勝機【サクラ】
「……負ける気がしない、か?」
そういった私の言葉が気に障ったのか、下を向いてプルプルと震える。
「っははは!そりゃお互い様だ!俺だって負ける気はしないねぇ!!」
いや、ただ笑っているだけだった。
竜王、5000年前の最強の魔王の下に使えた四天王。
「……まぁ、貴様ならそういうだろうとは思っていたがな……おいカルカトス!私に任せてくれないか!?」
そういうと、カルカトスは何かを言おうとしていたが、私がそれよりも先にまた走っていく。
尾を地面にたたきつけて、自分を鼓舞しながら、前へ進む。
「行くぞ!」
まだ私は、立ち向かう方、だがそれでいい
待ち構えるやつよりは、よっぽど勇敢だ。
「っはは!あぁ!もう一回来い!」
突き進む、そして、立ち塞がる竜王を切り伏せる。
今までの私たちがしてきたことと何ら変わらない。
剣を振る、それは上手くやつの体を切り裂いた。
しかし、今度はやつも、ダメージ覚悟のカウンター、傷をものともせずに、なんなら直ぐに治っている?
その万全の身体での、尾を振る攻撃。
私もダメージ覚悟で身を固め、鱗を生やした……が
「っらぁ!」
カルカトスが間に割り込んで、攻撃を受け止める。
「一人で、行かせると思うなよ。
俺とお前は、2人でここまで来たんだ、なのに、俺だってこいつと戦いたいのに、お前だけいい所やれるかよ」
そう言って笑っている。
こいつは、ここに来るまでに、私を守ってきてくれた。
こいつの操る変な剣術は、私を守ってきてくれた。
クレイアだってそうだ、私は1人でここまで来たわけじゃない、それは分かっている。
でも
「……わかった、だが、なぜなのかは分からないが、こいつだけは、私が倒さないといけない気がするんだ。
いや……私以外に倒せない、とも言えるかもしれない」
「……は、はぁ?」
「……いや、気にするな……」
「いや、お前がそう言い切るなら、多分そうなんだろう。
なんでそうなのかは分からないけど、迷宮に理由を求める方が馬鹿だ、今までの守護者にだって、俺にしか倒してやれないやつがいた」
なるほど、この感情は何も、私が初めて抱いたものでは無いのか。
ならば、私の思い浮かべるこの感覚に、しっかりとした理由の裏付けができているような気がして、少し安心した。
「……クレイアは私のサポートを、カルカトスは私の盾になってくれ」
「任せて〜」
「……はぁ、わかったよ、ならお前は?」
「無論、敵を打倒す剣だ」
「チーム内の役職わけはできたか?よし、なら俺も行くぜ!」
向こうの方から、走ってくる。
それを、受け止めようと、クレイアが水晶の壁を作り出す。
一瞬止まったが、次の瞬間には、簡単に破られる。
こいつは、別段すごい魔法を覚えているわけじゃない。
厄介で変な固有スキルも、まだ見ていない。
恐らくこいつは、単純なフィジカルと、身体能力にものを言わせた戦い方こそが、最も力を発揮するのだろう。
こいつの動きに、決まった方はない、命をかけた戦いの中で、のびのびと、自分の戦い方を確立して、しかもそれに命を預けている。
「サクラ!なんかこいつすげぇ戦いずらい!っぐ!」
自由形とでも言うべきかその戦い方に、カルカトスは終始翻弄されている。
守ったのなら、守っていない方向から攻撃をしよう。
そんな単純明快で、だからこそできないことを、こいつはいとも容易く行っている。
そしてその攻撃に、食らいつく、常に成長し続けるカルカトス、こいつが盾ならば、こいつの後ろにいたら私に攻撃はきっと届かない。
でも、それじゃ、私の攻撃だって届かない
それに、こいつは無限に成長するが、相手の手数は無限、自由なのだ。
いつか、カルカトスが潰れる。
「どけ、バトンタッチだ」
「……っ悪い……」
肩を引いて、後ろに投げ飛ばしながら入れ替わる。
短い謝罪の言葉に、こちらこそそう言いたい所だ。
「よくも私の仲間を傷つけてくれたな、ザクラ」
私は、嫌に落ち着いていた。
自分でも、そんなに落ち着いているのが、おかしい程に。
「……アツイな、サクラ」
でも、私の体は、上がっていた。
地面も、少し溶け始める。
「……あぁ、私だからな」
そう言って、拳を握る。
一歩一歩前へ進みながら、詠唱する。
「『世界の夜明けを迎える者は』」
私の固有スキル、その詠唱をする。
ザクラも笑いながら、口を開く。
「『世界の夜明けを今迎えた』」
「『その代償に勇気を求めた』」
「『代償は冷たくて痛かった』」
「「『前に進むのは取り返す為に』『そう我こそは』」」
合流した。
「「《勇敢なる者》」」
同じ名前だった。同じ力だった。
歩く速度は、上がった。
人の姿のまま、猛攻を防ぐ。
より鋭く重く、早くなったその攻撃、それらを全て押しかえす……どころか滅茶苦茶に突破するなんて、無理だ。
だが、私の能力は『無理を押し通す力』そのもの、無理なことを遂げてこそ、英雄だ。
「……上げてくぞ」
両手を弾き飛ばし、刃を振るう。
奴を、圧倒できている、多分ずっとこのまま行こう。




