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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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ショコラフレーズ

「……ほら、これだ、乾燥させたイチゴが入っていてな、程よい酸味とミルクチョコの甘ったるさが絶妙にマッチするんだ」


 俺に渡してきたそれには『ショコラフレーズ』と書かれたチョコ。

九十六層を乗り越えて、ギルドマスターの部屋に帰ってきて、チョコを食べながら、雑談をする。


「殺意は必要か……なんて質問、されるまで、なんでもないと思ってたな」


 ふと俺が、思い出したように呟いた。


「……もとより戦いとは、命を賭けて行うもの。

それで、相手には命を賭けさせず、自分は賭けない、そのままで、あれほどまでに強かった。

もしも逆なら虫のいい話だが、フューチのあれは、彼女以外に出来るやつはいないだろう」


「だな……俺たちはあんなに凄くないから、俺たちらしく、戦おう」


「あぁ、それがいい、次は……九十七層だったか、誰と行くんだ?アイビ……いやなんでもない」


 誰かの名前を言いかけていたように聞こえたが……途中でやめた。

まぁ、あえて言わないのなら、俺も言及はしない


「とりあえず、一回魔王城に帰るよ、ありがとうサクラ、助かった」


「はっ、いつでも頼ってこい」


 空を飛び、ヘルヴェティアへ飛び立つ。

数時間すればすぐに着いて、もう夜ご飯の時間は終わって、街の灯りは少しずつ減っている。


「……ただいま〜……」


 できるだけ静かに、しかしただいまだけは言って帰ってくる。


「……おかえりなさい、カルカトス」


「おわっ、魔王様、起きてたんですか……」


「えぇ……ラジアンはもう寝てます、私は少し星を眺めてました……迷宮は、どうでしたか?」


 小さい声でコソコソ話す。


「勝てました、明日は九十七層ですね、また朝ごはんを食べて、仕事を終わらせてから行こうと思います」


「分かりました……ほんと、仕事まで頑張って、あなたは偉いですね」


「魔王様こそ、俺よりも年下なんですし、たまには年相応にはしゃいで貰えないと逆に不安になっちゃいますよ?」


 前々から思っていたことだ、ほんと、生まれが生まれとはいえ、大人びすぎている。

俺が今18で、魔王様はいくつだったか……まぁ俺よりは年下だったはずだ。


「ふふっ、ありがとうございます。

でも無理なんかしてませんよ、私は、皆さんと一緒にいられたら、それだけで随分と気が休まります。

今まで色々なことがありましたからね。

父は隠居して以降、私の方から顔を合わせるのを拒否しています。

時折、父の部下がこちらに顔を出すのですが、その度に固有スキルで突っぱねてやってますから」


 そう言って、悪戯小僧……悪戯少女のように笑う魔王様を見ていると、こういう一面があるのかと、今更ながらに思わされる。


 でもこうやって、歯を見せて笑う魔王様の姿は、随分と年相応に見えた。


「これ、良かったら食べてください、ショコラフレーズってお菓子です」


「あら、これ知ってますよ、でもこれはメーカーで、このチョコの名前ではありませんよ、最近魔界の方にも進出し始めて……ふふっ、是非一度食べてみたいと思っていたんです、ありがとうごさいます!」


 喜んでもらえて良かった。

その日は自分の部屋に戻って、眠りについた。

久しぶりに一人で寝ることになるのかと思っていたが、俺のベットにラジアンがいたから、今日も二人で寝ることになった。


 次の日、おはようよりも先に、おかえりと言われ、いつも通りにご飯を食べて!いつも通り、仕事を終えてネルカートへ行こうとしたとき、ラジアンが声をかけてきた。


「カル、今日はこの剣持っていって」


 いつの間にか俺の手からラジアンに移っていた、ナイトラインを渡してきた。


「?あぁ、わかった……じゃ、今日はアデサヤはお休みだな」


 身体の中にあるアデサヤにそう言って、ナイトラインを久しぶりに腰にさす。

こんな感じだったか?と違和感こそあるが、九十七層攻略にこれ以上の武器は無いと思わされた。


 ネルカートに降り立ち、辺の人は、俺が今日も迷宮へ挑むことを知っている。


 そんな俺に、声をかけて来る人がいた。

いや、その人は人間と言うにしては気配がどうにも希薄で、透明感があるような気配。

そのせいで、触れられるまでただの空気か何かだと思っていた。


「カル君っ!」


「っひゃおわっ!?」


 首筋に冬場の川のように冷たい手のひらが押し付けられて、俺の名前を呼ぶ、この声は……


「す、す、スイっ!?」


 懐かしい、俺の幼年時代を共にすごした水の精霊、スイ。

あーあーあー……随分と立派に育ったなぁ……色んな意味で。


「……スイか……あの時のことは……ほんとごめん……」


 頭の中ではくだらないことを考えているが、それよりも先に謝らなくては行けないのだ。


「っふふ、いいよいいよ、カルくんが悪いわけじゃないって言うのはみんなわかってるからさ」


「……あぁ……他のみんなは?」


「みんな森を守ってるよ、今日は、あの日の順番が来たからさ」


「順番……あ、そうか」


 俺がまだ十層にもいたっていない頃、五人で誰がどの順番で迷宮に俺と一緒に行くかを決めていた。


 スイはその中では一番最後になっていた。

最後から二番目のシガネを最後に、俺は彼らと迷宮を旅することが無くなっていた。


「そうか……そういう事か……!

わかった、久しぶりに一緒に行こう……ちょうど敵も精霊だ」


「カルくん、頼りがいがある男になったね……私だって、前みたいにオドオドしてるだけじゃないからねっ!?」


「……うん、いこ!スイ!」


 なんだかすごく、懐かしい気持ちになった。

俺が引く手は冷たいのに、胸の内が暖かかったから、気にもならなかった。


「っおわ!?手がジンジンする!?」


「剣にぎれる!?」


「……無理!ちょい休憩!」


 前言撤回、ただ冷たすぎて感覚無くなってただけだわ

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