最終章開幕【カルカトス】
「……さぁ、始まるぞ………!最終章が……!!」
俺の英雄譚の、その最終章が……!
最後の最後、俺が百層へ至るその英雄譚。
だからこそ、英雄譚らしく、最後を綴るために、今までお世話になった仲間と共に行くのが『らしい』だろう。
「……って訳なんだ、どうかな?」
酒場の日当たりのいいテーブル……日は出てないけどな?で、酒を片手に話を聞くグエルに話を振る。
グエルにさんを着けなくなったのはいつぐらいだったかな……そうだ、俺たち同期組で飲んだ時以来か、あの頃はラングも生きてた……な。
「まぁ、あなたのロマンチズムに、あなたの英雄像に近い、らしい話ですね」
「……だなぁ俺もそう思う、ある意味では、らしい話だよな。
でも、我ながら虫のいい話だとも思ってるんだよなぁ」
そういうと、口に少し泡をつけたまま話し始める……すこし意外だか、この人はそう言う人でもある。
「……あなたって人は……私があえて触れようとしなかった話に……」
「……まぁ、言わないのもなんだしな……」
あの話、というのは戦争の話だ。
人の首を跳ね、国の中で暴れ回ったのは間違いなく俺の仕業。
けど、六罪の、おかげとも言える行動のおかげで、俺のことは、頭から離れてくれていた。
いや、正確には離れていないだろう、被害にあった人の家族には忘れられるわけがないだろう。
だが、俺が一人一人歩いて回ることも出来ない、行動を示し、それを謝罪とする……つもりだ。
そんな俺が、人々に称えられるような、そんな英雄に、迷宮の……『大迷宮』の……いや!
「『大迷宮の英雄』になるって言うのは、ある種の、謝罪の形にもなるし……なによりも」
「……君の夢、だからね」
俺の呼び方が、あなた、でも敬語でもなくなってきた、酔ってきたし、俺の話にも肩を入れてきた証拠だ。
「……だな」
無言で乾杯をした。
「で、俺の話、受けてくれるか?」
「もちろん!あ、おにーさん、麦酒もう一杯!」
「あ、俺も……ありがとう、グエル」
オーダーして直ぐに届いた……ほんと、1秒で届いた樽のジョッキ。
グエルも、前までは両手で持っていたジョッキを片手で持てるレベルに身体は強くなったが、それでも酔うとふらつくのか、両手で持つことが多い。
「……っはー!!いいのよ、感謝なんて!私だって、あの十層の日のこと、片時だって忘れてないわ」
肩肘を着いて、少し前かがみになって、思い出すように話し出した。
「あの人の……アライト ワクレフト、彼との出会いは、私を……私たちを大きく変えた。
魔族や、他種族への考え方が大きく一変しました、あの戦争で、私たちはただ戦いに巻き込まれた人たちを救う活動を続けて、今では他種族入りまじる学校で先生を……」
そしてまた酒を飲み始める。
「それに、あの日君の横腹を貫かれたとき、君が呪いに犯されたと聞いた時、傷一つ治せなかった私と違ってバンクさんたちや君の持ってきたポーションがないと……だから私は、解呪も、ちょっとだけなら治療もできるように、新しく学び直したりして……」
そして酒をまたグイッと……あ、真上向いた、無くなったな……俺のを少し押して目であげると言った。
「あ、ありがと……で、師匠ともめぐりあえたのは君のおかげだし……あまり同期のみんなと関わりがなかった私を飲みに誘ってくれて、そこからあの二人と深く知り合ったし、皆が成長してて、私もおちおちしてられないなって、頑張る動力にもなった。
感謝してるよ、カルカトスには」
そう言ってついに話し終えた。
俺と同じ黒い髪、それを着いた肘を浮かしてかき分けた。
「そうまで言って貰えるの……照れるな……」
「……英雄になったら、きっと毎日言われるよ、サクラだってそうだし……あの人は尊大だから何処吹く風……って様子だけどね」
そう言いながらも、ニヤニヤしている……わかってるんだろうなぁ
「……まぁ、あいつはああ見えて……」
「ああいうの素直に喜んじゃうんですよねぇ!!」
「っだよなぁ!!あいつめちゃくちゃ人間大好きだからな!めっちゃ口緩んでるしさ!!」
俺もグエルも少し立ち上がって話が盛り上がった。
その後、潜る日の日程を擦り合わせて……酔いながらだがな、をしてグエルを家へ送った。
俺らこの酔いを覚ます方法を知っているけど……最近はずっと酔ったままだ、酔ってる間は、人間だから、お酒は好きだ。
キメラが酒に酔えるはず、ないからな。
木の上に寝転がり朝を迎えた。
いつの日かの、ネルカートに初めて入った日のように、宿すら頼まず木の上でぐっすり眠って朝を迎えた。




