない、笑いに来れるなら来るといい、迷宮の最下層へ。

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