最高
「……っ!」
飛び上がり、目を覚ます。
「あ、おはようございます、カルカトス様」
俺を背負って、空を飛んでいるナルヴァーが声をかけてきた。
「ナルヴァー……ここは?」
「空の上です、後十分もすればヘルヴェティアに着きますよ」
なるほど、今は帰りか。
「アデサヤ、取ってきてくれたんだな、ありがとう」
「いえ、礼には及びません、僕はずっと水の中で戦いを見てましたよ、一度だけ出せた音が、助けになれて良かったです」
「……あぁ、いい音がした、美しい音だった……光が落ちてきたよ」
やはりあれはナルヴァーのものだったか……助かった
「ありがとうございます」
他愛のない話をして、魔王城に帰ってきて、ご飯を食べながら今日の話を自慢げに皆にしているナルヴァーが微笑ましい。
「流石だね、カル」
俺の方に寄ってきて、耳元でそう囁いてから、食器を洗いに行ったラジアン。
俺にしか聞こえないその言葉が嬉しくてニヤニヤしてしまう。
今度はみんなにも聞こえる声で
「今日は二人とも大変だったでしょ?私が洗い物しておくよ」
ラジアンの優しい心遣いに感謝しながら、けど一緒に話がしたくて、結局一緒に洗い物をした。
ラジアンは魔王様と一緒に散歩に行くらしい、今日のことを魔王様にも話すんだろう。
ついでにご飯も食べてくるとか、よく入るな、俺はお腹いっぱいだ。
けどドラゴンは体が大きいしなぁ、なんて話をラジアンとしていた。
別に何か特別なことを話している訳でもないし、特別な日でもないのに、特別感を味わいながら、ゆったりと話した。
意外とお互い奥手で、一緒のベットで寝るのさえも、難しい。
「……ねぇカル、明日も迷宮行くの?」
同じベットにいるラジアンが俺に聞いてくる。
顔を合わせられないので、背中を合わせている変な感じだ。
俺は、鈍感な方じゃないと自負しているから、言葉の意図がわかった気がする。
「……明日は暇だな」
「ホント!?」
背中の方でこっちの方を向くような音が聞こえた。
「あぁ、ラジアンは暇?」
「うんっ!ひまひま!チョー暇すぎて倒れるぐらい!」
「っははっ、じゃあさ、明日遊びに行こ」
そういうと、嬉しそうに頷くのが背中越しにもわかる。
「じゃ、今日は早く寝ないと……!明日楽しみだなぁ!」
そうは言ったものの、お互い、明日どこに行くか、何をするか、何を食べるか、そんな話をずっとしていて、いつもよりも眠りにつくのは遅かった。
次の日はお互い寝坊した。
予定していた時間よりも一時間遅れて目を覚ましたけど、二人して笑いあって、朝ごはんの準備をした。
少し寒くなってきて、自然と手を繋ぐようになって、ラジアンの手は少し冷たい。
「あったかいね、カル」
「……だな」
ニヤニヤしているのが、バレないように顔を背ける。
「カル、今最高の顔してるよ」
そう言われて、自分は今どんな顔をしているのか知りたくなった。
演劇を一緒に見に行った、英雄譚の演劇で、本物の魔法や、本物の戦いを再現して、とてもハラハラドキドキするものだった。
「面白かったね、最後の盛り上がりは凄かったよ!!」
嬉しそうにラジアンが話す。
「だな、けど俺的には、終わり方の方が好きだな、盛り上がりきったあと、どうやって話しをまとめるか、それすごく難しそうじゃん?」
「あ〜、確かにね、綺麗に纏まってたよね、あれは」
お昼ご飯を食べに行った。
カフェに入って、ランチの時間帯で人がかなり多くて、みんな俺たちの方をチラチラと見てくる。
「……なんか恥ずかしいね」
「……い、一応有名人だからな」
魔界のカフェにも人がよく出入りするし、魔界に住んでいる人も結構いる。
昼食を済ませ、次はショッピングに行くことにした。
冒険者ギルド魔界支部にあるショッピングモールに足を運んで、服やアクセサリーなんかを見て回った。
「どうかな?これとこっち、どっちが似合ってる?」
二つ服をもって身体の前に持ってきて質問する。
白いセーターは、モコモコしてて可愛らしいし、もう片方はブカブカの大きなスウェット、俺でも着れそうなぐらいに大きくて、それはそれとして可愛い。
「……っん〜……!?」
じっと凝視して、頭の中にその服を着たラジアンを想像して、交互に見比べる。
「……っどっちも可愛いなぁ……!」
「え〜!?じゃ、どっちも買っちゃお!」
「そうだな!そうしよう!」
そんな感じで服を選んだり、お揃いのクッションなんかを買ったりした。
「……ふふふっ……」
嬉しそうな顔で俺の横を歩くラジアン。
両手に荷物を持っていたら手を繋げないから、二人で半分こして手を繋いで歩く。
少し、距離が近くなって、身体が引っ付くところがある。
「ラジアン」
「なーに?」
「今、最高の顔してるよ」
そういうと、荷物を持っている方の手で顔に触れて
「え!?どんな顔してる!?」
そう言って自分の顔を見たそうにしていた。
顔がどんどん赤くなって、心臓の音が聞こえてくる。
「……わかりやすいな、ラジアンは」
頬にキスをした。
周りの誰にも気づかれない最高のタイミングで。
今日は最高の一日だった、きっと今の俺の顔は、最高の顔をしている。




