世界最深部のぬくもり【カルカトス】
「……っお?」
グラグラと、揺れた、それで目が覚めた。
「あぁ、やっと起きたか」
サクラが俺の事を揺すっていたらしい。
「ったく、キメラとは、難儀なものだな聖魔法が効かん」
「俺も、使えたら使いたかったよ」
白魔法は効果が聖魔法よりも弱いからなぁ。
「……勝てたんだな、世界樹」
「あぁ!実に恐ろしい敵だった、しかも二連戦だった」
「二連戦?ちょっと話を聞かせてくれよ」
そいつの話は実に興味深かった。
ミーヤと初めに名乗ったイグ=ドラ、その名前は初代勇者、ココアのパーティーメンバー、そして今なお続く高貴な血族の原点、ミーヤ ノエルというエルフの名だった。
「……しかし、お前も勇者ココアを知ってたとはな」
「クレイアが教えてくれてな、生の情報だ、羨ましいだろ?」
とんでもなく羨ましいが、口に出すと悔しいので、スルーする。
八十九層も、これにてクリア、次はこの迷宮の守護者と会える。
「なぁ、サクラ、やっぱりわかんないか?」
奮発して作ったスープを飲んだあと、サクラに問いかけると、ジトッと見られ
「……くどい奴だな、その質問が何度目か数えておいてやろうか?私にもわからん」
その質問の内容が何かを伝えなくても答えが返ってくるほどに、何度も聞いた問いというのは
「やっぱり?……九十層の守護者……〈九十層の守護者〉は、誰なんだろうか……」
「……私から言えるのは、ドラゴンであろうということ。
そして、竜王を超える存在であるということ。
ジェルクリアは最高の才能の持ち主
ジャヴァロンは最悪の時代の首謀者
カルラ・ド・ボルテは災厄であり厄災
そんな彼らよりも強いとされる存在は、恐らくない」
サクラが、そう自信満々に言い放った。
「……けど、この下にもう一体、いるんだろ?ドラゴン」
そういうと、サクラも俺も、またも唸る。
「……っうぅーん……あ、私とか?」
「……有り得なくはない……お前は確かにそれぐらい強いが、ここにいるからなぁ?」
そんな当たり前のことを、さも新たな発見かのように口に出す。
「……なら、だ。
なら、誰だろうな?」
「……俺が今度は答える側か?」
「……今から待ち遠しくてな、あとはここで寝るだけ、なのにその数時間、そいつに会えないのがものすごく歯がゆい」
「……だろうな、お前は、英雄竜になることが目標だったんだろ?」
「あぁ、私の念願の復讐もついに果たした。
そして今は、ギルドマスターサクラ グランドというのが中々楽しい、当分は、ずっと私はギルドマスターだろう」
「……もう、お前は立派な英雄だよな」
「……っはは!貴様は未だに戦争のことを引きずっているからな!」
「そりゃあ、な。
俺の人生トップ3に入りかねないほどの決断だったからなぁ。
人としての、全人類から賛美されるような、利口な英雄はもうやめにして、人から恨まれてもいい、俺を迎えてくれた人たちの英雄にさえなれれば……なんて考えていたのに、それで俺は沢山殺したのに、今や俺を迎えるムード」
「……はっきりいって少し不気味に感じるかもしれない。
だがしかし、人々はそれを求めている。
元々かたちの違うものがひとつになったんだ、きっと、その歪さに、違和感を覚えるやつもいるだろう。
でも、私たちはあの8人の英雄たちのことを忘れてはダメだ
あいつらが求めたのは、やり方はどうであれ、世界平和。
なら、今後あんな奴らが出てこないように、そんな世界を目指して、今歩き始めたところなんだ。
道は今から舗装しよう、踏み鳴らして平らにしよう、皆で」
そう熱く語る、俺も……同じ意見だと言える。
「……意外だな、お前がそんなことを言うようになるだなんて、一体誰が予想出来たんだろうな?
俺とお前の出会い方は最悪だった……そうだよな」
「……まあ、少なくとも、視界に入ることは、ほとんどなかった」
「俺は、迷宮に潜って強くなって、自分をゆっくりと理解して行った」
「……私は、人々を理解しようと歩み寄り、守るための強さを身につけた」
「……俺たちは、不思議なぐらいに真逆だよな。
俺は、自分がキメラであることは、利用出来る素晴らしい点だが、同時に、人の形をしただけの化け物であるという事実は変わらない、そんな自分が少し嫌になる時はある。
でもお前は、自分という種族に、いや、自分に自信をもてていたよな」
「英雄の子が、弱気なわけがなかろう」
こいつのことを、俺は中々嫌な奴だと思っていた。
だがそれと同じぐらい、いやそれ以上に、こいつが羨ましくて、こいつを尊敬していた。
周りを見て、今や自分が大きく変わって成長している。
俺がこいつに抱く感情は、きっとこいつの方も抱いてくれているんだろうと、何故か確信できた。
だからこそ、俺たちは八十九層なんて、全陣地未踏の、遥か最深部で笑い合える。




