前進し続ける英雄
「『絶えず突き進む英雄』」
そう呟きながら、地面を強く、ベタ踏みした。
いつものようにトントンと爪先で跳ねるのとは違う。
「……っお?……っ!?」
短剣を受ける。
そして、攻撃を返そうとしたら、またすぐ目の前に剣がある。
一歩前に進んできて、俺は思わず一歩ひかされる。
それをずっと繰り返してくる。
俺はジリジリと後ろに下げられる。
魔法を使う暇はない、無詠唱の悪夢魔術はなんでもないように切り払われる。
横から補助に入ったグリムもいとも容易くいなされ、切られ、蹴り飛ばされる。
何だこの戦い方……全く後ろに引かない……!?
「……驚いてるよな、英雄」
「もちろん……っ!!戦いずらい!」
「だろうな……俺はこんなに強いんだぜ」
俺が何とか致命傷を防げているのは、全てグリムとミランのおかげだ。
「っ!!」
一度後ろに大きく飛んで、逃げてみたが、またすぐにピッタリと気がつけばそこにいた。
「逃げるなよ英雄!」
鬼気迫る、肉薄を続けてくる、しかしそれはゆったりとして、素早い。
剣を振っても、受けてくれない。
身体をそらし、なんでもないように動く。
剣から血のトゲを伸ばしても、剣で払ってくる。
「そのダガー、なんなんだよ!?」
「前も言っただろ、邪龍のダガーだ……俺の大切な思い出の品だ」
そんなの前俺にくれようとしてたのかよ!?
多分固有スキルで引き伸ばされてる。
俺の目を見て、動きを読んで、今ついにトラップも使ってきて、アンデット達が襲ってくる。
シンプルに、じわりじわりと戦うのは、今までで一番戦いずらい気がする。
俺の化け物のフィジカルに着いてこれるようなやつがそもそもいなかった。
だが、こいつが決意した英雄は、化け物に食らいつくどころか、食いちぎられそうだ。
「グリム!」
グリムの魔法が来る、それをまた軽い動きで避ける。
けどそれも何度も見てきた、対応して、追撃する、俺のターンだ。
「俺のターンだ……ってな」
俺の剣を持つ手を引くアンデットの手、踏み込んだところにちょうどできた落とし穴、そして、全てを見透かしていたクロンの一太刀。
「……っ!!」
すぐに回復する、だが、その間にもっと傷が増える。
「っ……おぁ!!」
突っ込む、自爆覚悟で。
俺の直進に、それでもまだ一歩前に進んで、俺を削り落としていく。
その隙に、グリムが攻撃をしてくれた。
あの剣で、切り裂いてくれた。
「……当たった!!」
だがあの不死身がごとき回復力のせいで有効打に……いや、回復しない?
「あいつの借りはもう返してもらったからなぁ」
質問に直ぐに答えてくれる。
それは俺の心が読まれているということ。
「傷がついたな、クロン!!」
けどそのおかげで付け入る隙があるということもわかった。
俺の自爆覚悟の攻撃にも、こいつは前身を続ける。
クロンの英雄は、止まらないのだろう、止まってくれないのだろう。
だからきっと、クロンを置いて、どこかに進んで行ったんだろう。
そういう心の表れ、だから心象詠唱で再現出来たんだ。
クロンの英雄、最強の英雄が。
でもそれは、一重に弱点にだってなりえる。
「……お……っらぁあ!!」
「っはは!また特攻か!?」
構え方がさっきと違う……流石に同じ手が二度通じるとは思って無かったが……!
「カル兄!!」
額ど真ん中にダガーをぶち込んできた。
これは……ヤバいな。
「……っぐ!」
けど、しっかりと動揺こそしているが、グリムは完璧に攻撃をしてくれた。
その完璧な攻撃にも、しっかりと受け止めて、流れるようにカウンター。
俺はその瞬間を文字通り見逃さない。
見ていた未来通りだ……!
「やっと攻撃を、受けたな!?クロン!!」
頭に穴が空いたままだが、時期に治る、今は無視して、俺もまた一歩突き進む。
一瞬、剣が届かない、クロンはそれならと蹴りをしてくるが、あいにく、どうやら体術に関しては俺と同レベル。
ならば、括った信念が、勝敗を分ける。
俺は命をかけている。
この戦いにじゃない、この一撃にだ。
だから、俺の方が強いんだ。
「……っは……ははっ」
足を切り飛ばす。
また一歩進む。
俺の方に振り向き直して、クロンが一歩前進しようにも、その足がない。
俺の方を向いたということは、グリムに背を向けたということ。
「『痣獅子』!」
グリムがクロンの背に、攻撃をする。
あれは……あぁ、あれが、グリムの、グリムだけの魔法。
「『白昼魔法』」
グリムの腕に走る白い光の痣が、獅子を象り、背を爪が引き裂く。
一瞬怯むことも無く、一歩進んだかのように、剣を突き出してくる。
「『悪夢魔術』」
足を、鷹のように変化させる。
クロンの腕を掴み、そして、引き寄せる。
未来は完全に見えた、俺が勝利して立っている未来が見えた。
クロンは剣を左手に投げて持ち替えて、俺に突き刺してくる。
首を少し曲げながらクロンの方に前進して、剣を突き刺す。
俺の耳に赤い線が走る。
しかし、クロンの胸には、赤黒い穴が出来る。
「……流石だな……英雄様」
そう言って、嫌にあっさりと崩れ落ちて消えていった。
こうもあっさりと消えていくと、それはそれで怪しく感じてしまう……クロンの前進は未だ止まっていないんだろう、俺の胸の中で、未だ前へ突き進んでいる。
「……クロン、やっぱり強いな、お前は」
「兄さん、お疲れ様……クロン、やっぱり強かったね」
英雄、彼の夢見ていた英雄になれたんだろう、だから、最後は……笑っていた。




