不死身の盗賊
「……っカルにいっ?!」
「遅いってんだよ!!」
「は!?」
胸の剣を抜いた瞬間、目の前にクロンが現れた。
「一発勝負だ!これで終わりだ!!」
そう言って、懐に隠していたらしいアイテムボックスを取り出した。
上半身と下半身はくっついて、傷なんて何も無い、万全のクロンがいた。
「英雄は!!耐えれるか!?」
そこから溢れ出したのは、大量の魔石。
それら全てに、あの罠と同じ異質な力を感じる。
「っぅ!!?」
避けようと、左に飛んだ。
「読んでんだよ!!」
左に急加速のジャンプ。
これは、さっきからの異常な身体能力と、心を読む力。
そして、俺に組み付いてくる
「さぁ!避けたってことは!喰らったらまずいんだよな!?」
多分まずい、そもそもこんな大量の攻撃が、クリーンヒットすることなんてまず無いから分からない。
「そうか!お前にもわからねぇか!?」
読まれてるな……!
瞬間、熱が全身を焼く、爆風と爆音に巻き込まれて、消し飛ぶ。
ヤバい……今までくらった中でトップクラスにダメージが重い。
けど、一番ダメージ喰らっちゃダメな所は何とか守った。
「……あっぶ……な……っはぁ……!!」
ココ最近で一番命の危機が迫ってきていた。
「……大丈夫!?カル兄!」
光魔法の精度は俺よりも随分上のようだ、傷がすぐに癒えていく。
自爆特攻、恐ろしい一撃だったが……何とか
「っあ……」
「……っへ?」
グリムの方を向く。
俺と同じで胸にダガーが刺さっている。
「……は?」
投擲した瞬間が見えなかった。
どこから……いや、これはまさか
「生きてるのか……!?クロン!!」
「俺の名を呼んだか!?英雄!!」
煙を、手を振ってかき消して、現れる。
傷一つ無いクロンの姿が。
「……な、なんで無傷……!?」
「俺に貸した借りを、今返してもらっただけだ」
「……何の話だ?」
「俺の固有スキルの話だ……そうだな、俺達の戦いはこれで終わりなんだ……きちんと解説してやるよ」
ヘラヘラと笑いながら、話を進める。
「俺の固有スキル、名を《盗賊団の絆》俺が何か『貸し』を作って、その『借り』を返してもらう、そういうスキルだ」
「……?それが……?」
話が見えてこない、不死身っぷりの説明にならない。
「俺にはその昔、最高の仲間たちがいた。
お前らからしたら、五千年前の奴らだな。
あいつらは、どうやら、俺に一生分の借りがあると考えてるらしくてな、その代償に、あいつらは、俺に『固有スキル』を返した」
「……ぁ……まさか!?」
「俺は今、5つの固有スキルを見せている。
そして、ついさっき使ったのは、6つ目。
そして、今から見せるのは……7つ目だ」
ニヤリと笑って、手を叩く。
止めないといけないと、体が動いた。
足が地面に沈み、現れたアンデットたちに動きを止められる。
「『始まりの言葉』」
その言葉を聞いた時、アンデット達を振り払おうとした俺は、動きを一瞬止めてしまった。
まさか……まさか!?
「『英雄に成るのは難しい』『代償を払わねば』『その代償に』『勇気を!』」
この次の言葉は、知っている。制約を!だ。
「『制約を!』『なりえた俺という英雄に!!』」
そう……この言葉を俺はどこかで聞いたんだ。
「《心象詠唱》『盗賊英雄団』」
次分を、描いた。
新章に、心に浮かぶそのさまを、そのままに描いて紡いで、形作った。
以前に諦めた様子だった英雄を、この人が求めた英雄像を。
この人が挫折した程のはるか高みの英雄が、今立っているのか。
「……やっぱり、英雄になりたかったんじゃんか、クロン」
「……るっせぇなぁ……俺だって、旅の始まりは凄く純粋だったんだぞ?」
バツが悪そうに、照れくさそうにそういった。
きっと、英雄譚クロン ウェイパー始まりの言葉は……
「『英雄になりたい』俺の夢は……俺の力じゃ叶えられない。
でも、だからこそ、俺は皆と英雄に成る。だから盗賊英雄団、1人じゃないぞ……!」
厄介だ。
前に戦った時よりも、目が輝いている。
凄く強いだろう、ああいう目をしている人は、皆揃って恐ろしいぐらいに強い。
だからこそ、俺は今心が踊っている、ワクワクが止まらない。
戦える、こんなに凄い人が、まだ完璧じゃなかっただなんて。
そして、この人は今でもずっと強くなって行っている。
迷宮の守護者、やはりみんな規格外の強さだ。
「……1人じゃない……か」
誰かの意志を背負っている、俺よりも沢山、俺よりも遥かに重くて、俺よりも沢山落としてきたんだろう。
でもだからこそ、この人は強いんだろう。
「……真っ向勝負だ……俺の、全力で行く」
地面から軽く跳ねた。
右手の刃を俺に向けて、距離を測るようにユラユラと、トントンと不思議な動きを繰り返す。
「……行くぞっ!」
地面に足をつけたと思ったら、溶けるように地面に沈んでゆき、特別早いとも言えない速度で詰め寄ってくる。
だが、油断はしない、英雄に成った、クロン ウェイパーが相手なんだ、そんな余裕はない。
「……来い……!」




