覚醒彗星
「……『遅いな』」
私が鼻で笑い、言葉を吐く。
瞬間、横から黒い彗星が飛んでくる。
こいつは、いつから戦う相手が私だけだと思っていた?
こと迷宮においては、私よりも強いと認めざるを得ない男が、ここに至るまでの英雄を倒した男がすぐそこにいるというのに、なぜお前は……私以外が見えなかったのか。
それは、いまだ捨てた竜王の伯に足を引っ張られているからだ。
「っ何だ今の!?『速いな』!!」
蹴りをプレゼントしようとしたザクラ、その無防備な腹に、容赦ないカルカトスの蹴り。
「遅くて悪かったな、こっちも準備に手間取った。
追いつけた、ほんの少しだけだが、追いつけたよ」
背中の肩甲骨あたりに、小さな噴出口のような部位を指さして笑う。
「……まるで厄災竜王だな」
「……っはは、まぁな、真似したことがあったから」
「っはは!お前らそういうことか!2人で!俺に勝つんだな!?」
「あぁそういうことだ……おい、カルカトス」
「……なんだ?」
「二度は……いや、二度と言わん、心して聞け……私を助けろ」
その言葉に驚いた顔をしたあと、私の背中に手をつける。
「任せろ」
瞬間、身体の熱が冷めていく。
聖魔法でも直せないこの昂りが、沈んでいく。
しかし、冷えるわけじゃない、私の最高温度を、最高温度を、維持してくれる。
「……サクラ!手始めに、アレで攪乱だ」
「……撹乱に使うには、いささか豪華すぎるが……構わん」
「っはは!何をやるんだ!?いいぜ!やってみろ!」
どうやら待ってくれるらしい、それならば、ゆっくりとしようか。
「アレだぞ?桜魔法だぞ?」
「……貴様いつの話をしている、私のそれは『桜魔法』に名を変え、それの上位の……」
そう言ってクレイアに振る。
「あ?私?……そして、それの上位の『桜結晶魔法』が最強よ!」
「……お前も進化してたんだなぁ……っし!やろうか!俺と……俺たち3人で!共鳴魔法だ、いっその事、これで倒そう!」
共鳴魔法など、そんなにやったことがない……いや、桜結晶魔法は、そうなのか?
「……『たとえ悪しくも聖女であり』『聖なる桜は咲き誇る』」
次にクレイアが継ぐ。
「『紫色の結晶も』『あなたの色に今は染る』」
カルカトスが、継ぐ。
「『悪夢の中に一閃』『露払い夜に咲く』」
そういった後、スゥッッと息を吐き、その詠唱に、賭けた、込めた、その代償は、時間と……他にも何かを出した。
「『悪夢魔術』!!」
「《秩序を乱す紫水晶》!」
「『聖桜魔法』!!」
魔法の名前なんて、決めてなかったのに、全員同じ魔法の名前を叫んだ。
「「「『共鳴魔術』〈英雄へ花束〉」」」
桜の木、じゃなくて、小さな花束。
華の形や香りは桜。
花びらは結晶で、色は桜色。
聖魔法らしい、神聖な雰囲気のブーケをトスする。
ザクラはそれに顔を顰め、すぐに回避を試みた……しかし、聖魔法、そのベースは果てしなく邪悪なアイツ。
体は、誘われるようにブーケの方へ行ってしまう。
瞬間爆ぜる。
性質は、私の魔法、桜爆花。
そして、その桜色の光の中から、黒煙が上がる。
「……フィールドは、貰った……まぁ、終わってねぇよな?」
カルカトスの、その支配的な力が、場を掌握する。
爆煙が消える頃、膝を着いて、しかしこちらへ視線を送るザクラがたっていた。
「すっげぇ魔法だ……こんなの、ネーヴェでも滅多に出さないぞ」
しかし、まだまだ戦えそうなその体、どんな耐久だ?
「『精霊魔術』〈星激黒百合〉!」
上に掲げた手をカルカトスが振り下ろす。
以前に見たものとは違って、赤黒い雨が降り注ぐ。
「……っあぁ?」
私にもかかるが……ただの水のように感じる……?
「っぐ!?」
瞬間、ザクラが拿捕されたかのように腕を伸ばす。
「……さぁ、このフィールドは……貰ったぞ〈最後の楽園〉」
派生するように、その魔法をつぶやく。
それは、地面を自分の血で染めて、初めて使えたはずのもの。
これは……カルカトスの血か?
「っはは!いいねぇ!」
ブレスを吐いてくる。
規模が段違いだ、私たちの前に炎の壁が作られた。
「行けるか!?カルカトス!」
「お前こそ!」
口の減らない奴は、地面に沈む、それがあったか。
私は気合いで突き抜ける。
一切吐き終えるつもりのなさそうなブレスの中を、突っ切る。
そして、目の前に着いた瞬間、ブレスが止んだ。
そして、拳を思いっきりふりかぶるザクラがそこにいた。
その拳はザクラの背後から現れたカルカトスが腕を引いたせいで、ズレた。
私の首の左側がゴソッと吹き飛ばされた……が
「重いぞ」
カルカトス諸共、思いっきり串刺しにする。
カルカトスがそうしろと言っている気がした。
「……っまだだあぁ!!」
しかし、突き刺さった剣を無理やり引き抜いて、体が横に裂けながら、後ろに飛んで行く。
「いいぜ!これが最後だァ!!九十層の試練!それは!ここで終わりだ!!」
笑う、不死身としか思えないあいつにも、そこが見えてきた。
カルカトスは……フラフラだな
「無理なら、休んでろよ」
「……サポートに徹する……楽園から離れるな」
この足元の血のことか……
「了解した、任せたぞ」




