相方探し
「……また旅に出るのか?」
「うん、私たちも、止まってる訳には行かないから……絶えず、突き進むよ」
グリムの胸の中に、クロンを感じた。
「……そうか、じゃあな、お前ら」
グリムの後をヨロヨロとついて行く2人。
昨日叩き潰して、ボコボコにしておいた。
「……次は……負けん!!」
「……私も……勝つ!」
「いつでも来い、受けて立つ……!」
二人からの熱い思いを受け止める。
「……ってことで、エンブラーさん、如何ですか?俺と一緒に九十三層、多分この人が出てきます」
マインの書いた英雄譚を片手に、エンブラーさんを誘う。
あの日のマチア カーラの魔法の絨毯爆撃を食らっても生き延びていた実力者に声をかける。
「んー、僕はいいかな、今更戦いたい気は起きないし、それよりも、ナルヴァーを誘ってみるといいよ、あの子、最近張り切ってるし」
張り切ってる……確かに俺もそう思う。
あの日の、リリーと戦った日以降、随分と気合が入っているように見える。
「ナルヴァー、どうだ?俺と一緒に、英雄と戦いに行かないか?」
「僕でよければ、どこまでもついて行きますよ、カルカトス様」
「そうか!よし!行こう!」
気持ちがいい。元気な返事を受けて、ナルヴァーの背に乗り、ネルカートへ飛ぶ。
「サクラに挨拶はしたか?」
「えぇもちろんですよ、竜王様に挨拶はもう済ませておきました。
しかし、やはりと言った感じですね」
「やはり?」
「えぇ、僕は強い者に目がないんですよ。
だから、竜王についても、ある程度知識がありました。
そんな中、次の竜王の候補として名が上がったのは、恥ずかしながら僕と、あとはサクラとアルグロウド、その三名だけでした」
「……お前もその名だたるメンツの中にいても、別に違和感ないぐらいに強いぞ」
「それは身内贔屓というやつです、事実、僕じゃ多分、どちらにも勝てません」
「わからんぞ、最近のお前は随分と頑張っているからな、今のお前なら全然勝ち目はあると思うが?」
「……カルカトス様がそう仰るなら、間違いないのでしょうね、そう言っていただけたのなら、日頃の努力も報われるというものです」
「……なんでお前は急にああも強くなろうとしたんだ?」
「……最近、強く守りたいものが出来ました。
そのためには、強くならないといけませんから、ラジアン様に教えてもらったんです、どうやったら強くなれるのかと」
「……おう」
守りたいもの、か。
ナルヴァーにも、そういう人物がいるんだな、好きな人かな?
「ラジアン様は今まで戦ってきた中で一番強い奴を思い浮かべて、日々を過ごせって」
「……へぇ?」
それが一体どう強くなることに直結するんだろうか?
「僕の中で一番強いのは、魔王様です、その次はリリーでした」
「……あぁ、確かに、魔王様は別格だ」
正直俺でも勝てるか怪しい、あの固有スキルははっきりいって反則だ、昔に戦ったコリと違って対処のしようがない。
「ですよね、正直僕も同じ感想を抱いています、別格すぎてらどう頑張ってもあれより強くなる未来が思い浮かばないんです。
だから、リリーの言葉を思い出したんです」
「?何かナルヴァーに言ってたのか?」
「えぇ、カルカトス様も聞いているはずですよ?」
「ん!?そうなのか!?」
リリーの言葉を思い出そうとしても、ナルヴァー宛の言葉をそこまで思い浮かばない。
「……ダメだ、降参、教えてくれナルヴァー」
「……『君に足りないものは』『少しの自信と』『少しの狂気』……思い出しました?」
「……あぁ、俺その時自我失ってたよな、でも確かに覚えてる、リリーの声はずっと俺に届いていたし」
けどその言葉が?
「僕はその言葉を指針に、ラジアン様とカルカトス様の二人を圧倒したリリーの言葉なら、信じるに値します、あの人が言ってくれた僕への『助言』それに則って、僕はもっと自分に自信を持って、そして今よりも、更に狂った強さを得てみてます」
確かに、ナルヴァーはとても常識的だ、こいつと話していても、そこら辺の人と話していても、そこまで大差はない。
確かにと驚かされることもあるし、そういう考え方もあるよな、と思うこともある。
でもそれはナルヴァーの考え方と言うよりも、世論の集合体だった。
そんなナルヴァーが、狂ってみせると言ったんだ……
「っはは、お前には、ちょっと難しいかもなぁ」
笑いながらそう言うと、驚いたような顔をして
「な、何故ですか!?良かったら理由を教えてください!後でメモしないと……」
そんな反応をするナルヴァーかますます可笑しかった。
「っぶはは!!ヤダよ、自分で見つけるといい」
狂った方が強くなれると、自由な思考を持つようにとアドバイスを貰っただろうに、字ズラそのままに受け止めて、しかも狂おうとして狂っているやつは狂ったふりをしているだけに過ぎないからなあ。
しかも、わざわざそんなことをメモに取ろうとするだなんて、本当に面白い。
「……お前は、そういうところがお前らしくて、俺は好きたよ」
頭の上に座っている俺は、地面を撫でるようにナルヴァーの頭を撫でる。
「……む、難しいですね、強くなるのは」
その反応に、吹き出しそうになるのをグッと堪えてネルカートへ飛んで行った。




