絶対に
「……『ショコラフレーズ』……」
「……カルカトス、君は私の名前をチョコの名前だとは思わないみたいだね」
「えぇ、もちろん……知ってますよ、その名前」
毒殺された、勇者……『人間に』毒殺された勇者。
フューチ ショコラフレーズを知る人達は、口を揃えて、毒殺されるような人物では無かったという。
それは、魔王でさえも、同じことを言っていた。
敵からも、仲間からも慕われる、まさに勇者と言うべきか、そんな人物だった。
「……っはは、安心してくれ、その紅茶に毒は入っていない、保証しよう」
自虐的に……と言うよりは、悪戯っぽく笑いながらそういうが
「……シャレになってない……」
サクラはなんの疑いもなく飲んでいるが、俺が口を付けられなかった理由はそこにあった。
「確かにそうだな、だが、私は特に恨んではいないぞ。
確かに殺された時はなぜ?となったが……まぁ、構わない。
さて、君たちと少し雑談がしたいんだ私は、いいだろう?菓子の駄賃だと思ってくれ」
「……そういうわけなら、せざるを得んな、仕方がない」
そういいつつも、静かに一人で舌鼓をうっていたサクラ。
「俺も是非、お話させてください」
俺とサクラ二人の言葉に満足そうに頷き、俺たちは話をした。
別段壮大な話はしない。
最近何か面白いことはあったとか、趣味はなにかだとか、それに対する俺たちの答えは、別段特別なものは何一つない。
至って普通のその受け答えで、彼女は微笑み、頷く。
「雑談と言うんだ、貴様の話も聞いてみたい」
「私?私の話か……そうだな、それじゃ、こういう話はどうだ?」
その話は、彼女の旅の物語。
たった一人で、魔王城まで至った、彼女の戦い。
誰一人として殺すことなく、不殺のまま、その容姿に違わぬ美しい両手で、魔王と握手をした。
俺にはできなかったこと。
殺さなくてもいいってのは、意外と、なかなか難しい。
実力差がなければ、そんなこと不可能なのだ。
だがそれを可能にしてきた、それが、ただただすごいのだ。
ただの魔族相手だけでなく、幹部や、果ては四天王さえも。
そして、一騎打ちをし、戦った相手の中には、ザクラ グランドの名もあった。
「早く、力強いが、それ故に、彼はそれに頼りすぎていた。
だから、私に勝てる道理などなかったんだ」
そう言っていたが、ただ力強く、ただ早い。
そうだからこそ、ザクラ グランドは恐ろしいんだ。
それは、シンプル故に対策が難しい。
それを超える力か、もしくは、それさえも封じる小細工。
「……さて、私の話はこんなところだ。
君たちと話していて、君たちがどんな人物なのかは、大方予想が着いた……さて、と」
そう言われた瞬間、俺は本能の赴くままに未来を覗き見た。
立ち上がり、数歩離れたところで剣を抜くフューチの姿が見えた。
「……お、息が合うね」
同じタイミングで立ち上がった。
いや……俺が立ち上がるタイミングに合わせてきた?
「?どうした?」
「サクラ……立て、来るぞ」
「……いい反応だね」
サクラが立ち上がろうと机に手を着いた瞬間、そう呟いた。
そして、サクラが宙を舞い、吹き飛んだ。
「……づぐぉ!?」
壁にめり込むような勢いで、吹き飛んだ。
「……!」
俺は、動けない。
サクラ、お前一体……
「サクラ!お前一体!何に被弾した!?」
吹き飛んだ要因が分からない。
恐らく、攻撃された、だが、どんな攻撃が?
「……この攻撃は、ネーヴェでさえも避けられない、奴は、私を最強と呼んだ。
誰も殺したこと無い私を、奴は最強と、己を差し置いてそう言った」
そう言いながら数歩引き、剣を抜く。
俺の見た未来とは大きく異なる時間差の抜刀。
その剣を抜く速度はゆっくりとしたものだった。
「……友の期待に、答えなくては……な?」
言い終わる頃には、抜ききっていた。
鞘は捨て、剣を両手で持つ。
自分の胴体から、直角に、真っ直ぐ直角に剣を持ち、構える。
俺の知らない剣の構え方、あれはまるで、距離を計っているかのような……
「後の先……って事か?」
「……ちょっと違うな、まぁ来い、分かるだろう」
そう言いつつも、あの不可視の攻撃がある以上、迂闊に飛び込めない。
しかしその瞬間、俺の横を赤い竜が二匹通り抜ける。
サクラの魔法だ、それに追従するように、神速で駆けるサクラが抜けた。
「……っぶへ!?」
しかし、それと同じぐらい早い速度で殴り返された。
「……今度は打撃!?」
さっきのは斬撃かなにかだったんだろうか?
そして、飛んで行った炎の竜は、知らない間に、霧散した。
「……さて、私は君たちのことをほとんど知っているんだ。
少しぐらいハンデをあげないと、これは、不公平と言うやつだよね」
そう言って、剣を提げて、そういえば、と言った感じで話し始める。
「私の能力の名は《勝利への道》未来に干渉する力。
例えば、さっきの炎に『遥か未来』を差し込んで、霧散させた。
君たちの攻撃は、全てずっと前から知っている……そして、不可視の攻撃は、君たちが通る未来の道に『置いてきた』」
「……?つまり?」
「私には絶対に勝てない、そういう事かな」
サクラも俺も、説明されて、めちゃくちゃな能力だということは、十分理解した。
だしがかし、それでもだ、一つ不思議なことがある。
「?フューチ、貴様、我ら二人を前に……」
「絶対に勝てない……ってことはな」
「「絶対に無い」」
「お互い切磋琢磨しあった仲なんだ、二人揃えば最強、そんな事、私が一番知ってるよ……でもね、あの二人にさえ、私は二対一でも負けたことは無い!」
頭を使おう……幸い俺も未来視ができる、弱点は、意外とある。
ほんの数少ない弱点だが、一つ一つ確かめていくとしよう




