時間
達人がよく言う『止まって見える』
死地に立たされた時、極限の集中力が生み出す『止まって見える』
そして、ミランが展開する世界は『止まってる』
仮面を外した、盲目の剣聖は、見えないはずの、光のともらない瞳を開き、まるで見えているかようにこちらに向けるが、焦点は合わない。
「……さて、あの時私が纏った属性は……一つずつだったよね?」
そう言いながら、剣をパッと振るう。
剣に着いた俺たちの血を払う様に、すると、その剣が、大嵐の中で、燃え上がる。
「『青ざめよ』『我は雷帝』『我は炎帝』《剣魔法》〈雷炎帝〉」
「っお……!!」
剣から、青い炎のように揺らめく雷撃の線。
そして、それは炎のようにではなく、まさしく炎そのもの。
「……いっくよぉ!!」
グッと沈みこんで……そのまま低い体制のまま滑り込んできた。
「っあぶっぅぇ!?」
フロウを守るように前に出て、ミランの剣術でミランの剣を防いだ。
瞬間、身体に走るビリビリと、メラメラ。
身体に走る電気が、その線が膨張して炎になって体内から焼かれる感覚。
元々の電撃の熱に加わって、抉るように熱い。
「カルカトス!」
ミランの立っていた地面が、下から風の刃が吹き出した。
「ん〜、私に死角とかはないよ〜?」
それを受け流し、更に俺へ攻撃する。
「っおぁっ!!」
とりあえず炎と電気に強い身体に書き換えて対応する。
剣撃の応酬の中、ミランはどこか手を抜いているのか、話しかけてくる。
「さっき心臓を潰しても、カルは死ななかったよねー?」
「っ!ぁあ!そうだ……なっ!」
是非とも後ろに引いて距離を取りたいが、俺の感がここから引くとやられると叫んでいる。
「じゃあさ、さっきこの剣に対抗するためにあの魔術を使ったよね?あの時一瞬、ほんの一瞬だけ魔力が集中したところがあったなぁ?」
「!?なにそれ!?」
俺も初耳だ。
俺のその嘘偽りない反応を見ると、ミランも驚いた顔をして
「え!?知らなかったの!?」
多分、そのほんの一瞬は、俺すらも気が付かないほどの一瞬なんだろう。
そんな力技で俺の弱点を見つけるようなやつは、ミランぐらいだろう。
「……まぁいいや、ズバリ弱点は!頭!」
確かにそれは間違いないが、俺はほとんど不死身だ。
リリーに頭を貫かれた時も、なんやかんや、一瞬の隙で復活する。
頭が弱点なのは、考えられなくなるから。
少しでも意識があったら、今度は本能が勝手に回復してくれる。
「……カルカトス!合わせて!」
フロウが俺の後ろから、嵐の塊を飛ばしてくる。
またもなんでもないように受け流すミランに、驚くべきことなのだが、驚きはとうに失せていた。
「任せろ!《限界突破》」
「何してくるかな!?」
俺の方に、見えないはず瞳を向けてくる、奥底まで覗かれてる気分になる。
俺の手に握るアデサヤから、俺の血を風に纏わせる。
嵐纏は常に辺りのものを巻き込んで、そして削り取る。
俺の血を巻き込めば、一瞬だけ、俺が主導権をにぎれる。
その嵐の不意打ちだけでは、多分かすり傷1つ与えられない。
そこで、俺は1つ覚悟する。
クロンとの戦いで、圧倒的に実力に違いのある相手には、時として捨て身の特攻をした方がいいことを知った。
ミランに、全速力て飛びかかって、組み付く。
「っわわっ!?嵐来てるよ!?」
「一緒に喰らおう!!」
そう言って、更に力を込めた瞬間、目の前からミランが消えて、俺の両腕が切り飛ばされていて、頭に刺された後がある。
それも読めてはいる。
きっと時間を止めて来るだろうと思った。
だから、固有スキルの割合は、回復に100%振り切っていた。
直ぐに癒えてくれるが、目の前に嵐が迫ってきていた。
「自爆するのかな!?っわ!」
フロウが直ぐにミランに切りかかる。
嵐を纏ったあの剣が、魔法をかき乱して、ただの剣の攻防にまで持っていった。
しかし、そのただの剣の攻防が、世界でいちばん強いのが、ミランだ。
「嵐は、俺の味方だ」
自爆と言いつつも、特攻と言いつつも、何らダメージを受けるつもりははなから無い。
その血を纏った大嵐は、俺の剣に吸い込まれるように巻き込まれる。
「行こうか、アデサヤ」
嵐に血を混ぜて、主導権を握る。
そして、それを剣に纏わせる、攻撃に見せかけた、バフ。
そして、自分の心を上手く偽り、ブラフを張った。
あの心を読む力を持つであろうミランには、この精一杯の虚栄が限界だ。
「へぇ!特攻は嘘か!」
俺も直ぐに参戦する。
フロウは、かなり強い、はずなのに、手傷がどんどんと増えていく。
俺と違ってただの人間のフロウには、この傷を直ぐに癒す手立ては限られている。
「一瞬引け!」
そう言って、後ろに下がったフウロと入れ替わりざまに前へ行き、白魔法で細かい傷を癒す。
予め決めておいた戦法。
細かい傷を受けたらすぐに後ろに下がって、こまめに回復する。
俺の白魔法は、サクラの聖魔法みたいに、人智を超えた回復能力は期待できない。
だからこそ、俺は小さい傷を細かく癒していくことで、継戦能力を高めて、二対一を繰り返して、ゆっくりと詰ませて行く。
作戦は至って順調だった。
しかし、たった1つ、そして、とてつもなく大きな穴があった。
「っぐ!」
「っおぁ!」
そうそれは、俺たち2人の自力の剣が、ミランを上回っていないといけない、ということ。
しかし、俺たちは今二人して膝をつきかけている。
「……作戦は悪くないね……相手が私じゃなかったらだ、け、ど」
ニコッと、笑う。
今はその笑みを崩すことさえとてつもなく難しく、敵は強大なのだ。




