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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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不殺の必殺技

「『フォーリュアよ』『未来さえも突き穿て』『世界の夜明けを迎えたあの日』『そこから見た未来を突き穿て』『不殺にして不可避』『必殺にして必滅』《未来死(アスタ・ラ・ビスタ)》」


「……」


 引きずるような音、まるで何かの鳴き声かのように。


 そして、フューチは指を立てた。

納刀し、両方とも空手のまま、両手を開き、一本一本収めていく。


「……」


「……さて、どう守るか……」


 どこから来るか分からない。

おそらく背後、それは攻撃が来る瞬間の背後だろう。

たが、いつだって背後があるのなら、俺は目を生やし、物理的に視野を広げ、全てを防御に振る。


 サクラが対処法を得たのなら、後は最悪こいつ1人でもやれる。

これを受けきれば、サクラを守り抜けば、俺の勝ちだ。


『……5……4……3……2……1……』


 指が一本ずつ減っていき、ゼロになった。

全方位、どこを見ても、攻撃は来ない。


 しかし、身体の中で何かが燃えた。


「……っぁ」


 どこから攻撃が来るか、察した。

体内だ、多分、間違いなくそうだ。


 フューチはきっとネーヴェとも戦ったと言っていた。

フブキの体内に氷塊を飛ばすあれも、ネーヴェの技だと言っていた。


 ならば、それを対策し続けてきたフューチなら、逆に、同じようなことが出来るのでは?


 フューチは、恐らく天才だ、神様が、溺愛するほど。


 だが、俺はそこまで恐怖しなかった。

彼女がこれをできる理由は、神に愛されているから、どこまで行っても彼女は不殺を貫くだろう。


「……俺を殺せない……いや、殺さない!」


 俺たちの命の主導権は、終始フューチが握っていた。

やたらと致命傷を与えてこないからと言ってタカをくくっていたら殺されるかもと思っていたが、流石に殺しを避けすぎだ。


「……っ……ふはは!」


 身体の中に、一本光の線が突き刺さる。

しかしそれは、むしろ気持ちが悪いほどに、急所を避けて、ただのかすり傷程度も当ててくれない。


 ポーションを飲む云々の前に、そもそも普通の人でも数日立てば立ち上がれる、あまりにも弱い一撃。


 しかし、あえて急所を避けて突き刺せるのなら、あえて急所のみを突き刺せるのと同義。

それほどまでに細かい力のコントロールを可能にしているのは、やはり彼女が、どこまで行っても神様に愛されてるから。


「……っほぅ、考えましたね」


 地面を血で覆う、俺のフィールド、俺の、俺だけの舞台!


「あぁ!〈最後の楽園(ラストリゾート)〉!」


「まるで、ネーヴェの様だな」


 そう言って、剣を地面に突き立てた。

瞬間、血みどろの大地が、優しい光に包まれて霧散した。


「その手の魔法は、慣れた、ネーヴェのものに比べれば、児戯に等しい」


「……っだよなぁ!」


 だが、やはりネーヴェもしていたらしい、広範囲、未来を例えみても、意味が無いほどの、回避不能の全範囲攻撃。


 そして、その手の攻撃は、一人、得意としている奴がいる。


「『聖桜魔法(ヘブンスブリューテ)』《桜爆花おうばっか》!」


 桜の花びらが舞う。

輝石のおかげが、以前よりもパワフルで、スピーディだ。


「……これは……避けられない……か」


 爆発が、この階層を包み込む。

上も下も、関係なく、横に広がり全てを桜色に染め上げる。


 俺ももちろん爆発に巻き込まれる……が!


「流石の耐久力だな、二人とも」


 俺もフューチも、フラフラになりながら、立っていた。


「……凄い魔法だ……あんな力技が成立するなんてね」


「使う前に、止めればよかっただろう?」


 そう言うと、フューチは笑いながら口を開く。


「私は一人しかいないんだ……カルカトスを相手にしながらは、無理だよ」


 二対一でさっきから圧倒していた癖に、そんなことを言う。


「……お世辞が上手い……な」


「お世辞じゃない……私だって……疲れるからな……未来を弄るのは」


 そうか、ずっと固有スキルを使って戦っていたんだ、そんな芸当、ナルヴァー以外にできるわけが無いか。


 俺だって、サクラだって、限界を先送りにすれば、永遠と使えるが、解いたあとがやばい。


「……スタミナが限界だ、最後はこれで、行こうか」


 剣を体に着けて、直角に構える。

俺は、ミランのように剣を構えて、攻撃を待つ。

奇しくもお互い、待ちの剣、俺は構えを変えて、この動かない現状を動かす。


 我流の構えに戻り、前へ突き進み、突きをする。


「……はあっ!」


 それをいとも容易く避けて、すぐに反撃をしてくる。

その反撃を……!


「……っしゃぁ……!」


 出来た、ミラン特有の、手応えすらない、完璧な受け流し!

フューチも、そしてサクラさえも、目を丸くしている。


 切り返しはまだまだ完璧には程遠いが……以前よりも何歩かはミランに近付けた。


「……っくはは……キチンと戦ったのに……負けてしまったな」


「殺す気……なかったでしょ……全力じゃない」


 俺はこの人の、この後の返しを、忘れることは生涯ないだろう。


「?……戦いに、殺意は必要か?全力とは、殺意あってのものか?」


「……っ」


「……ならば、私が今まで殺意なく最強だったんだ、そろそろ説として、立証させてくれ」


 笑いながら、血を吐いて地面に附す。


「……君たちは、いい英雄になる」


 そうとだけ言って消えていった。


「……志では、まだまだ我々の完敗だな」


「……戦いにおいても、まだまだ完敗だ」


 俺もサクラも、イマイチ勝ったという自覚はないが、確かに勝利したのは、事実だった。


 生き残ったのは俺たちで、消えたのはフューチなのだから。


 だが、そんな勝敗の定め方が、少しだけ馬鹿らしく思えた。

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