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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、誰よりも勇敢な者だと自分を鼓舞できる者だ
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英雄竜

「……いいねぇ、いい顔だァ……俺は、弱いからな」


 ザクラが笑えない冗談を言う。


「俺は守護者だから、圧倒的に強くないといけない。

俺はドラゴンだから、圧倒的に強くないといけない。

俺は竜王だから、圧倒的に強くないといけない。

俺は英雄なのだから、強くないとダメなんだ」


 強さへの執着心。

ふらっと体制が揺れる。


「私達二人を相手によくここまでやった方だと自分を褒めてやるといい」


 そういうと、ニイッと口の端を吊り上げ


「馬鹿言え」


 そう悪態をつく。


「サクラ!これに勝ったやつが!英雄だ!」


「……ほぅ」


 私の夢そのもの。

一時は目標に過ぎなかった、ただの理由、力の証明、自分の復讐を成功させるため、自信を与えてもらえるだけの肩書きが欲しかっただけだった。


 しかし、復讐を終え、人々に信頼と経緯を払われるような一人になった時、酷く英雄に憧れる気持ちが生まれた。

カルカトスがなぜ求めていたのか、何となくわかった気がする。


「……いくぞ」


 ゆっくり、歩いてくる。

地面に手を突っ込む、そして、一本の大剣をどこからか引きずり出す。


「……最後は、剣か」


 左手の剣を構え、笑う。

熱くなってきた私を、ずっといい温度にしてくれるカルカトスに感謝をして、前へ走る。


「満身創痍の貴様で、相手がつとまると思うなよ!!」


 私はそう言いながらも、最高の敬意と最高の警戒心を胸に抱きながら、切りかかる。

私の剣を弾くそのやつの剣は、早かった、重かった。

腕の剣が腕諸共吹き飛ぶのではないかと錯覚するほどに。

どうしてこいつは今になってもずっと……いや、前以上に強いのは、なぜなのだろうか?


 それは、敗色濃厚の戦いに『勇気』を抱いて戦う勇敢なる者なのだからだろう。


 だが、それなら私だって負けてやれない。

カルカトスが背中にいる、クレイアが私を見ている。


 そして、恐らく私が死ねば、クレイアも死ぬだろう。


「負けてっ……たまるかぁ!!」


 ザクラが吠えて、さっきよりも一歩距離を詰めてきた。

大剣を振るにはあまりにも向いていない間合いに自分から入り込んできた。


 瞬間、爆破した。

胸の辺りからやつが弾けた。


 その爆破を喰らい、腹や胸の辺りに熱いやけど。

しかし、吹き飛んだ私をカルカトスの楽園が優しくキャッチし、焼けた服の代わりにクレイアが鎧を作る。


「……死んでやるもんか……ァァ!」


 私も、また更に前へ進んだ。

剣をまっすぐ突き刺そうとした。

相手に刺さりはしたが、以前に刺したところをまたも刺しただけ。

ダメージはさっきほどじゃない。


「スキあり………だ!」


 口を開く、恐らくブレス、さっきのふざけた勢いのブレスだろう。


「私を……舐めるなよ!!」


 腹に刺した剣ごと持ち上げて、頭から叩きつける。

頭だけが楽園に沈み、ブレスも全てなかったことになった。


 私には、戦いを決めるド派手で一撃が強い技をもちあわせていない。


 だから、できるのはたった一つのこと。

正面から、泥臭く、地味に、剣で叩き伏せる。

頭を引き抜いて、剣を構えて覚悟を決めた顔の私を見て、察する。


「……いいねぇ、わかったよ、受けて立つ」


 両手で剣を持ち、まっすぐ構える。


「感謝する」


 私は左手を右手で支えて、このまま戦いが終わる用に祈った。

命を賭けた、私の命……そして愛する人(クレイア)好敵手(カルカトス)の命も賭けた。


「行っグッぜぇ!!!」


 ガラガラの喉が、叫んだことでさらに枯れていた。

私が狙うのは、カウンター。

カルカトスは、察してくれているから、楽園は温度を下げてくれない。


 一瞬の時だけ、爆発したい。


 まっすぐ飛んできた鋭くて、今までの何よりも早い、重い、強い一撃。


 私はそれを……避けもしない、受けもしない。

攻撃も中断しない、飛び込もう私なら……死にはしない!


「ッォラアァ!!」


「っはぁぁっ!!」


 私の肩に刃が当たる、それが少しだけめり込んで止まる。

私の動きは、止まらない。


「神速!!」


 この為に貯めに貯めた熱を一気に放出して、神速も使って、身体が動く。


 私の体から出る蒸気は、桜の色をしていた。

そして、その蒸気を置いていって、下から切り上げる。


 奇しくも、お互い竜の姿をせずに、戦いが終わった。


 奴が忠誠を誓ったのは、人と同じような見た目をした魔王や魔族

私が憧れたのは、人と同じ見た目をした人間。


「……私の……勝ちだ!」


 グラッと視界が回った。

いや世界が回ったように私は見えたね。


「……サクラ グランド……お前が……英雄だ!」


 意識が途切れる瞬間、ザクラがそう叫んだ。

意識が飛びそうな中、何とか言葉を絞り出した


「……貴様もまた、私の英雄譚にその名を綴ろう」

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