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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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風の勇者

「……っふぅ〜……」


 フロウが息を吐く。

事前に決めておいた作戦を実行する合図。

心が読まれないように、目を瞑るフロウ、これは作戦にない、アドリブだ。


「……お……?」


 空気が変わったのを、肌で感じたのだろう、眉をひそめる。

ピューさんが死んでから、最強の勇者の座は、今や間違いなくフロウの物だ。

踏んできた場数、積んできた修練、そして背負う意思の重さ。

どの方向から見ても、誰一人としてフロウには及ばない。


 そんな彼女が、剣を強く握り直す。

瞳を開き直した、綺麗な瞳が輝く。


 それはそう見えたんじゃなくて、本当に一瞬、キラリと光った。

多分それは、フロウも知らない事実。


「おおっ!?」


 空がパッと晴れた。

フロウに呼応するように、雲一つない晴天。

剣に纏う嵐も無くなって、魔法の全てを今一度、解いて見せた。


 そして、息を吸う。

俺にすら、秘密にしていた新しいフロウの力。

仲間を失ってから、慎重に慎重を重ねるようになったフロウが非効率的な事をした。

今思えば、俺から新しい力が漏れることが無いわけたから、合理的なのかもしれない。


「……待つよ、何をするの?」


 剣を鞘に収め、催促するように手を向ける。


「『世界の夜が開けた』『初めに吹いたあの風は』『今もどこかで吹いてるのかしら?』『私の髪を撫でるのかしら?』《遺風廻風(ゼフィルクロンデール)》」


 固有スキル……か!?

いや待て!フロウの固有スキルは『嵐纏らんてん』だったはず!?


「……私の固有スキルは、アレじゃないわ」


「っな!?」


「あ!そーなの!?」


 俺もミランもそうとばかり思っていた。

しかし違ったみたいだ……なら、だ。


「……さぁ、風が吹くわよ……撫でるように」


 スっと、頬を、顎の下を、耳の裏を、風が優しく撫でて行った。

不思議な気持ちに包まれた……言葉では表しにくいこれは……なんだろうか


「……〈風車(エオリエンヌ)〉」


 パッとフロウの目の前に生まれた小さな小さな翡翠色の風車。

風魔法の塊だ。


 それを優しくフウッ……と息を吹き付けた瞬間、タンポポの綿毛がどこからともなく吹いてくる。

幻想的な風景に、目を奪われた。


 しかし、風は一向に止まない、むしろどんどんと強くなる。


「……どんなに大きい山でも、風に削られれば時期に平地になるのよ」


 その『山』というのは、土の勇者のピューさんのことを指しているのか?


「……ふふっ、いい風だ!私の魔法が全部乱される……時間求められない……固有スキルもまともに使えない!」


「へ?」


 そう言われて、俺も直ぐに魔法を使おうとした、固有スキルも含めて、身体の形を変えようとしたり、光の魔法を使おうとした瞬間に、何かが隙間に入り込んできて、崩していく。


 それに抗おうとしても、隙間に入り込んでくる。

それは、絶対に隙間風が入ってきては行けないところなのに、それに抗えない優しい風が撫でる。


「……私の固有スキル、まだ手に入れたばかりで、これ以上は上手く使えないの……そして私も、これ意外に行動が出来ないの」


 剣を振るうことさえも出来ないのか。


「……なるほどね、わかったよ、俺とミランで決着を付ける」


「ありがとう、あとは任せたわよ」


 そう言われて、風に少し背を押された、気がした。

いや、風を背に俺はたっている、追い風だ……それさえも追い越して、俺は踏み込んだ。


「行くぞ!ミラン!」


「うん!悪くないと思う!」


 そう言いながら、ミランが走ってくる。

俺は、今戦えないフロウを守るために、剣を振るう。

お互いの剣がぶつかり合ったとき、辺りに舞う綿毛が吹き飛んでいく。


 ミランの連撃、らしくない猛攻。

しかしそれは直ぐに、俺への最後の授業なんだと察した。

それら全てを受けきることは、今の俺にはあまりにも難しいから、時として攻撃を避けることで、ダメージを最小限に減らす。


 血の刃を使っても、全て切り払われるが、いつかこれだって役に立つかもしれない。

本当だったら色んな魔法で死角を作って、そこを突いて攻撃……と行きたいところなんだが、ミランに死角がそもそも存在してくれていない。


 風が俺を鼓舞してくれている。

応援してくれている。

だからなんだと言えばそこまでだが、俺は英雄、一番力が出るのは、輝けるのは、愛する人を守るときと、誰かの応援の声。


「すごいね!さっきまで二対一でもボロボロだったのに!」


「……負ける訳には!行かないからな!!」


 俺は相も変わらず戦いの途中に、ミランの様に余裕綽々と言った感じで剣以外に何かを交わす余裕はない。


「……うん、いいね」


 俺のその必死に絞り出した言葉に、嬉しそうに笑う。

やっぱりミランは俺の事が好きなんだと、すぐにわかる顔だった。

それは、ラジアンが俺に見せる最高の笑顔に似ていた。


 でも、ミランは俺を見ていない、俺によく似た、白い髪のあいつの事を見ている、きっと夢にだって見ているのだろう。


「……風が気持ちいいね」


「……っはぁ……はぁ……だな!」


 少しお互い距離を取った。

何となく、次の瞬間が、次の衝突が、最後になるだろうと察した。


「……行こうか、私の『奥義』で迎え撃つよ」


 剣聖流……いや、言うなれば『ミラン ダリン流剣術』の奥義……そんなものがあるのか!


「……楽しみだ……是非見せて欲しい」


 凄い集中、剣を構えた、それはさっきまでのノーガードに近いものじゃなくて、キチンと、そこら辺の剣士が初めにする、至って一般的な構えだった。


 天才特有の独創的な構えではない事が、俺に不安に、そして、大きく心踊らされた。

見なくても分かる、今の俺の状態に無関心なんてない

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