約束
「……遊びに行くって言っても、なにするんですか?」
敬語だが、俺の仲間だったらしいフレイは敬語だった。
「……平和な今を、ただただぶらつくだけだよ」
別にそれ以外になんでもない。
フレイには、ローブを深く被って貰って、てくてくと歩いていく。
「サクラは今、ギルドマスターをしていてな、ほら、あそこに見える大きなギルドのマスターなんだ。
今や全世界のギルドの頂点に立つ、最強の冒険者なんて呼ばれてる」
「……ふふ、っカルカトスは不服そうですね」
しかし、名前は呼び捨てだった。
「あぁ、俺の方があいつよりもよっぽど強いからな」
「流石は、リーダー」
その呼ばれ方に懐かしいものを感じるのは、やはり俺は俺だったって言う裏付けのようにも感じる。
「……さて、何しよっかほかには」
「ご飯、食べに行きましょう、私リリーちゃんから聞いたんです、ぱんけーき、食べてみたいです!」
あぁ、そういえばリリーは色んなスイーツ食べてたな。
その中でフレイの目にかかったのは、パンケーキか
「フレイは、パン好きだもんな」
俺の作ったパンを、デクターよりも美味しそうに頬張っていたのを覚えている。
あれは、嬉しかった記憶があるな。
「はい!でも普通のパンとは違って、もちもち、ふわふわなんですよね!」
「あぁ、そこにシロップをかけて……バターも落として……」
想像しただけで身悶えするような嬉しそうな顔をするフレイ。
「行こうか、あそこの店で食べられるよ」
魔界にあったお店も、どんどんと他国に進出している。
その中の一つ、馴染みのある名前の店に足を運び、パンケーキを頼む。
「私は紅茶で……カルカトスは?」
「俺も紅茶でお願いします」
そう言って店員に伝えて、フレイは物珍しそうに店内を見回している。
「街中をぼーっと眺めているだけでも、実にたくさんの種族の人が目に入りますね。
そしてそれを誰も物珍しそうな顔で振り返らない……平等とは言わないまでも、平和な世界には、確実になっていっているんですね」
パンケーキが届くまでの間話にしてはスケールが大きい。
「だな、どうだ?」
あの時みたいに、酷く抽象的な質問になった。
「……その昔、私が住んでいた時代に、とある小さな村がありました」
「……うん」
「その村の名前は、インセント、平等を謳い、そしてその名に恥じぬ村でした。
小規模でしたが、私はそれを自分の目で見たとき、確実に形になっていると思いました。
そう、それはそう遠くない未来のうちに、これよりもさらに大きな規模になるに違いないと私は考えました」
「インセント……」
「私は、魔族への復讐心で、一人歩いていました。
もしもみんな仲良くなってしまったら、それでも昔のことを思い出していがみ会おうとする私は、聖女として失格でしょう。
だから私は、復讐の機会を逃してしまうのでは無いかと焦りました。
故に私は、あの村を滅ぼしました。
村長を処刑し、それ以外のあの村も、全て蹂躙しました」
「……っえ?」
「そして、私はなかなかに……嫌な気分になりました。
復讐とも言えない、私の自分勝手な行動で、沢山の命を奪いました。
本来なら、命を救うべき私が、この両手を血に染めて、救うべき手で人々を殺めました。
故に死に場所を探し、勇者と戦い、私は命を落としました」
「……っ……で、どうだ?いまは」
「……悪くない、気分ですね」
微笑んでいる。
話の内容はとても突飛なもので、驚くべきことが沢山あるが、それでも、俺じゃ決して想像もできないようなプレッシャーに押しつぶされながら生きていたと考えると、少しだけ同情する。
プレッシャーに押しつぶされるようなメンタルで、人を殺めるなんて、できるはずがないのに、相当不安定だったんだろう。
「……悪くないか」
「えぇ……きっと、今ではどこでも、小さい子が転んで泣いていたら、誰かが手を差し伸べてくれるんでしょうね、種族関係なく」
その言葉に、聞き覚えがあった。
前にハリスに行った時にも同じようなことを言っていた。
多分、フレイに、手は差し伸べられなかったんだろう。
擦り傷程度、手をかざせばあっという間に治ることだろう。
それに、聖女に無闇に触れるような真似は、とてもできないだろう。
パンケーキが届いた。
とても甘くて美味しくて、フレイは幸せそうな顔で笑っていた。
あの時に、あの家出見せた顔と同じだ。
多分こうやって笑っている時のフレイが、本当のフレイなんだろうな。
今までずっと押し潰していたぶん、笑顔が時々零れ落ちてくる。
「……っふふ、ぱんけーき、おいひいですね」
「……飲み込んでから、話そうな」
「ふぁい!」
わかってるのかわかってないのか、俺は分からない答えが返ってきた。
それに俺は力が抜けて、つい笑ってしまった。
「っはは……」
「!っふふふ」
二人して笑った、別に、何が面白いかと言えば、笑っているのが面白くて笑っている。
「……私達今、とっても人間でふね」
「……あぁ、聖女は口に物入れて喋らないからな」
そういうと、ハッとした顔をして、その後笑って
「ありがとうございます」
どこか救われたような顔で笑っていた。




