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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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幕落ちる瞬間

「……」


 お互いジリジリと、ゆっくりと詰め寄っていく。

俺に似た構えのマインに、剣聖の剣術で迎え撃つ。


 次の瞬間、目の前に魔法が飛んできた。

火の玉、すぐに切り裂き、追撃を警戒する。


 見えた未来の俺は、脳天を貫かれていた。

咄嗟に躱し、頭があったところに剣が伸びてきている。


 突くと言うよりも、剣の先を俺に向けるだけでロックオンされている。


「……凄い反応ですね、私の心が読めるのですか?」


 表情は眉ひとつ動いていないが、攻撃が当たらないことに疑問を抱いている。


「未来が見える、そう言ったら笑うか?」


 そういうと、合点がいったように表情が動いた


「……行きますよ」


 こちらとしても好都合な話だった。

地面に剣を突き立てた、ドクドクと吸わせた血を地面に一瞬で放出し、自分だけのフィールドを作り出した。


 突然地面からクジラが飛び出して空へと飛び跳ねる。


「この子は……リリーちゃんの時のっ!」


 見てたのか、あの戦いを、知っていたのか、こいつの存在を。


 ならば、と俺は警戒を一層強めた。

このレベルの英雄が、なんの対抗策もないままだとはとても思えない。


「……っお!?」


 モルバが膨れ上がり、破裂する。

いつもこんなにも損な役回りばかりでほんとうに申し訳ない。


 中から飛び出したのは、巨大な怪鳥。

羽は本のページでできていて、瞳の奥には、ロウソクのように小さな優しい光があったが、それが今では不気味に見える。


「……なんだ……こいつ!?」


 マインの呼び出した化け物か!?


「カルカトス君、君にだけ色んな返信携帯があるのは少しずるいと思ったんだよ、私」


 マインが、喋る声が聞こえる。


「私は一度死んだ、そして、守護者は未練を果たせずに命を落とした時、怪物となる。

私は、ギリギリでクロンさんの声がなかったら、完全に怪物になっていた、そう、なっていた。

私は少しだけ掴んだの、怪物の形を闇の中に手探りだけど見つけたの」


 パラパラパラと、どこからともなく風が吹くと、ページをめくる音が響く。


 ページがちぎれ、地面に落ちていく、そしてその途中に魔法に変化する。


「詠唱では、代償を払わなければいけません、時に時間を、時に心を!時に身体を、私が払うのは、時間と心と身体、全てです!!」


 恐らく、耐え続けていたら、この形態のマインに勝つことが出来るのだろう。

身体からこぼれ落ちてくる本のページは、マインの身体の一部でもあるのだろう、使い続ければ無くなる、消耗品だ。

そしてこの携帯になるためには多大な時間を費やして来たんだろう。

最後に心、怪物に成り下がる、それは屈辱的な事だ、俺ですら、怪物になるのは嫌だ、元々怪物みたいなものだが、理性ある怪物でありたい、本当の意味で心を削るのは、その覚悟はまだ俺にはない。


 そして、耐え切れれば勝てる、そんなこと百も承知だが、俺はこの苛烈な攻撃をどうやって防げばいいんだ!?


 降り注ぐ大魔法たち、行動を妨害してくる小細工じみた魔法たち。


 どれかひとつへの対応を間違えた瞬間、連鎖的に全てを食らってしまう未来が見えた、それが俺を緊張させる。

未来視は、俺の視野だけが限界で、俯瞰視点でものは見れないため常に敵をみ続けなければいけない。


 そんな攻撃を受け続けていたとき、鳴き声が聞こえた。

初めは鳴き声に聞こえなかった、なにか別の世界の言語のように聞こえた。


 初めは音の招待を突き止めるために上を向いた、音が聞こえたのが上だったから。


 しかし、一瞬で辺りに影が落ちた、急に夜になったのかと錯覚させるほどの暗闇。

その暗転に目が慣れなくて、目が慣れた瞬間、空に浮かんだ夜の正体がわかった。


 空を覆い尽くす程のページが、俺に向かって降り注いできた。

未来を見るまでもない、詰んだ。


「……どうしますか!?英雄!!!」


 そんな声が聞こえた、今度は声だった。


「どうするっ!?」


 しかし、この状況を打破するような都合のいい魔法は俺は持っていない、シンプル故に、これよりも強くないといけないのだ。


 次の瞬間、音が響いた。

怪鳥の鳴き声の様に恐ろしいものでもない、綺麗な音が空に響いた。


 次の瞬間、地上に光が刺した、小さな小さな穴が空いた、俺を照らすスポットライトのように、ほんの少しの穴が空いた。


 あの穴も時期に埋まるだろう、ならばそれよりも早く、今しか活路は無いのだ。


 暗転から急な強い光に目を細めたが、その光の中にいる怪鳥の見た目は随分と貧相なものになっていた。


「……っやれる!!」


 地面を深く踏みしめて空に飛んだ。

羽を生やし、空を羽ばたく、はるか雲の上という言葉が、冗談ではないほどの遠くにいるマインに向かって飛び出す。


 小さな穴が埋まり始める、ページに当たることは無視して、突っ込む。


 瞬間、俺に当たった一枚の攻撃が、連鎖的に他のページも起動していった。


 中に押し込まれた最高峰の魔法たちが、一瞬のうちに空を埋めつくした。


 しかしそれでも、俺の体の周りに一瞬固い装甲を生み出した、もちろんそんのもの直ぐに貫通される。


 だが、この一瞬のうちに、身体を小さくした。

服は俺の体の変化に応じて形を変えてくれるが、武器や武具などはそうじゃない。


 ラジアンがくれた篭手、その中に入り込む。

辺りで爆音や衝撃、熱風、冷気、雷撃、そんな天災とも言える攻撃を篭手の中で何とかやり過ごす。


 目論見通り、恐ろしい硬さだ、この篭手は。

篭手から飛び出して、体を元の大きなに戻す。


「あれを食らっても!だが!今の君じゃ私には勝てない!!」


 マインが驚いた声を漏らすが、価値を確信する。

それもそのはず、俺は今剣を手放しているから手元にない。

恐らく爆風に吹き飛ばされてこの階層のどこかに刺さっているのだろう、どこに刺さっているのかも俺には分からない。


 左手に篭手を填め直す。

左の拳を強く、固く握った、少し瞳を閉じて、覚悟を決める。


 ここで負けたら、二度とラジアンに会えない。


 力を振り絞り、マインを思いっきり殴り抜く。

真下に叩き落す様に、強く殴り付けた。


「っがぇっ!?」


 まさか殴ってくるとは思っていないようで、驚いたようだ。

地面に落ちていく途中に、本が剥がれていって、マインが現れる、剣の先をこちらにロックオンして。


 そこに突然現れたかのように伸びた刃、さすがに見慣れたもので掴んで、マインの腹部に拳を突き刺す。


 右手の形を変えて、鋭利なものにし、風穴を開ける。


「……流石、カルカトス……負けちゃった」


 突き刺して穴が空いたまま光の粒と共に俺も地上に降り立った。


「……っし!!」

静かに一人でガッツポーズをして、膝を着いて倒れる。

がなり遠くで、重いものが地上にたたきつけられた音がした、ナルヴァー、大丈夫かな

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