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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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再開

「……っし」


 眼帯を締め直す。

左目を隠すための、デクターの眼帯。

あいつも、瞳に宝石を隠し持っていたな……


「……相変わらず……綺麗なところだな」


 夜空みたいに輝いている、この暗い洞窟。

壁と同化した色んな生き物がいる。

切り払いながら、ズンズンと前へ進んでいく。


 あの時ミランと戦った時のような美しい剣技はとてもとてもとても及ばないが、それでも以前よりも磨きがかかっていた。


「……よぉ、久しぶり」


 だからこそ、簡単に奥に来ることが出来た。


「……久しぶりですね……いや、こっちのあなたには初めまして、の方が正しいんじゃないですか?」


 フレイが、そう言いながら、光の泡から現れた。


「……確かに、俺の中にいるあんたと話している俺は、俺じゃないし」


「私の中にいる私が話したあなたは、あなたじゃない……」


「……少し、話をしよう」


「……話?」


 眉をひそめた。


「……あぁ、話。

聖女の話が聞きたい……」


 そう言った瞬間、目を少し見開く、そして、ため息を着く。


「長くなります、椅子を用意しましょう」


「……相変わらず、迷宮を上手く使うな」


 美しい椅子ができた、それに腰かけて、お互い向かい合う。


「……まさかあなたが、そんな挑発をするタイプの方だとは思いませんでしたよ」


「……あぁ、聖女って言われるのは嫌だったよな。

覚えてるよ、俺は、あんたのことも、大切な仲間だって言ってたんだから。

だから、お互い、取り繕うのは無しにしよう、昔のカルカトスが隠したがっていたことを、俺が全部正直に話すから、最後ぐらい、お互い、な?」


 そう言っていると、大切な仲間といった時に、ピクリと動いた。


「……私が大切な仲間!?っは、相変わらず、あなたは本当にお人好し……いや、1周回って間抜けです、あなたがそんなんだから、仲間を失うようなヘマをしたんですよ」


「……だな、それは俺自身も後悔しているらしい」


 そういう答え方をした時に、向こうの方も察したのだろう。

俺にその手の舌戦は通用しない、だってあれはなんでもない他人の話。


「……なるほど、本当に、あの頃とは違うのね、あの頃のあなたは、本当にどこにもいないのね」


 そういうと、少し寂しそうに見えた……それは、俺にとって、意外なようで、少し予想していたとおりでもあった。


「……やっぱり、あんたも、楽しかったんだろ?」


 そういうと、違うと言いたそうに顔を上げたあと、少し俯いて


「……ん、楽しかった……すごく楽しかったの」


 以前とは大きく違った口調で話し始めた。

最初にあった時のように丁寧なものでもなく、最後に会った時のように荒々しい口調でもない。


 あれら2つは、作られた話し方だったのかもしれない。


「……聖女の私を愛してくれる?」


 そう、唐突に聞いてきた。


「……少なくとも、あの頃の俺は、全てを愛していた。

あの日の、あの時のことは、今の俺でさえ、鮮明に思い出せる、それほどまでに楽しかったんだろう。

だから、愛していた。

きっとほかの三人も、愛していたさ……フレイ」


「……私には、家族がいたの。

本当に大切な父と、優しい母、そして、立派な妹と、どこか抜けてる兄。

私が聖女に選ばれた日でも、皆の対応は変わらなかった。

でも、周りの反応は違ったの。

皆が私を崇めて、皆が私を狙う……その過程で、私の家族は皆殺された。

私は、自分を偽るの……正しい聖女に、ありもしない『メイ テンス』になるために」


「……」


「私の精神はどんどんと壊れて行って、取り返しのつかないこと、それにさえも何度だって手を染めた。

いつの日か、私は、私が沢山できたの。

正しい聖女の私、恨めしい魔族や、私を強制した人間へ殺意向ける私、そして、その2人に押し殺されている、子供の私」


「……なるほど」


「……私は、あの場所では、子供になれたの。

意味の無い言葉、意味の無い悩み事、意味の無い事を何度も何度も積み重ねた。未練になんて関係するわけが無い、そんな意味の無いものを何度だって続けてきた。

ディンが言っていたのよ、人間ってのは、意味の無い事をするって、私は聖女から、あの時ばかりは人間になれたの。

聖女失格、その烙印を、自分に私はしっかりと押せたの」


「……俺たちとの、日々は楽しかったのに……なんであんなことを?」


「……私は、怖かったの。

明日、もしもあの日明日遊びに行っていたら、多分私は光に包まれて消えていった。

そんな楽しい時間が終わってしまう、それが刻一刻と近付いてくるのを待っているぐらいなら、私はせめて恨まれて死にたかった。

あなたは、生半可な攻撃じゃ死なないから、一撃与えて、残りの3人に、殺されたかった。

私はそれで、満足だったの、私は皆が大好きだったから、皆に終わらされるのなら、何も後悔はないの」


「……そこで、ジャンパーが、俺を庇った」


「……えぇ、私だってあの時は驚いたの。

でも、その瞬間、取り返しのつかないことをした瞬間、私は、ダメな私に変わっちゃうん()()

そんなダメな私が、暴れて、何もかも……悪いことをしてもいいって言う免罪符にしているわけじゃないんです!

私が……私が悪いのは、本当にその通りなの……だから、どうしようもなかったの……!」


 敬語がでてきた。

取り繕うとしている。

そして、その時は、取り繕う時は、決まってなにかボロが出そうになっているとき。

つまり、ダメなフレイが出てくる時と、予想する。


「……フレイ」


「はい、なんですか?」


「……遊びに行こう」


 小指を立てて、微笑む。

そして俺は先に椅子から立ち上がり、手を差し伸べる。


「今の俺には、あ愛する彼女がいるからな、あんまり楽しめるかは分からないけど、世界は大きく変わったんだよ、見に行こう……そして、また三人に会いに行こう」


「……っぁあ……!?……行ってきても、いーい?」


 椅子から、何も無いはずの後ろを振り向く。

返事が返ってきたらしい。


「行きましょう、お母さんから、許可を貰えました」


 俺に見えない、フレイの家族。

心が、底の底からぶっ壊れているのに、何故か動いているのが、不思議だ。

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