一対二?
「……っし、行くか」
ナイトラインを握り直し、腰にあるその感覚を確かめ、九十七層に踏み込む。
「……一人で戦うのは……ミラン以来だな……」
つまり、本気を出した守護者達相手に一人で戦うのは初めて。
しかし俺は、この状況を、試練と受け取った。
きっと、サクラなら、そう考えて糧にする。
判断できる材料はいくつかあった。
例えば、リリーの目が、虹色じゃなかった、ホシノカケラと同化していない……って事なのかな?
そうなれば、リリーが使える魔法や魔術は何とか常識の範囲内。
ルギュルのは、どんどんと盛り上がって行って最後には手が付けられない。
同じく音を操る固有スキルを持つナルヴァーは、水の魔法に苦しめられていた事を思い出した。
っと言うわけで、俺は今、中に大量の水を隠し持っているアイテムボックスを用意した。
何度も何度も魔法を打ち込んでもらった、新鮮な、それでいて膨大な水の魔法。
「さて……と」
御託を並べるのはここまで。
手札は何とかそろえた、後は、どこで切るかと……どれまで使えるか?
もしかしたら何の役にも立たないものもあるかもしれないけど……
「来たか、英雄カルカトス……!」
「一人なんだねー?……ま、カルがそれでいいなら、いいんじゃないの?」
待ち焦がれていたかのように、そして、驚いたような声を上げた。
「……一人で十分……って言えたらいいけど……まぁ!俺は案外一人でもやれるんだってね……《限界突破》」
剣を抜く、不思議と身体にハマるこの感じ……なんだろう……足りてなかったピースをふと見つけたみたいな……
「……ん?……なんかカルの雰囲気違くない?」
「……それもそのはずだ……あの剣は……実にイイ剣だ」
よく分からん評価を受けたが、グンっと力を足に入れる。
ルギュルは音を鳴らした『ジャーン』と、序章の音。
リリーは手を払った、花の剣が生み出される。
そう、この二人の致命的で唯一の弱点は、初動の遅さ。
俺はもう、会話の中で準備を終えた、初動で一気に有利に進める!
「っほぅ?っぐ!」
「っはは!?らしくないね……ぇっ!?」
二人の間に入り込み、ルギュルの光の玉を顔に見立てて踏みつけるように足の裏で蹴り飛ばす。
リリーに剣を振るうが剣で咄嗟に止められた。
そのまま何かを話そうとしていたから、逆の足で、ルギュルを蹴った勢いでもう一度蹴り飛ばした。
「っふはははっ!余裕が無いね!っおぉ!?」
「らしくないね、カル……!」
ルギュルに距離を詰め、剣で何度も切る。
「残念、近距離だって戦えるんだよ」
「それぐらい想定なっ!?」
後ろから何かが飛んできた。
横を通り過ぎてから、見えた火の玉。
一瞬そっちに意識が向いたのを見逃して貰えない……五線譜が俺を裂く。
「っぐ!」
「……リリー!」
ルギュルの声、そして俺が一歩引いた瞬間、背後から凶刃が迫り来る。
「いえーっさぁ!!」
咄嗟に身をよじるも、心臓を刺されるのが左の脇の下になっただけ。
「……リリー!忘れたか!?」
俺がそう言った瞬間、後ろに下がって、用意していたであろう水精霊の力を借りて洗い流した……俺の血を。
「……残念、覚えてるよ、カールー」
楽しそうに、ズブ濡れのまま笑う。
そのまま水が滴る髪を振り上げて、両手をあげる。
降参はしてくれなさそうだが……何が来る?
「さぁ……別のベクトルの芸術を、堪能してね」
剣がより細く小さくなり、指揮棒に変わる。
「何を……?」
パッと指揮棒を振る、するとそれに呼応してルギュルが攻撃してくる。
寸分の違いもなく、同時に攻撃が来る。
「っお?」
だが、これならまだ、二対一のときの方がキツかった。
「……さぁ、第一章終幕だ」
「……だね、ルギュル!」
グワッと、手を上に大きく振り上げて、勢いよく指揮棒を持っていない手の方も一緒に振り下ろす。
ハジける様な音が一瞬だけ聞こえた。
だがその瞬間、音が聞こえなくなった。
耳から溜る生暖かい感覚と、目の前が白く光り出す……
「……一章終幕、その名も」
「〈迫撃音〉」
二人してそう続けて言った。
そう、耳は治った。
剣を抜く。
音を探る、肌で感じる。
見えないハズの目を見開き、限界の集中力を見せつける。
「……まるで」
「まるで、ミラン ダリンの様だが……!?」
迫る五線譜が風を切る音。
精霊達が準備する大魔法の感覚がビリビリと肌に突き刺さる。
「……って待て比喩じゃねぇ!?」
パリッと嫌な音が響いた瞬間、横に飛び退いていた。
「ん〜!?雷撃避けられた!?」
「だが、これは避けられまい」
迫る瞬間、少しでもタイミングを間違えれば、あっという間にあとは敵のペース。
わざわざ受ける必要は無い。
ジャンプして避ける。
「それは読めてるさ」
空中に用意されていた音撃が更に迫る音がする。
それは四方に散りばめられている。
「……」
アデサヤはいない、今握る剣はナイトライン。
だが、だからこそ、俺はこんなにも安心しているのだろう。
何故こんなにも安心できるのだ?
はっきりいって絶体絶命のこの状況で、俺は何故?
目が見えない、だからこそ、暗闇を割く赤いあの光がよく見える。
「こい……!『モルバ』」
地上にいるのに、水しぶきの舞う音。
そして、剣が一瞬、力を弛めたスキに手を離れた。
「君はっ!!」
驚くルギュルの声。
「君はっ!?」
これまた驚くリリーの声。
「……?」
二人ともモルバは見たことがあるはずなのに何をそんなに驚いて……?
まて、何故、ルギュルもモルバを知ってると俺は仮定している?
「っぐ!」
「っちょわわ!?」
二人とも、斬撃音に蹴散らされる。
モルバから……斬撃音……?
「……っし、見えてきた……!?」
目を開いた時、俺は驚いた。
二人ともボロボロになっている。
「……っはは……見えてないから、存じ上げないよね、君は」
「カル……そんな隠し玉があったとは……!」
顔に影が刺して、空を見上げた。
モルバが悠々と空を飛び、今にも落ちてきそうだ。
俺が見えない中、ふと見た……聞いたあの剣撃の音の主は?
あの赤い瞳の、誰かを思いながら使うと約束したモルバ……
「お前は一体なんなんだ?」
二対一……そうみんな思っていたのに、誰かが、戦いを乱した。
そして、また二人は準備をする、第二章の音が始まる。




