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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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笑顔

「……っし!準備完了……んー、やっぱりイイねこれ」


 ニヤリと笑う、きっと、自分が勝った未来を見たんだろう。


「……余裕そうだな」


「まーね……ルギュル、行こう!」


「……たはは、本当に……凄いなぁ」


 ルギュルがらしくない顔……か、顔?をしている。

その顔は、どこか呆れているように、そして、天を仰ぐように恐れているようにも見える。


「……さて、カル、いくよ」


「……あぁ、来いよ!」


 剣を構える、後の先の剣、ミランの剣だ。


「……ちょっと打ちあおうかな?」


 遊びに行くように、爆速で走りよる。

ルギュルは、お手上げと言った感じでこちらを見ている。


「……っはは!相変わらず剣が上手い」


 攻撃を受けて、受け流す俺を見て、そう笑う。

頭を整理しよう。


 未来が見える、それは俺と違って、自分視点じゃなくて、俯瞰視点で見えるのだろう、ラジアンの不意打ちを回避していた。


 俺は近い未来を断続的に見入る。

今と未来の区別がつかないほどに、食い入るように見る。


「凄いなぁ、ついてこれてる」


「リリーの目のおかげだよ」


「その左目ねぇ……かっこいい眼帯じゃん、どうしたの?」


「俺の大事な大事な仲間の忘れ物だよ」


「へぇ、おっちょこちょいなんだね」


「……確かにそうだな」


 どこか抜けてる、キリッとした顔もできるが、結局大事な所が抜けてるな


「……確かに、そうだったな」


「……笑った、やっと心から笑ったね」


「今まで違うかったか?」


「さっきまでのは、自分を鼓舞する笑み、相手を威嚇する笑み、獣じゃないんだから、楽しそうに笑いなよ」


 そうとだけ言ったあと、グンっと勢いが一段階上がる、それはまるでお遊びは終わりだと言わんばかりに。

その瞬間に、ルギュルがこちらへ攻撃を仕掛けてくる。


 ギリギリまでリリーが寄せて、直前で避ける、死角なんてないリリーならではの連携の仕方。


「……恐ろしいな」


 身体を裂かれる、未来が見えるほどにその戦略は実に効果的だった。

俺の体の再生能力は、こんなところで無駄にしていられるほどに余裕があるわけじゃない。

奪ったはずのリリーの左腕、あれを奪うのに捧げた代償と、どう考えても釣り合っていない気がするのだ。


「お前、いつの間にそんなにバケモノじみた回復力を」


「カルの方は、随分と余裕が無いんだね。

幾万幾億と別れた世界で君が言っていたよ、再生能力には限界があるって、だから、私たちの勝ち筋はそれしかない、君の限界を超えた、その先に現れた限界まで追い詰めるのみ!」


 そういうと、リリーは期待の籠った顔でニヤリと笑い、俺のセリフを促す。

英雄ならば、この期待に応えなくては。


「……なら、その先の限界すらも、突破するまで」


「……どの未来でも、君はそう言って笑ったよ」


 やはりと、呆れたような笑みじゃない、そう言ってくれと願っていて、願いが叶ったような嬉しそうな笑みだ。


 ルギュルの攻撃が苛烈さを増す。

しかし、やはり、俺は今一度、ナルヴァーに感謝しなくてはいけないかもしれない。

五線譜の斬撃は未だになれないほどに素早い一撃だが、この音符を飛ばす攻撃、これに関しては、ナルヴァーの方が何倍も厄介に感じる。


 それは、ルギュルが弱いわけじゃない、なんなら、ただの一回だって喰らうことがはばかられるほどの威力だ、今の俺なら、どこに当たっても最低でも再生力の2%は持っていかれてしまうだろう。


 だから、きちんと避けるのだ。

そして、ナルヴァーの強さに、今一度肝を冷やされた。

あいつは、俺の知らない間に、あそこまで強くなっていたのかと。

あいつは果たしてどこをめざしているんだ?


「考え事かな!?」


 リリーが一瞬のモヤがかかった俺の顔を見逃さず、あっという間に距離を詰めてきて、へその下ら辺から、肩甲骨辺りまでにかけて斜めに突き刺してきた。


「っぐ……ぁ!」


 だが、俺は引かない、ここで体に力を込める。

刺さった剣をがっちりと固定して、身体に触れて崩壊させてやる!


「悪いけど、読めてるよそれは」


 後ろにトンと、飛ばれた。

リリーからすれば一番当たっては行けない攻撃だから、その反応は当然だ。


 だからこそ、俺はリリーにかけた。

迫り来る音激と五線譜、しかしそれでも俺は攻撃を辞めない。


「リリー!お前も!人間だ!!」


 瞬間、リリーの足首に蔦が巻き付く。


「なにこれっ!?」


「やっぱりな!俯瞰視点って言っても、見るのはいつもひとつの目だ!どこから見てるかは分からないけど、多分見づらい所に仕掛けたかいがあった!」


 足の裏から、俺の悪夢魔術(ナイトメアマジック)で伸ばした蔦で絡みつける。

そして、俺の限界突破(リミットブレイク)は、他の悪夢魔術や限界突破を一瞬解かないといけない。


 だから、走る、まず蔦を外……す!?


「来なよ!私を舐めないで!!」


 足に絡みついた蔦よりも、まず先に走り出した俺の方へ意識を向けた。

未来が見えていなくても、きっと同じことをしたと言わんばかりに、当然のように、意識をこちらに向けた。

ルギュルが攻撃しているから、その隙に蔦を外すと思っていた。

だから俺も、ルギュルの攻撃を捌く方法をインプットしていた。


「ルギュル!アレやって!!」


「……アイアイサー!」


 瞬間、九十八層が闇に包まれる。

光が消えた、ただ光るのは、ルギュルの発光する頭、それに反射して爛々と輝く俺とリリーの目だけ。


 しかし直ぐに暗闇も晴れる。

晴れた先に、初めに見えたのは、空を覆うほどの音の爆撃。

そして、正面を見ると、俺と同じように冷や汗をかいているリリー


「……やっぱりこの目で実際に見ると……捌けるかな!?」


 密度が半端ではない。

ナルヴァーも同じように空中から爆撃をすることがあるが、あれは範囲をとっている。


 もしもナルヴァーが局所的に攻撃しようとしたら、こうなるのかもしれない。


「……行くよ!」


 そして、弾ける前に見えたのは、リリーの笑顔だった。

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