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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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第二章

「……ぉ」


 音楽が始まった。

英雄たるもの、相手の行動中に刃を差し込むような無作法な真似はしない。

という口実で、決して隙なんてない2人を眺める。


 もし、もしも第一章のテーマを『冒険の始まり』と題したのなら、これは……


「突然の悲劇」


 そう題す他ないだろう。

ポロンポロンと、悲しいピアノにハープ、空が曇り出す演出付きで、灰色の雲海を泳ぐモルバを眺めていると、見上げた頬に雨粒が落ちた。


「……雨」


 一体主人公に何があったのか、気になって仕方がないが、前を向き直す。


「さて、いこうか」


「うん!いこっか!」


 いつも通りのテンションの二人。

ボロボロになってもなお、輝いて色褪せない二人。


「……怪我は治さないと、カッコつかないね」


 あっという間に傷を癒す。

ナイトラインを、強く握る。


「……っはは……?」


 身体が震えていた。

雨に打たれているが、身体の芯が冷えるほどではない。


「……怖いのか?」


 第二章、二人の雰囲気はさっきと何ら遜色ない。

だからこそ、同じようにして……いや待て、俺はさっきまで劣勢だった。


「……守護者が二人……」


 一人で戦おうだなんて、俺はなんて愚かだったのだろうか?


 しかし、震えを抑える……俺は悪夢だ。

震える側じゃない、震撼させる側だ。


「……よし、俺もいくか……!」


 一歩踏み出す。

酷く暗い雰囲気の中、剣を片手に走る。

草木に着いた雨粒が舞い、グジュグジュとそれらを踏みしめて、俺は身体を前に倒すように走り続ける。


「……早いね、相変わらず」


「いやー!早いね〜!」


 二人とも、そう評しながら、しかしそれは『目で追えないほどではない』と言いたげな顔だ。


 精霊はどこにもいない、精霊魔法は使えない。

魔法は使えない、強いて言うなら、光魔法だけ。

今この緊迫した状態で、以前以上の練度までいきなり引き出すことは不可能だ。

さて、俺が今できることは、アイテムボックスの中の水をぶちまける事、ナイトラインを振るうこと、悪夢魔術(ナイトメアマジック)を使うか?触れさえすれば限界突破(リミットブレイク)でボロボロにすればいい。


「……よし、行こうか」


 五十層の守護者は凄かった……何が凄かったって、聖魔法だ。


「天気が悪いな……空は暗いな」


「……?何をブツブツ……?」


「なにかしてくる気だね!カル!」


「……一瞬だけ、やれるよな」


 剣を収め両手を圧縮するように抑え込む。

ルギュルとリリーの周りを円を描くように走り続ける。

飛んでくる水弾や音撃は身のこなしで避けて、どんどんと加速していく。


「早くなっていっている!?」


「だね!これは足をとめないとダメだね!」


 俺の足元、地面に攻撃をして、足元をグチャグチャにしていく。

俺はまだまだ加速すると、そう踏んでの攻撃だろうが


「悪いが、今はコレでいい……!」


 速度の限界もとうに超えられる体を持っている。

だが、それにはかなりの時間を要する。


「……俺が走ったのは……時間稼ぎだ!『白魔法』!」


 ジャンプし、円を途中で切りやめて、魔法を放つ。


「来たか……!」


「もう加速はいーの!?」


「〈光弾(ライトバレット)〉……!」


 あの聖女、フレイの……俺達の仲間のフレイは、極限まで極めた聖魔法を持っていた。

そして、その極限以上を、更に固有スキルで足し合わせた。


 そんな彼女の全力の一撃に、とても届くだなんて自惚れたこと言えるわけが無い。


 しかし、彼女が無数に放つ光弾のその一発程度なら、全力で練りあげれば、届かないことも……ない。


「……ッヒュゥ!?」


 その攻撃に驚き、リリーはおかしな呼吸音を鳴らしながら、躱した、冷や汗と共に。


 俺の両耳が音楽で溢れた。

タイミングは今、ここで使うべきだ。

これ以上ノリに乗ったルギュルに、水魔法での小細工が通じるとは思えん。


「頼むぜ、スイっ!!」


 頼れる精霊の名を呼びながら、アイテムボックスから掴めないはずの水を掴み、放つ。

圧倒的体積の暴力、光弾に意識が散っていた二人には、不意の一撃。


「っなに!?」


「へぇ……面白いね」


 左目が捉えた未来で、2人は


「音は、水を超えて響く!!」


 槍のように鋭い音が、俺の眼前まで迫り来る

空中にいるから避けられないと思っていたのだろうが、羽を生やし、軽く避ける。


 それを見て、すぐにルギュルはリリーを抱くように包み込む。


「任せた」


「……了解」


 二人の間にある、ある種奇妙とも言える信頼関係と言うべきか……それとも友情か?


 二人が水に押し流される。

その瞬間を、俺は見逃さない、水掻き、エラ、背鰭と尾びれ、全て準備して、押し流す水に追いつき、爆発的に加速する。


 あの二人が水に流された程度で倒せる……だなんて考えるほど、俺は楽観的じゃない。


「……ぶばべ!(喰らえ!)」


 何度も締まらない声だが、二人の横を通り過ぎる瞬間、手に握るナイトラインが俺に合いすぎるせいか、使えた、ミランの剣技。


 確かにある手応え、二人を倒した……はずだが?

上下両断されたであろう二人は、後ろで飲んだ水を吐いている。


「……どうやって……っ!?」


 よく見れば、山がいる。

巨大な……山……いやこれは……動いた、血も出ている巨大な亀……か!?


「我が友を」


「……私が呼んだって訳!」


 精霊の類かあれが!?

そして、それをこんなところに呼び出せるのは、リリーならではの荒業。


「急に呼び出してすまなかった友よ、ゆっくり休むといい、ラズヴェル」


「生きる書庫と呼ばれた君と、またゆっくりと話したいね……おつかれ」


「……強いなやっぱり……」


「うん、そして、私たちはもっと強くなる!」


「……もう使うのか、リリー!」


 リリーが地面に剣を突き刺し、それに音が響き、地面に伝う。


「……この階層には特別なギミックがあってね、僕の特殊な波長の音を当てると……このとおり」


 そう言った瞬間、地面が砂のようになり、身体が落ちる。


「……九十八層へ、ご案内」


 そう言ってニヤリと笑うリリーが直ぐに見つけられたのは、砂埃の中でも爛々と輝く、あの虹の瞳のせいだろう。

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